秋の来て露まだなれぬ荻の葉にやがてもやどる夕月夜かな(仙洞句題五十首)
置く露もまだ色うすきころもでにやどりならはむ月の影かな(詠十首和歌)
見るままに心ぞうつる秋萩の花野の露にやどる月かげ(新後撰和歌集)
露分けてふるさと人を浅茅生(あさぢふ)にたづ ねば月のかげやこぼれむ(壬二集)
月かげもまねく袖にや宿るらむ野べの尾花の秋の白露(藤葉和歌集)
袖のうへ枕のしたにやどりきて幾年(いくとせ)なれぬ秋の夜の月(続古今和歌集)
天の河八十瀬(やそせ)の浪やあらふらむ清くもすめる秋の月かな(右衛門督歌合)
うす霧の晴るる朝けの庭見れば草にあまれる秋の白露(玉葉和歌集)
松かげの浅茅がうへのしら露をたまゆら置かぬ庭の秋かぜ(光経集)
かつおちて結びもとめず秋草の葉ずゑにあまる玉ゆらの露(嘉元百首)
はかなさを我が身のうへによそふれば袂にかかる秋の夕露(千載和歌集)
消えかへりはかなき上の道芝にいくだび露の身をやどすらむ(李花和歌集)
今はただ消ゆべきものをしら露の何にこころを思ひおくらむ(如願法師集)
知られじなは山が露のこがくれてしげきおもひの下(した)に消えなば(洞院摂政家百首)
夕暮れのまがきの萩のうへに置く露のかごとのみだれてぞ思ふ(壬二集)
もの思ふ袖のなみだにうちそへていたくな置きそ夜半の白露(風葉和歌集)
わが恋は草葉にあまる露なれやおきどころなく身を歎くらむ(新拾遺和歌集)
秋もなほ野はらの露の置かぬ夜(よ)はあれども袖のぬれぬ日はなし(壬二集)
露だにもなからましかば秋の夜にたれとおきゐて人を待たまし(拾遺和歌集)
おなじくは我が身も露となりななむ消えなばつらきことの葉もなし(元真集)
わびわたる我が身は露ぞ同じくは君があたりの野べに消えなむ(後撰和歌集)
思ひわびうき身ぞやがて消えぬべき露の契りを待つとせしまに(永享百首)
露をだにあはれとは見よ君がすむあたりの草に思ひ消えなば(宝治百首)
恋ひわびて野べの露とは消えぬともたれか草葉をあはれとは見む(新古今和歌集)