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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 春 櫻・桜・さくら

2013年02月24日 | 日本古典文学-春

題しらす 衣笠内大臣
春霞たつをみしより御吉野の山の桜をまたぬ日はなし
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

長楽寺にすみ侍けるころ、二月はかりに人のもとにいひつかはしける 上東門院中将
おもひやれ霞こめたる山里に花まつほとの春のつれつれ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 御製
桜花今やさくらんみよしのゝ山もかすみて春雨そふる
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

桜を 中納言家持
春雨にあらそひかねて我宿の桜の花は咲そめにけり
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

菅家万葉集の中 よみひとしらす
浅みとり野へのかすみはつゝめともこほれてにほふ花さくらかな
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

花十首歌よみ侍けるに、山花 深心院関白前左大臣
なかめやるよもの山辺も咲花のにほひにかすむ二月の空
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

うちの大まうちきみの家にて人ひとさけたうへて歌よみ侍けるに、はるかに山さくらをのそむといふ心をよめる 大江匡房朝臣
たかさこのおのへの桜咲にけりと山のかすみたゝすもあらなん
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

花御歌の中に 伏見院御歌
枝もなくさきかさなれる花の色に梢もをもき春の曙
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

たぐひなき花をし枝に咲かすれば櫻にならぬ木ぞなかりける
(山家集~バージニア大学HPより)

円融院御時、三尺御屏風に、花の木のもとに人ひとあつまりゐたる所 かねもり
世中にうれしき物はおもふとち花みてすくす心なりけり
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

三井寺の前を過けるにふるともしらぬ春雨のかほにほろほろとかかりけれはしはらく立よりはれまをまたむとおもひてこんたうのかたへ行程にしやうこゐんの御房の庭に老木の花のいろことなる梢かきにあまりてみえしはるかに人家をみれは花あれは則入といふ詩のこゝろにひき入られて門のかたはらに立よりたれはよはひ二八はかりなるちこのすいきよかんにうすくれないゐのあこめかさねてこしのまはりほけやかにけまはしふかくたをやかなるか人ありともしらさるにやみすのうちより庭に立出てゆきおもけに咲たる下枝の花を手折て
 ふるあめにぬるともおらん山桜雲のかへしの風もこそふけ
とうちなかめてはなの雫にたちぬれたるていこれも花かとあやまたれてさそふ風もやあらんとしつこゝろなけれはおほふ計の袖もかなと雲にも霞にもかすへきこゝちなとしけるに(略)
(秋の夜の長物語~バージニア大学HPより)

 弥生になりて、咲く桜あれば、散りかひくもり、おほかたの盛りなるころ、のどやかにおはする所は、紛るることなく、端近なる罪もあるまじかめり。(略)
 御前の花の木どもの中にも、匂ひまさりてをかしき桜を折らせて、「他のには似ずこそ」など、もてあそびたまふを、(略)
(源氏物語・竹河~バージニア大学HPより)

さくらの花のちるをよめる きのとものり
久かたの光のとけき春のひにしつ心なく花のちるらん
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

ながめもつきぬ四つの時。ながめもつきぬ四つの時。山又山を尋ねん。
これは此あたりに住居する者にて候。さても四季折々の眺にも。とりわき春の花盛。言葉も尽きぬ景色にて候ふ程に。山めぐりせばやと存じ候。
四方の山霞は春のしるしとて。/\。のどかに通うふ風までもよぎて吹くらん桜咲く。梢はそれとしら雲の。花にめがれぬ心かな/\。急ぎ候ふ程に。春の山辺に着きて候。暫く此花の蔭に休まばやと存じ候。
(略)
さん候四季折々の眺といへども。取りわき春の花盛。言葉も尽きぬ頃なれば。しばし木蔭に休らひて。咲き添ふ花を眺むるなり。
実に心ある旅人の。四季の眺の其中にも。春は霞に馴れきつゝ。声ものどかに聞ゆなり。
黄鳥の声なかりせばゆききえぬ/\。山里いかに。春を知るらんと詠みしも。のどけき春の心なり。花に馴れぬる人心。神も納受の道なれや。しばし休みて此花を眺め給へや。
(謡曲「山姫」~半魚文庫「謡曲三百五十番集」)

いざ桜われも散りなん一盛。いざ桜われも散りなん一盛。誘ふ嵐も心して松に残る薄雪の。盛とも夕暮の。月も曇らぬ天の原。霞の衣来て見れば。妙なる花の。気色かな妙なる花の気色かな。
あら面白の花盛やな。一枝手折り天上へ帰らばやと思ひ候。宴やむで紅燭なほ余れり。花一枝を手折らんと。忍び忍びに立ち寄れば。
春宵一時値千金。花に清香月に影。見る目ひまなき花守の。心は空になりやせん。
(略)
実に有難や此春の。実に有難や此春の。花の祭の時過ぎば。今少しこそ松の風終には花の跡とはん。
今手折らずは一枝の。後の七日を松の風。雪になり行く花ならば跡とふとても由なし。
よしや吉野の山桜。こゝも千本の花の影。
月も折しも春の夜の。
霞の光。
花の色。
何か今宵の。思ひ出ならぬさりながら。あはれ一枝を天の羽袖に手折りて。月をもともに眺めばやの望は残れり此春の望残れり。
(謡曲「泰山府君」~謡曲三百五十番集)

仰此成範卿とは、故小納言入道信西三男也。桜町中納言と申事は、優に情深き人にて、吉野山を思出して、桜を愛し給ひけり。室八島より帰上後、町の四方に吉野の桜を移植、其中に屋を立て住給ひければ、見人此町をば、樋口町桜町と申けり。又は此中納言桜の名残を惜て、立行春を悲み,又こん春を待わび給しかば、異名に桜町中納言ともいへり。殊に執し思はれける桜あり、七日に咲散事を歎て、春ごとに花の命を惜て、泰山府君を祭られける上、天照太神に祈申させ給ければ、三七日の齢を延たりけり。されば角ぞ思つゞけ給ひける。
   千早振現人神のかみたれば花も齢はのびにけるかな
と、人の祈実ありければ、神の霊験あらたにして、七日中に咲散花なれ共、三七日まで遺あり。君も御感有て、花の本には此人をぞすべきとて、勅書に桜町の中納言とぞ仰ける。
(源平盛衰記~国民文庫)

屏風絵に、さくらの花のちるをおしみかほなるところをよみ侍ける 源道済
山さとにちりはてぬへき花ゆへに誰とはなくて人そまたるゝ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

なきさの院にてさくらを見てよめる 在原業平朝臣
よの中にたえて桜のなかりせは春の心はのとけからまし
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

よし野山たにへたなびく白雲はみねの櫻のちるにやあるらむ
(山家集~バージニア大学HPより)

題しらす つらゆき〈一本〉大伴くろぬし
春雨のふるは涙かさくら花ちるをおしまぬ人しなけれは
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首歌中に 式子内親王
花はちりその色となくなかむれはむなしき空に春雨そ降
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

古き詩の句を題にて歌よみけるに、花発風雨多といふことを 頓阿法師
世中はかくこそ有けれ花さかり山風ふきて春雨そふる
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

延喜御時、南殿にちりつみて侍ける花をみて 源公忠朝臣
とのもりのとものみやつこ心あらはこの春はかり朝きよめすな
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

 あかでのみ花に心を尽す身の、思ひあまりに手を折りて、数(かぞ)ふる花のしなじなに、わきて楊貴妃伊勢小町、誰(た)が小桜か児桜(ちござくら)、百(もゝ)の媚(こび)ある姥桜(むばざくら)、我(われ)や恋(こ)ふらし面影の、花の姿をさき立てゝ、ゆくゑ分け越しみ吉野の、雲井に咲ける山桜、霞の間よりほのかにも、見そめし色の初ざくら、絶えぬながめは九重の、都がへりの花はあれども、馴れし東(あづま)の江戸ざくら、名におうしうの花には誰(たれ)も、うき身をこがす塩釜桜、花の振袖(ふりそで)八重ひとへ、下(した)には無垢の緋桜(ひざくら)や、樺(かば)に浅黄をこき交ぜて、わけよき縫(ぬひ)の糸桜(いとざくら)、引く手あまたの身なりとも、せめて一夜(ひとよ)の戯(たはぶ)れに、酔(ゑ)ひをすゝむる、熊谷(くまがえ)の、猛(たけ)き心は虎の尾の、千里もかよふ恋の路(みち)、忍ぶにつらき有明桜(ありあざくら)、君(きみ)の情(なさけ)のうす桜、よしや思ひを桐が谷(やつ)、浮世を捨てし墨染ざくら、昔を忍ぶいゑ桜、花の扉(とぼそ)の寂(さび)しきに、月の影さへ遅桜(をそざくら)、闇はあやなし紅梅桜、色こそ見えね折る袖も、匂ひざくらや菊桜(きくざくら)、花のしら露春ごとに、打払(うちはら)ふにも千代は経(へ)ぬべし。
(「松の葉」さくら尽~岩波・日本古典文学大系「中世近世歌謡集」)

木の花は
櫻の花びらおほきに、葉色こきが、枝ほそくて咲きたる。
(枕草子~バージニア大学HPより)

家に有りたき木は、松、櫻。松は五葉もよし。花は一重なるよし。八重櫻は奈良の都にのみありけるを、此の比ぞ、世に多くなり侍るなる。吉野の花、左近の櫻、皆一重にてこそあれ。八重櫻は異樣の物なり。いとこちたくねぢけたり。植ゑずともありなん。遲ざくら、又すさまじ。蟲の付きたるもむつかし。
(徒然草~バージニア大学HPより)
花のさかりは、冬至より百五十日とも、時正の後七日ともいへど、立春より七十五日、大樣違はず。
(徒然草~バージニア大学HPより)

また、木立つくらせたまへりし折は、「桜の花は優なるに枝ざしのこはごはしく、幹のやうなどもにくし。梢ばかりを見るなむをかしき」とて中門より外に植ゑさせたまへる、なによりもいみじく思しよりたりと、人は感じ申しき。
(大鏡~新編日本古典文学全集)

南殿の櫻は、村上の御時、式部卿重明親王の家のさくら匂ことなりとて、うつしうゑられけるとぞ。其後度々の炎上にやけにければ、又あらぬ木をぞうゑかへられける。代々の御門(みかど)、この花を賞せさせ給て、花の宴をおこなはる。承久に右馬権頭頼茂朝臣うたれしとき、又やけにけり。やがて造内裏ありしに、このさくらのたね、大監物(だいけんもつ)源光行が家にうつしうゑたるよしきこえて、めしてうゑられけるとぞ。いづれの時のたねにてかありけむ、おぼつかなし。その櫻もいく程なくてやけぬれば、いまはあとだにもなし。くちをしき事也。
(古今著聞集~岩波・日本古典文学大系)

長元々年十二月廿二日、昭陽舎の櫻を一本、清涼殿東北の庭にうつしうゑられけるに、殿上人どもおりたちて、ふみかためけり。いと興ある事也。むかしはかやうにあちこちほりわたし、又はじめてもうゑけり。ちか比(ごろ)は限ある木の外は、うゑらるゝ事もなきにや。
(古今著聞集~岩波・日本古典文学大系)

南殿の桜を本府よりうへ侍ける時、大内の花のたねにて侍けれは 左近大将為教
いにしへの雲ゐの桜たねしあれは又春にあふ御代そしらるゝ
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

後醍醐院位におはしましけるとき、後円光院前関白左大臣、左大将と聞えける比、大内の桜の種とて南殿にうつしうへられて侍けるか、花の咲て侍けれはよめる 女蔵人万代
いにしへの雲ゐの桜今さらにさきつゝ御代の春やしるらん
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

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古典の季節表現 春 二月二十日頃

2013年02月20日 | 日本古典文学-春

 二月廿日ころに雪のいたくふりたりけれは
雪ふかみさらにとちてそ冬こもる春にあけてし槇の板戸を
(出観集~群書類従15)

二月の廿日あまりのころ、大内花見せよと小侍従申けれは、いまたひらけぬ枝につけてつかはしける 従三位頼政
思ひやれ君かためにと待花の咲もはてぬにいそく心を
返し 小侍従
あふ事をいそかさりせは咲やらぬ花をはしはしまちもしてまし
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

如月の二十日あまり、朱雀院に行幸あり。花盛りはまだしきほどなれど、弥生は故宮の御忌月なり。とく開けたる桜の色もいとおもしろければ、(略)
(源氏物語・乙女~バージニア大学HPより)

はるばると霞みわたれる空に、散る桜あれば今開けそむるなど、いろいろ見わたさるるに、川沿ひ柳の起きふしなびく水影など、おろかならずをかしきを、見ならひたまはぬ人は、いとめづらしく見捨てがたしと思さる。
(源氏物語・椎本~バージニア大学HPより)

如月の二十日あまり、南殿の桜の宴せさせたまふ。(略)
日いとよく晴れて、空のけしき、鳥の声も、心地よげなるに、(略)
楽どもなどは、さらにもいはずととのへさせたまへり。やうやう入り日になるほど、 春の鴬囀るといふ舞、いとおもしろく見ゆるに、源氏の御紅葉の賀の折、思し出でられて、春宮、かざしたまはせて、せちに責めのたまはするに、逃がれがたくて、立ちてのどかに袖返すところを一折れ、けしきばかり舞ひたまへるに、似るべきものなく見ゆ。
(源氏物語・花宴~バージニア大学HPより)

きさらぎの廿日あまりの月とともに都をいで侍れば、(略)いとさかりと見ゆる桜の、ただ一木あるも、これさへ見すてがたきに、ゐなか人と見ゆるが、馬のうへ四五人、きたなげならぬが、またこの花のもとにやすらふも、おなじ心にやとおぼえて、
ゆく人の心をとむるさくらかな花やせきもりあふさかの山
(問はず語り~岩波文庫)

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古典の季節表現 春 春の夜

2013年02月17日 | 日本古典文学-春

百首歌中に 九条左大臣
咲匂ふ花をひかりにさしそへて木のまを出る春のよの月
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

春の歌とて 平久時
軒近き梅の匂ひもふかき夜のね屋もる月にかほる春風
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

梅かえはかすみにこめて春の夜の月影にほふ軒の下かせ
(青蓮院入道二品親王尊円詠百首和歌~古典文庫489)

題しらす 皇太后宮大夫俊成
春の夜は軒はの梅をもる月の光もかほる心ちこそすれ
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

花さかり霞のみおも深き夜の春のも中ににほふ月影
(嘉吉三年二月十日前摂政家歌合~続群書類従)

題しらす 中務卿宗尊親王
梅か香の身にしむ床は夢ならてねぬ夜かすめる月をみる哉
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

祐子内親王藤つほにすみ侍けるに、女房うへ人なとさるへきかきり物かたりして、春秋のあはれいつれにか心ひくなとあらそひ侍けるに、人ひとおほく秋にこゝろをよせ侍けれは 菅原孝標女
浅緑花もひとつにかすみつる(イかすみつゝ)おほろにみゆる春の夜の月
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

文集嘉陵春夜詩、不明不暗朧々月といへることをよみ侍ける 大江千里
てりもせすくもりもはてぬ春のよの朧月夜にしく物そなき
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

 如月の二十日あまり、南殿の桜の宴せさせたまふ。(略)
 夜いたう更けてなむ、事果てける。
 上達部おのおのあかれ、后、春宮帰らせたまひぬれば、のどやかになりぬるに、月いと明うさし出でてをかしきを、源氏の君、酔ひ心地に、見過ぐしがたくおぼえたま ひければ、「上の人々もうち休みて、かやうに思ひかけぬほどに、もしさりぬべき隙もやある」と、藤壷わたりを、わりなう忍びてうかがひありけど、語らふべき戸口も鎖してければ、うち嘆きて、なほあらじに、弘徽殿の細殿に立ち寄りたまへれば、三の口開きたり。
 女御は、上の御局にやがて参う上りたまひにければ、人少ななるけはひなり。奥の枢戸も開きて、人音もせず。
 「かやうにて、世の中のあやまちはするぞかし」と思ひて、やをら上りて覗きたまふ。人は皆寝たるべし。いと若うをかしげなる声の、なべての人とは聞こえぬ、「朧月夜に似るものぞなき」とうち誦じて、こなたざまには来るものか。
(源氏物語・花宴~バージニア大学HPより)

二月やおほろ月夜の影まてもかすめる花のえに社有けれ
(嘉吉三年二月十日前摂政家歌合~続群書類従15上)

 ある殿上人、さるべき所へまゐりたりけるに、をりしも雪降りて月おぼろなりけるに、中門の板に候ひて、寝殿なる女房にあひしらひけるが、「このおぼろ月はいかがし候ふべき」と言ひたりければ、女房、返事(かへりこと)はなくて、とりあへずうちよりたたみを押し出だしたりける心ばやさ、いみじかりけり。
  照りもせず曇りもはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしく物ぞなき
(今物語~講談社学術文庫)

三月十一日、月おぼろにて、おもしろかりしよ、四條大納言、萬里小路大納言など、女房たちあまたさそひて、鷲尾の花ざかりいとおもしろく侍しに、月のかたぶくまであそびて次日、少將内侍、
見ても猶あかぬ名殘ぞをしまるゝ朧月夜の花の下かげ
(弁内侍日記~群書類從)

二月はかり、月のあかき夜、二条院にて人ひとあまたゐあかして物語なとし侍けるに、内侍周防よりふして、枕をかなとしのひやかにいふを聞て、大納言忠家、是を枕にとて、かひなをみすの下よりさし入て侍けれは読侍ける 周防内侍
春のよの夢はかりなる手枕にかひなくたゝむ名こそをしけれ
といひ出し侍けれは、返事によめる 大納言忠家
契ありて春の夜ふかき手枕をいかゝかひなき夢になすへき
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

春夜恋
花の香もうつろふ月の手枕に覚めさらましの春のよの夢
(草根集~日文研HPより)

春の夜は寝(い)こそねられね起きゐつつまもるにとまる物ならなくに
(和泉式部集~岩波文庫)

春、月、明(あ)かき夜、いとどしく入り臥して
寝(ぬ)るほどのしばしも歎きやまるればあたら今宵の月をだに見ず
(和泉式部続集~岩波文庫)

あはれ何處(いづこ)の誰(た)が女子(むすめ)ぞ、花薫(はなかほ)り月霞む宵の手枕(たまくら)に、君が夢路(ゆめぢ)に入らん人こそ世にも果報なる人なれなど、(略)
(高山樗牛・瀧口入道~バージニア大学HPより)

比はきさらぎ十日餘の事なれば、梅津の里の春風に、餘所の匂もなつかしく、大井河の月影も、霞にこめて朧也。
(平家物語~バージニア大学HPより)

比は二月半の事なれば、梅津里の春風は、徐まで匂ふ垣根哉、桂里の月影は、朧に照す折なれや、(略)
(源平盛衰記~バージニア大学HPより)

春の夜の朧月夜の一と時に誰がさかしらに値つけけん
(良寛歌集~バージニア大学HPより)

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古典の季節表現 春 春の月

2013年02月16日 | 日本古典文学-春

春月を 中務卿宗尊親王
山のははそこともわかぬ夕くれに霞を出る春の夜の月
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 永福門院
入逢の声する山の陰暮て花の木のまに月出にけり
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘長元年百首歌奉りけるに、春月 前大納言為家
あかすみる花の匂ひも深き夜の雲ゐにかすむ春の月影
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

 春月 為忠
はるのよは花の木のまをもりかねていとどかすめる月のかげかな
(飛月集~「新編国歌大観10」)

七日の月のさやかにさし出でたる影、をかしく霞みたるを見たまひつつ、(略)
(源氏物語・早蕨~バージニア大学HPより)

月さし出でぬれば、大御酒など参りて、昔の御物語などしたまふ。霞める月の影心にくきを、雨の名残の風すこし吹きて、花の香なつかしきに、御殿のあたり言ひ知らず匂ひ満ちて、人の御心地いと艶あり。
(源氏物語・梅枝~バージニア大学HPより)

なかむれはそこはかとなくかすむよのつきこそはるのけしきなりけれ
(嘉元百首~日文研HPより)

なかめてもいかにかたらむうめかえのはなにつきもるはるのあけほの
(正治二年初度百首~日文研HPより)

題しらす 惟明親王
吉野山あらしや花をわたるらん木すゑにかほる春のよの月
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

中宮、里におはしましける比(ころ)、奉らせ給ひける 親子の中の帝の御歌
ながむとも同じ心にたれか見む思ひぐまなき春の夜の月
(風葉和歌集~岩波文庫)

春の歌とて 瓊子内親王家小督
おほろなる名には立とも春の月やとる袖まてかすますもかな
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

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古典の季節表現 二月十五日 涅槃・涅槃会

2013年02月15日 | 日本古典文学-春

涅槃歌三首
拘尸那城には西北方、跋提河の西の岸、娑羅や双樹の間には、純陀が供養を受けたまふ。
釈迦牟尼仏の滅度には、迦葉尊者の逢はざりき、歩みを運びて来しかども、十六羅漢もおくれにき。
二月十五日朝より、これらの法文説き置きて、漸く中夜に至るほど、頭は北にぞ臥したまふ。
(梁塵秘抄~岩波文庫)

二月十五日涅槃の心をよませ給うける 院御製
けふはこれなかはの春の夕霞きえし煙の名残とやみん
仏の涅槃を思ひてよめる 従三位泰光
いにしへの春のなかはを思ひ出て心にくもる夜半の月影
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

仏此夜滅度如薪尽火滅の心を 法性寺入道前関白太政大臣
人しれす法にあふひを頼むかなたきゝつきにし跡に残りて
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

双林入滅 円空上人
二月やたきゝつきにし春をへてのこる煙はかすみなりけり
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

山階寺の涅槃講にまうてゝよみ侍ける 前律師慶暹
つねよりもけふの霞そ哀なる薪つきにし煙と思へは
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
山階寺の涅槃会の暮かたに、遮羅入滅の昔を思ひよみ侍ける 恵章法師
もち月の雲かくれけむいにしへのあはれをけふの空にしる哉
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

湛空上人、嵯峨の二尊院にて涅槃会をおこなはれる時、人びと五十二種の供物をそなへけるに、花をうへにたてゝ歌を読(よみ)て付(つけ)けるに、西音法師、水瓶に梅を立(たて)て送(おくる)とて読(よみ)ける
きさらぎのなかのいつかの夜はの月入(いり)にし跡のやみぞかなしき
返し、 湛空上人
やみぢをば弥陀の光にまかせつゝ春のなかばの月は入(いり)にき
(古今著聞集~岩波・日本古典文学大系)

二月十五日、涅槃会とて人のまゐりしに、さそはれてまゐりぬ。おこなひうちして、思ひつゞくれば、尺迦仏の入滅せさせ給ひけんをりの事、僧などの語るをきくにも、なにもたゞ物のあはれのことにおぼえて、涙とゞめがたくおぼゆるも、さほどの事はいつもきゝしかど、この比きくはいたくしみじみとおぼえてものがなしく、涙のとまらぬも、ながらふまじきわが世の程にやと、それはなげかしからずおぼゆ。
世の中のつねなきことのためしとて空がくれにし月にぞありける
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)

二月十五日の暮かたに、伊勢大輔か許につかはしける 相模
常よりもけふの煙のたよりにや西をはるかに思ひやるらん
返し 伊勢大輔
けふはいとゝ涙にくれぬにしの山思ひ入日の影をなかめて
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

光台寺に住侍けるに、二月十五日山本入道前太政大臣もとより、桜のうち枝にすゝ(イ鈴)をかけて、「ありなからきえぬとしめす仏には雪にもまかふ花を手向よ」と申て侍ける返事に 山本入道前太政大臣女
ありなからきえぬとみえてかなしきはけふの手向の花のしら雪
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

ねがはくば花の下にて春死なむそのきさらぎのもち月のころ
(山家集~バージニア大学HPより)

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