monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

「さあお」という単語

2019年08月23日 | 日本国語大辞典-さ行

 「青いこと」を意味する「さあお」という単語は日本国語大辞典・第二版には立項されていませんが、以下のとおり複数の用例があります。(古い順に挙げます。)

蒼青(さあを)なる月の光は その上に夜は愁へむ、
(廃園遺珠、幻想)
『三木露風全集 第3巻』三木露風全集刊行会、1974年、574ページ

浮びいづるごとくにも その泳ぎ手はさあをなり
(「游楽」)
『詩歌』第四巻第七號・大正三年七月號(1914年7月1日)白日社、42ページ

 いよよさあをに
わがかなしみは
そのままに あらしめよ
わが胸に生(お)ふる草 しげらせよ
わがみは いよよきよらかに
いよよ さあをになりゆかむ
(「いよよさあをに」)
『《限定版》大手拓次全集 第三巻(詩Ⅲ)』白鳳社 1971年、246ページ

あかときの さあをなる闇(やみ)
(「梢の上の鳥の歌」)
『《限定版》大手拓次全集 第三巻(詩Ⅲ)』白鳳社 1971年、391ページ

くちびるをさあをにぬらしふえをふかうよ
(水底吹笛)
『大岡信著作集 第三巻』青土社、1977年、181ページ

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大手拓次「薔薇の散策」

2019年08月02日 | 読書日記

薔薇の散策


こゑはこゑをよんで、とほくをつなぎ、香芬のまぶたに羽ばたく過去を塗り、青く吹雪する想ひの麗貌を象(かたど)る。
舟はしきりにも噴水(ふんすゐ)して、ゆれて、空(そら)に微笑をうゑる。みえざる月の胎児よ。時のうつろひのおもてに 鏡を供へよう。


地上のかげをふかめて、昏昏とねむる薔薇の唇。


白熱の俎上にをどる薔薇、薔薇、薔薇。


しろくなよなよとひらく あけがた色の勤行(ごんぎやう)の薔薇の花。


刺(とげ)をかさね、刺(とげ)をかさね、いよいよに にほひをそだてる薔薇の花。


翅(つばさ)のおとを聴かんとして 水鏡(みづかがみ)する 喪心(さうしん)のあゆみゆく薔薇。


ひひらぎの葉(は)のねむるやうに ゆめをおひかける 霧色(きりいろ)の薔薇の花。


いらくさの影(かげ)にかこまれ 茫茫とした色をぬけでる 真珠色の薔薇の花。


黙祷の禁忌のなかにさきいでる 形(かたち)なき蒼白の 法体(ほつたい)の薔薇の花。


欝金色の月に釣られる 盲目(まうもく)の ただよへる薔薇。

10
ひそまりしづむ木立(こだち)に 鐘をこもらせる うすゆきいろの薔薇の花。

11
すぎさりし月光にみなぎる 雨(あめ)の薔薇の花。

12
吐息をひらかせる ゆふぐれの 喘(あへ)ぎの薔薇の花。

13
ひねもすを嗟嘆する 南(みなみ)の色の薔薇の花。

14
火のなかにたはむれる 真昼(まひる)の靴(くつ)をはいた 黒耀石(こくえうせき)の薔薇の花。

15
くもり日(び)の顔(かほ)に映(うつ)る 大空の窓(まど)の薔薇の花。

16
掌(て)はみづにかくれ 微風(そよかぜ)の夢をゆめみる 未生(みしやう)の薔薇の花。

17
鵞毛(がもう)のやうにゆききする 風(かぜ)にさそはれて朝化粧(あさげしやう)する薔薇の花。

18
みどりのなかに 生(お)ひいでた 手も足も風にあふれる薔薇の花。

19
眼(め)にみえぬ ゆふぐれのなみだをためて ひとつひとつにつづりあはせた 紅玉色(こうぎよくいろ)の薔薇の花。

20
現(うつつ)なるにほひのなかに 現(うつつ)ならぬ思ひをやどす 一輪のしづまりかへる薔薇の花。

21
眼(め)と眼(め)のなかに 空色(そらいろ)の時(とき)をはこぶ ゆれてゐる 紅(あか)と黄金(こがね)の薔薇の花。

22
朝な朝な ふしぎなねむりをつくる わすられた耳朶色(みみたぶいろ)のばらのはな。

23
かなしみをつみかさねて みうごきもできない 影と影とのむらがる 瞳色(ひとみいろ)のばらのはな。

24
ゆたゆたに にほひをたたへ 青春を羽ばたく 風のうへのばらのはな。

25
陽(ひ)の色(いろ)のふかまるなかに 突風(とつぷう)のもえたつなかに なほあはあはと手をひらく 薄月色(うすづきいろ)の薔薇の花。

26
またたきのうちに 香(か)をこめて みちにちらばふ むなしい大輪のばらのはな。

27
はだらの雪のやうに 傷心の夢に刻(きざ)まれた 類のない美貌のばらのはな。

28
悔恨の虹におびえて ゆふべの星をのがれようとする 時をわすれた 内気な内気な ばらのはな。

29
魚(うを)のやうにねむりつづける 瀲灔(れんえん)としたみづのなかの かげろふ色のばらの花。

30
白鳥(はくてう)をよんでたはむれ 夜の霧にながされる 盲目(めしひ)のばらのはな。

31
あをうみの 底にひそめる薔薇(ばら)の花 とげとげとしてやはらかく 香気(にほひ)の鐘(かね)をうちならす薔薇の花。

32
けはひにさへも 心ときめき しぐれする ゆふぐれの 風にもまれるばらのはな。

33
あをぞらのなかに 黄金色(こがねいろ)の布(ぬの)もて めかくしをされた薔薇の花。

34
微笑の砦(とりで)もて 心を奥へ奥へと包んだ 薄倖のばらのはな。

35
欝積する笛のねに 去(さ)りがての思慕をつのらせる 青磁色のばらのはな。

36
さかしらに みづからをほこりしはかなさに くづほれ 無明の涙に さめざめとよみがへる薔薇の花。

(『《限定版》大手拓次全集 第二巻』(白鳳社、昭和45年)より)

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