春 シャルル・ドルレアン (矢野目源一郎訳)
風や冬枯(ふゆがれ)氷雨(ひさめ)の衣袍(ころも)
春立つ今日は脱ぎすてて
光のどけき春の陽を
綾に織りたる袖かざす
鳥も獣もおしなべて
悦び唄ふ声合せ
風や冬枯氷雨の衣袍
春立つ今日は脱ぎすてて
小川 池水(いけみづ) 行潦(にはたづみ)
飛び散る水の金銀を
揃ひ衣裳の目も彩(あや)に
いづこも春のよそほひと
今日脱ぎすつる冬衣(ふゆごろも)
(「世界詩人全集24 世界名詩名訳集」新潮社、S43年)
春 シャルル・ドルレアン (矢野目源一郎訳)
風や冬枯(ふゆがれ)氷雨(ひさめ)の衣袍(ころも)
春立つ今日は脱ぎすてて
光のどけき春の陽を
綾に織りたる袖かざす
鳥も獣もおしなべて
悦び唄ふ声合せ
風や冬枯氷雨の衣袍
春立つ今日は脱ぎすてて
小川 池水(いけみづ) 行潦(にはたづみ)
飛び散る水の金銀を
揃ひ衣裳の目も彩(あや)に
いづこも春のよそほひと
今日脱ぎすつる冬衣(ふゆごろも)
(「世界詩人全集24 世界名詩名訳集」新潮社、S43年)
草は手(て)をのばし、大地はこゑをひそませる。すべては、うすいろの若(わか)やぐ笑ひをはびこらせて、あをじろい月光(げっくゎう)のおとし子をはらむではないか。樹(き)のうへにおよぐ魚(うを)のすばやさは、点点としてながれさる木(こ)の葉(は)の命(いのち)をかもしそだてて息(いき)ぐみ、よそほひを凝らしながら眼(め)をよせる女の指に不思議のにほひをふるはせる。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、446p)より「季節題詞」)
大空のひびきは、あゆみをはこんで二月のよそほひをつくる。やはらかな白天鵞絨(しろびろうど)のやうな手のなかにつめたく咲いてはこぼれてゆくさびしい花びら。二月よ、二月よ、おまへのつつまれたあわゆきいろの肌は、限りない秘密の瘴気(しゃうき)を吹いて胸をときめかす。ああ、二月は面(おもて)をふせた恋のうしろすがたである。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、446p)より「季節題詞」)
さやかなるひかりのかぎろひのつちに芽はのびゆき、うつつににほふ月の夜の狭霧の肌をすべすべとおよぐ若やぐ心のひとむれ。それは根笹の雪のゆれおちるおとのやうに、うすものにつつまれて旅立ちゆくみどりの行者か。たはむれ、さざめき、かがやき、見知らぬ果の断崖にとびたつ巣立の鳥のかろい羽ばたき、またうらわかいをとめの乳房のつつむとほい夢のこゑである。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、445~446p)より「季節題詞」)
あやしい異香のかをる枕に夢魔をまねきよせ、みどりの柳をふとらせ、ねむりながらにレモンティの優しさに手をのばす。されは古びたランプの思ひ出に糸をつなぎ、さまざまの草花をうゑ、かぎりなくのびひろがる蘆(あし)のひともとに至上の鍵をほのめかし、遠くきこえる香料に、今更ながら幻想のけむる象牙の手鏡を持ちそへる。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447~448p)より「季節題詞」)