雲
雲は石より生ずるによりて、石を岩根と云ふぞ
(中華若木詩抄~デジタル大辞泉「岩根(いわね)」の項より)
題しらす 北辺左大臣
人めたに見えぬ山ちに立つ雲をたれすみかまの煙といふらん
(後撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
寄雲
岩倉の小野ゆ秋津に立ちわたる雲にしもあれや時をし待たむ
(万葉集・七~バージニア大学HPより)
すむひとのこころもしらぬたにのとにうきたつくももなほまよひつつ
(詠十首和歌_嘉禄元年四月~日文研HPより)
十七日くもれる雲なくなりてあかつきつく夜いともおもしろけれは舟をいたしてこき行
(土佐日記~国文学研究資料館DBより)
そのとしおほかた世中さはがしくておほやけざまにものゝさとししげくのどかならで。あまつ空にもれいにたがへる月日星の光みえ雲のたゝずまひありとのみ。世の人おどろくことおほくて。 (略)
(源氏物語・薄雲~国文学研究資料館DBより)
夕暮の雲のけしき、鈍色に霞みて、花の散りたる梢どもをも、今日ぞ目とどめたまふ。
(源氏物語・柏木~バージニア大学HPより)
春立心をよみ侍ける 皇太后宮大夫俊成
春やたつ雪けの雲はまきもくの檜原に霞たな引にけり
(新千載和歌集~国文学研究資料館DBより)
夏歌の中に 前参議家親
をちの空に雲立のほりけふしこそ夕立すへきけしき也けれ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館DBより)
夏山雲
夕立の晴れぬる山の岩ねよりのほるも消ゆる雲の一むら
(草根集~日文研HPより)
よやふくるくものはるかになくかりもひとつになりぬころもうつこゑ
(壬二集~日文研HPより)
山のはにゆきかふ雲の晴くもり一かたならすふるしくれかな
(藤葉和歌集~「群書類従10」)
あさまたきたにたつくもとみえつるはまきのすみやくけふりなりけり
(堀河百首~日文研HPより)
冬深く入り立ちて、すさまじく空澄みわたり、雪気(ゆきげ)の雲のただよひたる折々は、上、藤壺にわたらせ給ひて、(略)
(海人の刈藻~「中世王朝物語全集2」笠間書院)
くもうすきそらかとみれはゆふつくよはれてもかけそおほろなりける
(新撰和歌六帖~日文研HPより)
天雲(あまくも/あまぐも)
富士の嶺(ね)を高み畏み天雲(あまくも)もい行きはばかりたなびくものを
(「万葉集 上巻」伊藤博校注、角川文庫)
思はぬにしぐれの雨は降りたれど天雲(あまくも)晴れて月夜(つくよ)さやけし
(「万葉集 上巻」伊藤博校注、角川文庫)
天雲(あまくも)のたなびく山の隠(こも)りたる我(あ)が下心(したごころ)木(こ)の葉知るらむ
(「万葉集 上巻」伊藤博校注、角川文庫)
(ひやくしゆのうたたてまつりしとき、くもによするこひ) 徽安門院一条
天雲のやへ重なれる空なれや恋も恨もはれぬ心は
(新千載和歌集~国文学研究資料館DBより)
昼恋
てる日をもうき中空にかけすてつくもる契の末の天雲
(草根集~日文研HPより)
白雲
かき数ふ 二上山に (略) 玉桙の 道行く我れは 白雲の たなびく山を 岩根踏み 越えへなりなば (略)
(万葉集~バージニア大学HPより)
後法性寺入道前関白、右大臣に侍ける時、家に百首歌よみ侍けるに読てつかはしける、桜 後徳大寺左大臣
けふもまた花まつほとのなくさめになかめくらしつ峰の白雲
(新後撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
富士のねの風にたゞよふ白(しら)雲を天津(あまつ)乙女の袖かとぞ見る
(東関紀行~「新日本古典文学大系51」岩波書店)
浮き雲
ふかき夜の月、浮雲だになびかず澄めるに、(略)
(浜松中納言物語~「日本古典文学大系77」岩波書店)
月をよみ侍ける 藤原為基朝臣
月のゆく晴間の空はみとりにてむら++白き秋のうき雲
(風雅和歌集~国文学研究資料館DBより)
寄雲恋 侍従行家
しらせはやそこはかとなき浮雲の空にみたるゝ心まとひを
(続古今和歌集~国文学研究資料館DBより)
(ひやくしゆのうたのなかに、こひのこころを) 右衛門督通具
我恋は逢をかきりのたのみたに行ゑもしらぬ空のうき雲
(新古今和歌集~国文学研究資料館DBより)
題不知 土御門内大臣
さためなき風にしたかふ浮雲のあはれ行ゑもしらぬ恋哉
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
維摩経の心を 小弁
夕暮の空にたなひくうき雲はあはれ我身のはてにそ有ける
(玉葉和歌集~国文学研究資料館DBより)
横雲
やまのはのよこくもはかりわたりつつみとりにみゆるあけほののそら
あつさゆみはるかにみれはやまのはによこくもわたるあけほののそら
(永久百首~日文研HPより)
守覚法親王五十首歌よませ侍けるに 藤原定家朝臣
春の夜の夢のうき橋とたえして嶺にわかるゝよこ雲の空
(新古今和歌集~国文学研究資料館DBより)
曙雲
さとちかき林の鳥はさへつるをあけほのかくす峰の横雲
(草根集~日文研HPより)
薄雲
夕ひはなやかにさしてやまぎはの木ずゑあらはなるに。雲のうすくわたれるが。にび色なるを。なにごとも御めとゞまらぬころなれど。いと物哀におぼさる
入日さす峰にたなびくうす雲は物思ふ袖にいろやまがへる。
(源氏物語・薄雲~国文学研究資料館DBより)
雲間残月
うす雲のかけ行く月は明くる夜の光にかはる窓のともし火
天の原明行くままに影きえてうす雲渡る山のはの月
(草根集~日文研HPより)
豊旗雲
あまのはらとよはたくものたちまよひそらにみたるるこひをするかな
(河合社歌合_寛元元年十一月十七日~日文研HPより)
百首歌めしける時よませ給うける 崇徳院御製
入日さすとよはた雲にわきかねつ高まの山の峰の紅葉は
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館DBより)
むら雲
秋夕 隆祐
野わきする空のけしきに成りにけり村雲はやき秋の夕暮
(宝治百首~日文研HPより)
「雲」にかかる枕詞:しろたへの。ひさかたの。ささがにの。たまだすき。
思ひあまりいともすへなみ玉たすき雲ゐる山に我しめむすふ
(古今和歌六帖~「校證古今六帖 下」石塚龍麿稿、田林義信編。有精堂。1984年)
尋ねきていまそしめゆふたまたすき雲ゐる山のはつ桜花
(院御歌合_宝治元年九月~日文研HPより)
雲のはたて/はだて(旗手)
天之原(アマノハラ)悠悠砥而入已(ハルバルトノミ)見湯留鉋(ミユルカナ)雲之幡手裳(クモノハタテモ)色滋雁芸里(イロノコリケリ)
(新撰万葉集、巻之下、夏歌二十二首~「新編国歌大観2」)
(たいしらす 読人不知)
夕暮は雲のはたてに物そ思あまつ空なる人をこふとて
(古今和歌集~国文学研究資料館DBより)
(たいしらす 読人不知)
吹かせに雲のはたてはとゝむともいかゝたのまん人のこゝろは
(拾遺和歌集~国文学研究資料館DBより)
暮山花といへる心を 従二位成実
桜色の雲のはたての山風に花の錦のぬきやみたれん
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館DBより)
暮秋の心を 前大納言為家
とまらしな雲のはたてにしたふとも天つ空なる秋のわかれは
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館DBより)
雲の底(もと・そこ)
中天の雲の底(もと)に戯れて、
(「玉造小町子壮衰書(小野小町物語)」岩波文庫)
蓬莱洞の雲の底にも天仙空く垂跡の塵を隔つ。
(平家物語~バージニア大学HPより)
時鳥の歌とてよめる 藤原清輔朝臣
かさこしをゆふこえくれは郭公ふもとの雲の底に鳴也
(千載和歌集~国文学研究資料館DBより)
山のはは雲の底にてひとむらの木すゑかすめる五月雨の遠
(仙洞五十番歌合_乾元二年四月廿九日~日文研HPより)
元亨三年、亀山殿にて、人々題をさくりて七百首歌つかうまつりけるついてに、羇中鐘と云事をよませ給うける 後宇多院御製
けふも又かさなる山をこえくれて雲の底なる入会のかね
(新続古今和歌集~国文学研究資料館DBより)