虫の音もちぢにみだるる秋の夜のあはれをいかがいひつくすべき(永久百首)
庭の虫よそのきぬたのこゑごゑに秋の夜ふかきあはれをぞ聞く(玉葉和歌集)
秋の夜を長しといへどつもりにし恋を尽くさばみじかくありけり(万葉集)
秋萩をちらす時雨のふるころはひとり起きゐて恋ふる夜ぞ多き(玉葉和歌集)
おもひきや秋のよかぜのさむけきに妹(いも)なき床(とこ)にひとり寝むとは(後拾遺和歌集)
ひとり寝はながきならひの秋の夜をあかしかねてや鹿もなくらむ(続後撰和歌集)
山里のいなばの風にねざめして夜深く鹿の声をきくかな(新古今和歌集)
夜もすがら妻なき鹿のなく声もひとり寝覚めの友と聞けとや(政範集)
こひしくは夢にも人を見るべきに窓うつ雨に目をさましつつ(大弐高遠集)
さびしさは秋のねざめに尽きにけり荻ふく風にありあけの月(沙玉集)
いくかへり秋の夜ながき寝覚めにもむかしをひとり思ひいづらむ(新後撰和歌集)
秋の夜は窓うつ雨に夢さめて軒ばにまさる袖のたまみづ(六百番歌合)
袖の露もふりそふ閨の秋の雨にいとど干(ひ)がたき敷妙の床(新続古今和歌集)
いくたびか我が身ひとつに秋を経(へ)て袖のなみだに月を見るらむ(続古今和歌集)
(2009年11月9日、2010年8月17日の「秋の夜」の記事は削除しました。)
山ふかみ苔のむしろの上にゐて何心なく鳴くましらかな(山家集)
秋山のみねのこずゑをつたひ来てやどの軒ばにましら鳴くなり(三百六十番歌合)
しばの庵やひとり住みうきみ山べに友あり顔にましら鳴くなり(光経集)
声たかみ林にさけぶ猿よりもわれぞもの思ふ秋の夕べは(金槐和歌集)
さ夜ふけて山ものどかにすむ月におのれひとりとましら鳴くなり(光経集)
心すむ柴のかり屋の寝覚めかな月ふく風にましら鳴くなり(御室五十首)
さらぬだに寝覚めの床(とこ)のさびしきに木(こ)づたふ猿のこゑ聞こゆなり(散木奇歌集)
ありあけの月もかたぶく山の端(は)にさびしさそふる猿(さる)の三さけび(朗詠題詩歌)
月の入るかた山かげに鳴く猿はふけ行く秋をものがなしとや(朗詠百首)
秋萩にうらびれをれば足引の山下とよみ鹿の鳴くらむ(古今和歌集)
秋萩にみだるる玉は鳴く鹿の声よりおつるなみだなりけり(貫之集)
妻こひの涙や落ちてさを鹿の朝立つ小野の露とおくらむ(新拾遺和歌集)
露ながらみだれぞまさるさを鹿の鳴く音(ね)もしげき野べのかるかや(京極為兼)
さらぬだに夕べさびしき山ざとの霧のまがきに牡鹿鳴くなり(千載和歌集)
もの思ふこのゆふぐれにこころあらば尾の上(へ)の鹿の声な聞かせそ(光経集)
秋ごとに聞けどもあかぬ宇治山の尾のへの鹿の夜半のひと声(夫木抄)
山里は秋こそことにわびしけれ鹿のなくねに目をさましつつ(古今和歌集)
妻こひの秋の思ひのながき夜を明かしかねたる鹿のこゑかな(宝治百首)
鳴く鹿の声にめざめてしのぶかな見はてぬ夢の秋の思ひを(新古今和歌集)
たれ聞けと声たかさごのさを鹿のながながし夜をなきあかすらむ(後撰和歌集)
秋の夜をあかしかねたるひとり寝のあはれなそへそさを鹿の声(草庵集百首和歌)
木がらしに月すむ峯の鹿の音(ね)をわれのみ聞くは惜しくもあるかな(風雅和歌集)
秋の夜は寝覚めののちも長月のあり明の月に鹿ぞ鳴くなる(新拾遺和歌集)
思ふことあり明がたの月影にあはれをそふるさを鹿のこゑ(金葉和歌集)
寄鹿恋
妹にわがうら恋ひをれば足引きの山下とよみ鹿ぞ鳴くなる(古今和歌六帖)
このごろは野べの牡鹿(をじか)のねに立ててなかぬばかりといかで知らせむ(新後撰和歌集)
(2009年11月7日の「鹿」の記事は削除しました。)
鵙(もず)のゐる尾花が末葉うちなびきかた山づたひ秋風ぞ吹く(拾遺風体和歌集)
風わたる尾花がすゑにもず鳴きて秋のさかりと見ゆる野べかな(夫木抄)
もみぢするはじのたち枝は折りのこせ来(き)なれしもとの百舌鳥もこそゐれ(正治二年初度百首)
夕日さすかた山かげの櫨(はじ)の木に聞くもさびしき鵙のひとこゑ(今川為和集)
たづ ぬべき人はありとも甲斐なしや鵙の草ぐきそこと知らねば(宗良親王千首)