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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 春 惜春・暮春・三月尽

2013年03月31日 | 日本古典文学-春

やよひのつこもりかたに山をこえけるに、山川より花のなかれけるをよめる ふかやふ
花ちれる水のまにまにとめくれは山には春もなく成にけり
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月尽の心を 土御門院御製
よし野河かへらぬ春もけふはかり花のしからみかけてたにせけ
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

暮春の心を 後嵯峨院御製
暮て行春の手向やこれならんけふこそ花はぬさとちりけれ
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

はなのみやくれぬるはるをかたみとてあをはかしたにちりのこるらむ
(初度本・金葉集~日文研HPより)

はなよりもこころなかくてあをやきのいとこそはるをひきととめけれ
(久安百首~日文研HPより)

嘉元百首歌奉りける時、暮春 民部卿為藤
今はたゝ残るはかりの日数こそとまらぬ春のたのみなりけれ
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首の歌奉りける時、暮の春の心を読侍ける 大納言隆季
暮て行はるはのこりもなき物をおしむ心のつきせさるらん
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

たちのこるかすみのいろもいまいくかわかれにちかきけふのゆふくれ
(正安元年五首歌合~日文研HPより)

建仁元年影供歌合に、山家暮春といへることをよませ給ける 後鳥羽院御製
暮ぬとも霞は残れ柴のとのしはしも春の忘かたみに
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

やよひのつこもりの比、白川殿に御かたゝかへの行幸ありける夜、春残二日といへるこゝろをうへのをのこともつかうまつりけるついてに、よませ給うける 二条院御製
我も又春とゝもにや帰らましあすはかりをはこゝにくらして
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
二条院御時、春残二日といふ事をうへのおのこ共つかうまつりけるに 従三位頼政
おしめともこよひもあけは行春をあすはかりとやあすは思はん
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月尽日、うへのをのこ共をおまへにめして、春の暮ぬる心をよませさせ給ひけるに、よませ給ひける 新院御製
おしむとてこよひかきをく言のはやあやなく春のかた見なるへき
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月つごもりの日になりて、君だち、吹上の宮にて春惜しみたまふ。桜色の直衣、躑躅色の下襲など着たまへり。その日の御饗、例のごとしたり。折敷など先々のにあらず。かはらけ始まりて遊び暮らす。水の上に花散りで浮きたる洲浜に、「春を惜しむ」といふ題を書きて奉りたまふ。少将、
  水の上の花の錦のこぼるるは春の形見に人むすべとか
侍従、
  色々の花の影のみ宿り来る水底よりぞ春は別るる
あるじの君、
  いつかまた会ふべき君にたぐへてぞ春の別れも惜しまるるかな
(略)
なんとて、今日のかづけ物は、黄色の小袿重ねたる女の装ひ一具、御供の人に同じ色の綾の小桂、袴一具添へて、遊び明かす。
(宇津保物語~新編日本古典文学全集)

やよひのつごもりの日、吹上にて、春を惜しむ心を人々読み侍りけるに うつほの在原時蔭
いづかたに行くとも見えぬ春故に惜しむ心の空にもあるかな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

(寛弘八年三月)三十日、癸卯。 物忌であったので、枇杷殿に籠居した。作文を行なった。題は、「鶯の囀(さえず)るは、唯(ただ)、今日のみ」であった。帰を韻とした。 (御堂関白記〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)

ゆくはるのたそかれときになりぬれはうくひすのねもくれぬへらなり 
こゑたててなけやうくひすひととせにふたたひとたにくへきはるかは
(古今和歌六帖~日文研HPより)

暮春鶯といふ心をよませ給うける 章義門院 
春をしたふ心のともそあはれなる弥生の暮の鶯の声 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月尽鶯といふことをよめる 藤原信実朝臣 
けふのみとおもふか春の古郷に花の跡とふうくひすのこゑ 
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

かきりあれははるこそくれめいまさらにやまへかへるなうくひすのこゑ
(壬二集~日文研HPより)

やよひのつこもり みつね
暮て又あすとたになき春の日を花のかけにてけふはくらさん
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

枝ごとに花散りまがへ今はとて春の過ぎゆく道見えぬまで
(和泉式部続集~岩波文庫)

おなし心(三月尽)を みつね
つれつれと花を見つゝそ暮しつる今日をし春のかきりと思へは
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

やよひのつこもり よみ人しらす
花しあらは何かは春のおしからんくるともけふはなけかさらまし
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月尽の心を 貫之
こんとしもくへき春とはしりなからけふの暮るはおしくそありける
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

 春を惜しみて、三月小なりけるに、長能、
  心うき年にもあるかな廿日あまり九日といふに春の暮れぬる
(古本説話集~講談社学術文庫)

たいしらす よみ人しらす
おしめとも春のかきりのけふの又夕暮にさへなりにけるかな
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

けふのみとかすめるみねのゆふつくひのこるともなきはるのかけかな
(草庵集~日文研HPより)

やよひのつこもりによみ侍ける 式子内親王
詠れは思ひやるへきかたそなき春のかきりの夕暮の空
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

たいしらす 入道二品親王尊円
はつせ山尾上の花は散はてゝ入あひの鐘に春そ暮ぬる
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

同し心(三月尽)を 大僧正行広
よもすからおしみおしみてあかつきの鐘とともにや春はつくらん
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

弥生のつこもりの夜よみ侍し 前大納言為兼
めくりゆかは春には又も逢とてもけふのこよひは後にしもあらし
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

常の事とはいひながら、いとはかなう見ゆる頃、三月晦比に
世の中は暮れゆく春の末なれや昨日は花の盛りとか見し
(和泉式部続集~岩波文庫)

つねにまうてきかよひけるところに、さはる事侍りて、ひさしくまてきあはすしてとしかへりにけり、あくるはる、やよひのつこもりにつかはしける 藤原雅正
君こすて年は暮にき立かへり春さへけふになりにけるかな
ともにこそ花をもみめとまつ人のこぬものゆへにおしき春かな
返し 貫之
君にたにとはれてふれは藤の花たそかれ時もしらすそ有ける
八重むくら心のうちにふかけれは花みにゆかむ出立もせす
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

前大僧正隆弁、三月のつこもりの日、東へまかり侍けるにつかはしける 中務卿宗尊親王 
いかにせんとまらぬ春のわかれにもまさりておしき人の名残は 
返し 前大僧正隆弁 
めくりこむほとを待こそかなしけれあかぬ都の春の別は 
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月尽 忠度
わが身にはよそなるはるとおもへどもくれゆくけふはをしくやはあらぬ
(言葉集~新編国歌大観10)

堀川院の御とき、百首の歌奉りけるとき、春の暮をよめる 前中納言匡房
つねよりもけふの暮るをおしむかないま幾度の春としらねは
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月のつこもりの日、ひさしうまうてこぬよしいひてはんへるふみのおくにかきつけ侍りける つらゆき
又もこん時そとおもへとたのまれぬわか身にしあれはおしき春哉
貫之、かくておなしとしになん身まかりにける
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

老人惜春といふ事をよめる 橘俊綱
おひてこそ春のおしさはまさりけれいまいく度もあはしとおもへは
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

母の思ひに侍ける春の暮に、後京極摂政のもとより、「春霞かすみし空の名残さへけふをかきりの別れなりけり」と申侍し返事に 前中納言定家
別にし身の夕暮に雲たえてなへての春はうらみはてゝき
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

醍醐のみかとかくれ給て後、やよひのつこもりに、三条右大臣につかはしける 中納言兼輔
桜ちる春のすゑにはなりにけりあまゝもしらぬ詠せしまに
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

重服に侍りけるとし三月尽日、人のもとより音信て侍りけれはつかはしける 藤原顕輔朝臣
おもひやれめくりあふへき春たにも立わかるゝはかなしき物を
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

権中納言公宗身まかりて後、三月尽に、山階入道左大臣の許につかはしける 前大僧正良覚
うかりける春の別と思ふにも涙にくるゝけふのかなしさ
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

かくて、三十日の日の未(ひつじ)の時に、清凉殿の西面の御簾一間あげさせ給ひて、後凉殿の渡殿にあたりて、西向に倚子(いし)の御座(おまし)よそひておはします。(略)かくて歌ども合はするに、いかがありけむ右負けにけり。合はせ果てて、御遊つかうまつる。(略)
(天徳四年三月卅日内裏歌合~平安朝歌合大成)

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古典の季節表現 春 上陽人

2013年03月28日 | 日本古典文学-春

上陽人を 従三位宣子
くらしかねなかき思ひの春の日にうれへともなふうくひすのこゑ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

家百首歌に、上陽人を 藤原為忠朝臣
いたつらに六十の春も過にけり宮のうくひす声はかりして
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

上陽人の心をよみ侍ける 鴨邦祐
聞ことをいとひても又馴にけり六十の春のうくひすの声
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

ものおもふときはなにせむうくひすのききいとはしきはるにもあるかな
はかなしやむなしきとこにあけくれてとしのむそちのそらにすきぬる
しらさりきちりもはらはぬとこのうへにひとりよはひのつもるへしとは
(夫木抄~日文研HPより)

青黛画眉々細長といへる事をよめる 源俊頼朝臣
さりともとかくまゆすみのいたつらに心ほそくも老にけるかな
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

上陽人苦最多、少思苦老亦苦といへる心をよめる 源雅光
むかしにもあらぬすかたに成ゆけとなけきのみこそ面かはりせね
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

むかし、上陽人上陽宮にとぢこめられて、おほくのとし月をおくりけり。(略)
このひと、むかし、うちにまいりけるに、そのかたちはなやかにおかしげなりけるをたのみて、楊貴妃などをもあらそふ心やありけん、一生つゐにむなしきゆかをのみまもりつゝ、はなのかたちいたづ らにしほれて、むばたまのくろかみしろくなりにけり。
(唐物語~講談社学術文庫)

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古典の季節表現 春 尚歯会

2013年03月27日 | 日本古典文学-春

おいらくのとしたかひとのうちむれていととよはひをのふるけふかも
よよをへてすきにしはるをかそふれははなはひさしきともにそありける
おいらくのひとのなみゐるこのもとはかしらのゆきにはなそまかへる
もろひとのおいのたもとにちるはなをめつらしとこそひともみるらめ
いとひこしおいこそけふはうれしけれいつかはかかるはるにあふへき
(暮春白河尚歯会和歌~日文研HPより)

尚歯会をこなひ侍けるとき 藤原清輔朝臣
ちる花は後のはるともまたれけり又もくましきわかさかりはも
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

暮春、見南亜相山荘尚歯会
幽荘(いうしやう)に尚歯の筵に従ふに逮(およ)びて
宛(あたかた)も洞裏(とうり)に群仙に遇(あ)へらむが如し
風光 惜しぶこと得たり 青陽(せいやう)の月
遊宴 追(したが)ひて尋ぬ 白楽天
静(しづ か)なることを占めては依らず 影無き樹(き)
喧(かまびす)きを避けてはなほし愛(あい)す 声有る泉
三分(さむぶん) 浅く酌む 花香(くわかう)の酒
一曲(いつくゐよく) 偸(ひそか)に聞く 葛調(かつてう)の絃(つる)
杖を撫(と)りて 将(まさ)に酔(ゑ)ひを扶(たす)けて出づ るに供(とも)してむ
車を留めて 且(しばら)く山を下(くだ)りて旋(めぐ)らむことを待つ
吾(わ)が老(らう)を看(み)る毎(ごと)に 誰か涙に勝(た)へむ
此の会 当為(まさ)に少年を悩すべし
(菅家文草~岩波古典文学大系)

あぜちの御こにては、備中守實綱といひし、はかせのむすめのはらに、右大臣宗忠のおとゞ又堀川の左のおとゞの御むすめのはらに、太政のおとゞ宗輔など、ちかくまでおはしき。右のおとゞは中御門のおとゞとて、催馬楽の上手におはして、御あそびなどには、つねに拍子とり給ひけり。才学おはして尚歯會とて、としおいたる時の詩つくりのなゝたりあつまりて、ふみつくることおこなひ給ひき。からくにゝては、白楽天ぞ序かきたまひて、おこなひ給ひけり。このくにゝはこれくはへて、みたびになりにけり。からくにゝは、ふたゝびまでまさりたることにきこえ侍りしに、ちかくわたりたるから人の、またのちにおこなひたる、もてわたりたりけるとぞきゝ侍りし。としのおいたるを、上らふにてにはにゐならびて、詩つくりなどあそぶ事にぞはべるなる。このたびは、諸陵頭為康といふおきな一の座にて、そのつぎにこのおとゞ、大納言とておはしけん。いとやさしく侍りし、蔵人頭よりはじめて、殿上人垣下してから人のあそびのごとくこのよのことゝもみえざりけり。
(今鏡~関根正直校・今鏡読本)

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古典の季節表現 春秋争い

2013年03月26日 | 日本古典文学

むかしのうたよみの春秋をあはせける。
左 くろぬし
おもしろくめでたきことをくらぶるに春と秋とはいづれまされり
右 こたふ。 とよぬし
春はただ花こそは咲け野べごとに錦をはれる秋はまされり
左 くろぬし
秋はただ野べの色こそ錦なれ香さへにほへる春はまされり
右 とよぬし
さをしかのこゑふりいでて紅の野べになりゆく秋はまされり
左 くろぬし
霞たち野べを錦にはりこめて花のほころぶ春はまされり
右 とよぬし
賤機(しづはた)に天の羽衣織りかけて彦星をまつ秋はまされり
左 くろぬし
青柳に糸縒りかけて朝ごとに玉をつらぬく春はまされり
右 とよぬし
虫の音の草むらごとに夜もすがら鳴きあかしたる秋はまされり
左 くろぬし
踏みちらす花もいろいろ匂ひつつ鶯のなく春はまされり
右 とよぬし
きりぎりす鳴く草むらの白露に月影みゆる秋はまされり
みつね判す
おもしろきことは春秋分きがたしただをりふしの心なるべし
(躬恒判問答歌合~平安朝歌合大成)
春にみなあひにし花の今日の雨に咲くをみるにぞ方(かた)負けぬべき
こきまぜに花紅葉散るただ今は春秋ぞともいかがさだめむ
(或所春秋問答歌合~平安朝歌合大成)

皇后宮歌合せさせたまふ。左春右秋なり。装束も、やがてそのをりに従ひつつぞしたりける。正月なり。その日になりて、左の人々、春の色々を織りつくしたり。信濃、紅梅どもに、紅の打ちたる、萌黄の二重文の紅梅の象眼の唐衣、薄色の二重文。伯耆、松の葉がさね、青き打ちたる、同じ色の二重文に松の枝織りたる、唐衣は地は白くて文は青き象眼の二重文の唐衣。淡路、梅の三重織物の表着、みな打ちたり。紅の打ちたる、梅の二重文の唐衣。但馬、桜の織物ども、紅の打ちたる、桜の表着、樺桜の二重文の唐衣、梅の二重文の裳。内侍の女、裏山吹ども三つにて、単どもみな打ちたり。萌黄の打ちたる、山吹の二重文の表着、同じ色の無文の唐衣。今五人南の廂にゐわかれたり。式部の命婦、躑躅どもに、萌黄の浮線綾の唐衣。源式部、藤どもに、紅の打ちたる、二藍の二重文の表着、いとゆふの裳、唐衣。新少納言、同じ藤の匂に、紅の打ちたる、藤の二重文の表着、同じ色の無文の唐衣。池の藤浪唐衣には咲きかかりけるを、歌絵にいとをかしくかきたり。女、山吹を打ちて、山吹の織物の表着、いとゆふの裳、唐衣。内大臣殿の御乳母、柳どもに、紅の打ちたる、柳の二重文の表着、裳、唐衣も同じことなり。近江の三位、紅梅の薄きをみな打ちて、表着、裳、唐衣みな二重文、御帳のそばの方に参りてさぶらひたまふ。内侍、ことごとしからぬ薄紅梅どもに、赤色の唐衣。小式部、梅の匂に、濃き打ちたる、紅梅の表着、萌黄の唐衣、薄色の裳なり。
 右十人は、東面に南の戸□に。因幡、色々をみな打ちて、青き織物に色々の紅葉をみな織りつくしたり。蘇芳の二重文、浮線綾の唐衣。出雲、下着同じ紅葉を打ちて、表着は赤き錦、薄青の二重文の唐衣、袴も同じ紅葉の打ちたる、表着も白き。土左、これも同じ紅葉の打ちたる、香染の二重文の表着、秋の花の色々を尽したり。紅葉の薄き濃き、二重文の裳、唐衣。表着大井河の水の流れに、洲浜を鏡にて、花の色々の影見ゆ。袴戸無瀬の滝の水上しも、紅葉の散り交ひたる、いとをかし。三日月の形に鏡をして、薄物の表着、浪の形を結びかけたり。美濃、色々の錦の衣は、裏みな打ちたり。象眼の緑の裳、紺瑠璃の唐衣、これも大井河をうつしたり。みな置口して、袴同じ五重の打ちたる、上に二重文の表着。筑前、同じ紅葉の打ちたる、上に黄なる二重文の織物の表着、無文の朽葉の唐衣、秋の野を織りつくしたり。袴同じさまなり。今五人は、菊の色々なり。遠江、みな上は白き裏を色々うつろはして、紅の打ちたるに、白き織物の表着、女郎花の唐衣、薄の裳。侍従、上は薄き蘇芳、裏は色々うつろはしたり。紅の打ちたるに、蘇芳の織物の表着、女郎花の唐衣、萩の裳、袴、いづれも同じごと打ちたり。下野、菊の織物どもに、紅の打ちたる、蘇芳の唐衣、紫の末濃の裳、鏡に葦手に玉を貫きかけ、絵かきなどしたり。袴、二藍の表着。平少納言、菊のうつろひたるに、二藍の表着、冊子の形にて、村濃の糸して玉を総角に結びて、後撰、古今と織れり。
 黒き糸して、左も右もその色の花どもを造りて、上に押したり。右は綿入れず。紅葉の人たち、瑠璃をのべたる扇どもをさし隠したり。挿櫛に物忌、糸して紅葉、菊にてつけたり。美濃の君、唐衣に金を延べて、「あられふるらし」といふ歌をも摺りたり。左の人々檜扇どもなり。衣にはみな綿入れたれど、表着、裳、唐衣は冬のにてなんありける。
 右には桜人といふことを銀の洲浜にて、歌書くものは冊子十帖、銀、金、浮線綾、象眼を尽して二つづつ、銀、黄金の糸を文に結びて玉を文に据ゑたり。歌書くべき冊子どもに、(略)
(栄花物語~新編日本古典文学全集)

ほしのひかりだに見えずくらきに、うちしぐれつゝ、このはにかゝるをとのおかしきを、「中々にえむにおかしき夜かな。月のくまなくあかゝらむも、はしたなく、 まばゆかりぬべかりけり」春秋の事などいひて、「時にしたがひ見ることには、春がすみおもしろく、そらものどかにかすみ、月のおもてもいとあかうもあらず、とをうながるゝやうに見えたるに、琵琶のふかうてうゆるゝかにひきならしたる、いといみじくきこゆるに、又秋になりて、月いみじうあかきに、そらはきりわたりたれど、手にとるばかり、さやかにすみわたりたるに、かぜのをと、むしのこゑ、とりあつめたる心地するに、箏のことかきならされたる、ゐやう定のふきすまされたるは、なぞの春とおぼゆかし。又、さかとおもへば、冬の夜の、そらさへさえわたりいみじきに、 ゆきのふりつもりひかりあひたるに、ひちりきのわなゝきいでたるは春秋もみなわすれぬかし」といひつゞけて、「いづ れにか御心とゞまる」ととふに、秋の夜に心をよせてこたへ給を、さのみおなじさまにはいはじとて、
あさ緑花もひとつにかすみつゝおぼろに見ゆる春の夜の月
とこたへたれば、返々うちずんじて、「さは秋のよはおぼしすてつるななりな、
こよひより後のいのちのもしもあらばさは春の夜をかたみとおもはむ
といふに、秋に心よせたる人、
人はみな春に心をよせつめり我のみや見む秋のよの月
とあるに、いみじうけうじ、思わづ らひたるけしきにて、「もろこしなどにも、昔より春秋のさだめは、えし侍らざなるを、このかうおぼしわかせ給けむ御心ども、おもふにゆへ侍らむかし。わが心のなびき、そのおりのあはれとも、おかしとも思事のある時、やがてそのおりのそらのけしきも、月も花も心にそめらるゝにこそあべかめれ。 春秋をしらせ給けむことのふしなむ、いみじううけたまはらまほしき。
(更級日記~バージニア大学HPより)

ある所に、春秋いつれかまさるとゝはせ給けるに、よみてたてまつりける 紀貫之
春秋におもひみたれてわきかねつ時につけつゝうつるこゝろは
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

末の春加(くは)はれる年、花ものどやかにやと思ひやるをりに、白雲のかかる桜の匂ひはたぐひあらじとみゆるを瓶にさされたりし。さぶらふ人人それにつけて、「春秋をいづれまさるらむ、貫之だに時につけつつといひおける。」など云ひ交(か)はしつつ、春に心よりたる人は、柳の糸を引き、秋の色に心を染めたる人は、紅葉の錦にてもののなきにや。唐の詩(うた)にも、春の遊びにすぐれたりとこそ、秋を益田(ますだ)の池のいひけるを、絵にかき歌によみて御覧ぜさせむとて、左春、右秋とさだめて、女房十人づつ、宮司まで分かれたり。(略)
(春秋歌合~平安朝歌合大成)

元良のみこ、承香殿のとしこに、春秋いつれかまさるとゝひ侍けれは、あきもおかしう侍りといひけれは、おもしろきさくらを、これはいかゝといひて侍けれは
おほかたの秋に心はよせしかと花みる時はいつれともなし
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

中将、中務、秋の寝覚のあはれ、事古めかしう改めて定むるに、中将、春の曙なんまさるとあらがひての比、中将山里にこもりゐたるに、中務いひやる
やま里にありあけの月をながめても猶やしられぬ秋のあはれは
返し、中将
秋の夜の外山の里の寝覚にも霞みすぎにし空ぞかなしき
(大斎院御集)

「女御の、秋に心を寄せたまへりしもあはれに、君の、春の曙に心しめたまへるもことわりにこそあれ。時々につけたる木草の花によせても、御心とまるばかりの遊びなどしてしがなと、公私のいとなみしげき身こそふさはしからね、いかで思ふことしてしがなと、ただ、御ためさうざうしくやと思ふこそ、心苦しけれ」
など語らひきこえたまふ。
(源氏物語・薄雲~バージニア大学HPより)

中宮の御前に、秋の花を植ゑさせたまへること、常の年よりも見所多く、色種を尽くして、よしある黒木赤木の籬を結ひまぜつつ、同じき花の枝ざし、姿、朝夕露の光も世の常ならず、玉かとかかやきて作りわたせる野辺の色を見るに、はた、春の山も忘られて、涼しうおもしろく、心もあくがるるやうなり。
春秋の争ひに、昔より秋に心寄する人は数まさりけるを、名立たる春の御前の花園に心寄せし人々、また引きかへし移ろふけしき、世のありさまに似たり。
(源氏物語・野分~バージニア大学HPより)

天皇、内大臣藤原朝臣に詔(みことのり)して、春山の万花の艶(にほひ)と秋山の千葉の彩(いろ)とを競ひ憐れびしめたまふ時に、額田王が歌をもちて判(ことは)る歌
冬こもり 春さり来れば 鳴かずありし 鳥も来鳴きぬ 咲かずありし 花も咲けれど 山を茂み 入りても取らず 草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてぞ偲ふ 青きをば 置きてぞ嘆く そこし恨めし 秋山我は
(万葉集~角川文庫・伊藤博校注)

あらそひし春をわするゝ人もあれや花さく野への秋の千種に
(『古筆手鑑大成⑦あけぼの・下(梅沢記念館蔵)』昭和61年、角川書店、18ページ。後奈良院自筆歌切。)

藤壷女御の前栽合の歌を判せさせ給とてよませ給ける 延喜御歌
花の色はこなたかなたにみゆれとも秋の心はひとつなりけり
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす よみ人しらす
春はたゝ花のひとへにさくはかり物のあはれは秋そまされる
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

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古典の季節表現 三月下旬

2013年03月23日 | 日本古典文学-春

 弥生の二十日あまりのころほひ、春の御前のありさま、常よりことに尽くして匂ふ花の色、鳥の声、ほかの里には、まだ古りぬにやと、めづらしう見え聞こゆ。山の木立、中島のわたり、色まさる苔のけしきなど、若き人々のはつかに心もとなく思ふべかめるに、唐めいたる舟造らせたまひける、急ぎ装束かせたまひて、下ろし始めさせたまふ日は、雅楽寮の人召して、舟の楽せらる。親王たち上達部など、あまた参りたまへり。
 (略)こなたかなた霞みあひたる梢ども、錦を引きわたせるに、御前の方ははるばると見やられて、色をましたる柳、枝を垂れたる、花もえもいはぬ匂ひを散らしたり。ほかには盛り過ぎたる桜も、今盛りにほほ笑み、廊をめぐれる藤の色も、こまやかに開けゆきにけり。まして池の水に影を写したる山吹、岸よりこぼれていみじき盛りなり。水鳥どもの、つがひを離れず遊びつつ、細き枝どもを食ひて飛びちがふ、鴛鴦の波の綾に紋を交じへたるなど、ものの絵やうにも描き取らまほしき、まことに斧の柄も朽たいつべう思ひつつ、日を暮らす。(略)
 南の御前の山際より漕ぎ出でて、御前に出づるほど、風吹きて、瓶の桜すこしうち散りまがふ。いとうららかに晴れて、霞の間より立ち出でたるは、いとあはれになまめきて見ゆ。
(源氏物語・胡蝶~バージニア大学HPより)
六条院にて、池に舟浮けて、女房あまた乗りて遊び侍りける中に よみ人知らず源氏
春の日のうららにさして行く舟は棹の滴に花ぞ散りける
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

三月二十日あまり、南殿の桜盛りなるに、清涼殿の南面に、花御覧ずるついでに、御遊びあり。女ばらの中には、中納言の典侍、宰相、小弁、侍従、命婦など、おのおの心を尽くしたるものの音(ね)どもなり。内裏(うち)も御耳いつかしく、おとどさへおはすれば、「手触れにくし」とやすらへども、掻き給ふに、殿の左大将、御子の頭の中将、中宮の亮などおはします。右大将のおとどよ。昔の人々の子ども、おのおの、とりどりに、横笛・笙の笛など吹き給ふ。いと面白き世の御遊びなり。
(雫ににごる~「中世王朝物語全集11」笠間書院)

やよひの二十日ごろ、冷泉院の中宮、后に立たせ給ひけるに、池の中島の藤、松にかかりてなべてならぬに、これかれ歌よみ侍りけるに 袖ぬらすの源中納言
松風も枝を鳴らさぬ宿なればかかれる藤の陰ぞのどけき
うちのおとど
かげさへぞなべては見えぬ紫の雲立ち添へる池の藤波
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

春の暮つかた、のどやかに艶なる空に、いやしからぬ家の、奥深く、木だち物ふりて、 庭に散りしをれたる花、見過ぐしがたきを、さし入りて見れば、南面の格子皆おろし て淋しげなるに、東にむきて妻戸のよきほどにあきたる、御簾のやぶれより見れば、 かたちきよげなる男の、とし廿ばかりにて、うちとけたれど、心にくゝのどやかなる さまして、机の上に文をくりひろげて見ゐたり。
いかなる人なりけん、たづねきかまほし。
(徒然草~バージニア大学HPより)

 天暦三年三月つこもりの日文人めして花も鳥も春のをくりすといふ心を詩につくらせ給にやかてやまと歌ひとつそへてまいらせよとおほせられしに
櫻花のとけき春の雨にこそふかきにほひもあらはれにけれ
(高光集~群書類従14)

三月のつごもりなれば、京の花盛りはみな過ぎにけり。山の桜はまだ盛りにて、入りもておはするままに、霞のたたずまひもをかしう見ゆれば、(略)
(略)後への山に立ち出でて、京の方を見たまふ。はるかに霞みわたりて、四方の梢そこはかとなう煙りわたれる(略)
明けゆく空は、いといたう霞みて、山の鳥どもそこはかとなうさへづりあひたり。名も知らぬ木草の花ども、いろいろに散りまじり、錦を敷けると見ゆるに、鹿のたたずみ歩くも、めづ らしく見たまふに、悩ましさも紛れ果てぬ。
(源氏物語・若紫~バージニア大学HPより)

三月晦方に、散り果て方なる枝につけて、人に
散りにしは見にもや来ると桜花風にもあてで惜しみしものを
(和泉式部集~岩波文庫)

弘長百首歌に 前大納言為氏
来てみんといひしはかりにうつろひぬ弥生の花の春の暮かた
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月二十日、夜(よ)雨ふる。中宮大夫殿神樂をうそぶき給ひて、「蕭々たる暗き雨の窓を打つ聲」とくちずさみ給ふ。繪物語に書きたらむことを聞くやうにて、おもしろし。雨風も共にはげしければ、
物ごとにあはれすすむるけしきにて秋とおぼゆる雨のおとかな
あくる日、清凉殿の方に、大納言殿へ御ともに、三人出でて見れば、雨風に花はあとかたなく散りて、簀子に白く散りたり。
夜とともの雨と風とにしをられて軒端のさくら散り果てにけり
大納言殿、
をりしもあれ花散るころの雨風ようたても春のすゑに降りぬる
(中務内侍日記~有朋堂文庫「平安朝日記集」)

題しらす 権大納言公実
山桜春のかたみにたつぬれはみる人なしに花そちりける
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

春の暮の歌 入道前太政大臣
白雲にまかへし花は跡もなし弥生の月そ空に残れる
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

はなのいろはやよひのそらにうつろひてつきそつれなきありあけのやま
(秋篠月清集~日文研HPより)

春の歌の中に 藤原教兼朝臣
花の後も春のなさけは残りけり有明かすむしのゝめの空
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

はるもはやあはれいくよにありあけのつきかけほそきよこくものそら
(延文百首~日文研HPより)

光明峰寺入道前摂政、内大臣のときの百首に、暮春を 前中納言定家
春はたゝかすむはかりの山のはに暁かけて月いつるころ
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月二十日あまりのほどになむ、都を離れたまひける。(略)
明けぬれば、夜深う出でたまふに、有明の月いとをかし。花の木どもやうやう盛り過ぎて、わづ かなる木蔭の、いと白き庭に薄く霧りわたりたる、そこはかとなく霞みあひて、秋の夜のあはれにおほくたちまされり。
(源氏物語・須磨~バージニア大学HPより)

都を出て日數歴れば、彌生も半過ぎ、春も既に暮なんとす。遠山の花は殘の雪かと見えて、浦々島々かすみ渡り、(略)
(平家物語~バージニア大学HPより)

三月も半過ぬれど、霞に曇る有明の月は猶朦なり。越地を指て歸る雁の雲居に音信行も、折節哀に聞召す。
(平家物語~バージニア大学HPより)

弥生も末の七日、明ぼのゝ空朧々として、月は在明にて光おさまれる物から不二の峯幽にみえて、上野谷中の花の梢又いつかはと心ぼそし。 むつまじきかぎりは宵よりつどひて舟に乗て送る。千じゆと云所にて船をあがれば、前途三千里のおもひ胸にふさがりて幻のちまたに離別の泪をそゝく。
(奥の細道~バージニア大学HPより)

月に散る、花の降行く宮巡り。運ぶ歩(あゆみ)の数よりも、運ぶ歩(あゆみ)の数よりも、積もる桜の雪の庭、又色添へて紫の、花を垂れたる藤の門(かど)、明くるを春の気色かな、明くるを春の気色かな。
(謡曲・采女~岩波・新日本古典文学大系「謡曲百番」)

 三月になりて、六条殿の御前の、藤、山吹のおもしろき夕ばえを見たまふにつけても、まづ見るかひありてゐたまへりし御さまのみ思し出でらるれば、春の御前をうち捨てて、こなたに渡りて御覧ず。
 呉竹の籬に、わざとなう咲きかかりたるにほひ、いとおもしろし。「色に衣を」などのたまひて、
 「思はずに 井手の中道隔つとも言はでぞ恋ふる山吹の花
  顔に見えつつ」
 などのたまふも、聞く人なし。
(源氏物語・真木柱~バージニア大学HPより)

 三月の末に卯花の咲るを見侍りて
またきよりやよひをかけて夏衣さらしそめぬる岸のうの花
(隣女和歌集~群書類従14)

三月つごもりがたにかりのこのみゆるを「これを十づゝかさぬるわざをいかでせん」とて手まさぐりに生絹のいとをながうむすびてひとつむすびてはゆひひとつむすびてはゆひしてひきたてたればいとようかさなりたり。「なほあるよりは」とて九條殿女御殿御方にたてまつる。うのはなにぞつけたる。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

さきいつるいはねかみねのふちかつらはるはすくれとくるひともなし
(夫木抄~日文研HPより)

春の暮れつ方、心地の頼もしげなくおぼえければ 霞隔つるの左大将
幾返り春の別れを惜しみきて憂き身を限る暮れに会ふらん
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

平家嫡々正統小松内大臣重盛公之子息、権亮三位中将維盛入道、讃岐屋島戦場を出て、三所権現之順礼を遂、那智の浦にて入水し畢。
元暦元年三月二十八日、生年二十七と書給ひ、奥に一首を被遺けり。
  生ては終にしぬてふ事のみぞ定なき世に定ありける
其後又島より船に移乗、遥(はるか)の沖に漕出給ぬ。思切たる道なれど、今を限の浪の上、さこそ心細かりけめ。三月の末の事なれば、春も既に暮ぬ。海上遥霞籠、浦路の山も幽也。沖の釣舟の波の底に浮沈を見給ふにも、我身の上とぞ被思ける。帰雁の雲井の余所に一声二声(ふたこゑ)音信(おとづるる)を聞給ても、故郷へ言伝せまほしくおぼしけり。西に向ひ掌を合、念仏高く唱へつゝ、心を澄し給へり。
(源平盛衰記~バージニア大学HPより)
比は三月廿八日の事なれば、海路遙に霞渡り、哀を催す類也。唯大方の春だにも、暮行空は懶きに、況や今日を限の事なれば、さこそは心細かりけめ。沖の釣船の浪に消入る樣に覺ゆるが、さすが沈も果ぬを見給ふにも、御身の上とやおぼしけん。己が一行引連て、今はと歸る雁がねの、越路を差て啼行も、故郷へ言づけせまほしく、蘇武が胡國の恨まで、思ひ殘せるくまもなし。
(平家物語~バージニア大学HPより)

弥生の廿日あまりの比、はかなかりし人の、水のあわとなりける日なれば、れいの心ひとつに、とかく思ひいとなむにも、我がなからんのち、たれかこれほども思ひやらん。かく思ひしこととて、思ひ出づべき人もなきが、たへがたくかなしくて、しくしくと泣くよりほかの事ぞなき。我が身のなくならむことよりも、これがおぼゆるに、
いかにせん我がのちの世はさてもなほ昔のけふをとふ人もがな
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)

 春深くなりゆくままに、御前のありさま、いにしへに変らぬを、めでたまふ方にはあらねど、静心なく、何ごとにつけても胸いたう思さるれば、おほかたこの世の外のやうに、鳥の音も聞こえざらむ山の末ゆかしうのみ、いとどなりまさりたまふ。
 山吹などの、心地よげに咲き乱れたるも、うちつけに露けくのみ見なされたまふ。他の花は、一重散りて、八重咲く花桜盛り過ぎて、樺桜は開け、藤は後れて色づきなどこそはすめるを、その遅く疾き花の心をよく分きて、いろいろを尽くし植ゑおきたまひしかば、時を忘れず匂ひ満ちたるに、(略)
(源氏物語・幻~バージニア大学HPより)

(天暦三年三月)廿二日乙丑。天皇御弓場殿。御覧侍臣賭弓。藤壺女御(安子)御曹司懸物。(女装束一襲也。)
(日本紀略~「新訂増補 国史大系11」)

(寛元二年三月)廿四日甲子。御書所作文也。題云。詩情不限年。題中也。
(百錬抄~「新訂増補 国史大系11」)

(建仁二年三月)廿六日。太上天皇臨幸石清水宮。諸衛一員幷舞人等供奉。於宮寺有競馬事。勅使参議右中将家経卿参向。被行勧賞。
(百錬抄~「新訂増補 国史大系11」)

(治承四年三月)卅日。天晴る。法性寺に向ふ。右武衛渡らる。藤の花を見る。
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(承元二年三月)廿一日。巳後に雨。未後に休む。巳の一点に、北野に参詣す。今日、一切経会と云々。即ち常盤殿に参ず。御影供。僧早く参ずるに依り、忩ぎ行はれ了んぬと云々。六角三位一人参会すと云々。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(建保五年三月)廿九日(晦)。終夜今朝、甚雨。今日、陰明門院前栽合せ。昨一昨日、道路に草木を荷負ひて往反すと云々。日来音信の人多し。本より異物を栽ゑず。更に然るべき者無き由を答ふ。尋ね求めらるる所、皆珍しき異物と云々。見ず知らざる所なり。(略)三位入道、今日長春花(きんせんくゎ)・女郎花等を取る(普通、平の懐物なり)。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

コメント (4)
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