「仮の現(うつつ)」という用語は、日本国語大辞典・第2版では、浄瑠璃『心中重井筒』(1707年)からの例が添えられていますが、200年以上さかのぼる用例があります。
おもへ猶昔をぬれば見る夢の夢にさめたるかりのうつつぞ
(10・草根集、10444)
『新編国歌大観 第八巻 私家集編4 歌集』角川書店、1990年、253ページ
「仮の現(うつつ)」という用語は、日本国語大辞典・第2版では、浄瑠璃『心中重井筒』(1707年)からの例が添えられていますが、200年以上さかのぼる用例があります。
おもへ猶昔をぬれば見る夢の夢にさめたるかりのうつつぞ
(10・草根集、10444)
『新編国歌大観 第八巻 私家集編4 歌集』角川書店、1990年、253ページ
「仮の憂世/浮世(かりのうきよ)」という用語は日本国語大辞典・第二版では、「①はかない、この世。無常である現世。」という語釈があり、用例は夫木抄からの例をあげていますが、もっとさかのぼる例があります。
我はただかりのうき世ぞあはれなる春のきぎすのなれるすがたを
(117・頼政集、658)
『新編国歌大観3 私家集編1 歌集』角川書店、1985年、528ページ
「仮の宿り」という用語の用例は、日本国語大辞典・第二版では、1086年の「後拾遺和歌集」の和歌を早い例として採っていますが、さかのぼる用例があります。
たれもみなかりのやどりにかすめどもさきにたつよのあはれをぞしる
(30・斎宮女御集、219)
『新編国歌大観3 私家集編1 歌集』角川書店、1985年、109ページ
よのなかは-かくこそみゆれ-つくつくと-おもへはかりの-やとりなりけり(高光集)日文研の和歌データベースより
日本国語大辞典・第二版では「霞の水脈(みお)」という用語は立項していませんが、以下の複数の用例があります。語釈としては、「霞が流れて筋のように見える部分。また、霞の筋を川に見立てていう。」というくらいの意味でしょうか。
川上霞
八番 右 成茂宿禰
水上や岸の柳のふかみとり霞のみをのしるし成けり
十番 左 頼氏朝臣
朝またき霞のみをも白浪の瀧(ママ)田の川をわたるかち人
(巻第百九十八・石清水若宮歌合)
塙保己一編『群書類従・第十二輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1993年、506ページ
(↑二首目の和歌は新編国歌大観5巻では「朝またき霞のみをも白浪の竜田の川をわたるかち人」となっています。)
ふたもとの-すきのこすゑや-はつせかは-かすみのみをの-しるしなるらむ(壬二集)日文研の和歌データベースより
春雪 民部卿為明
春きても霞のみおはさゆる日に降くる雪の淡ときゆらん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
わたつうみや-しほのひるまの-はまひさき-かすみのみをや-またうつむらむ(新玉津島社歌合)日文研の和歌データベースより
湖上霞
けさみれは霞のみをにうかひ出てみきはそわかぬしかの浦舟
(巻第二百三十九・為重卿集)
塙保己一編『群書類従・第十四輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1993年、248ページ
山霞
瀧のうへの山はみふねの名もしるし霞のみをはやうかふ也(2ページ)
暮春霞
さてははや霞のみ尾に舟出してかへるか春のすゑの白波(9ページ)
(巻第百六十三・為尹千首)
塙保己一編『群書類従・第十一輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1993年
春さむき霞のみをにけふしこそ御舟の山もうかふあは雪(草根集)日文研の和歌データベースより
川上の霞のみをにまほかけてうかふ三室の山かつらせり(草根集)日文研の和歌データベースより
「霞の波」という用語の例として日本国語大辞典・第二版には1310年頃の用例を載せていますが、100年ほど早い用例があります。以下の歌合の判詞では難とされているので、藤原定家が新しい表現を試みたのだと思われます。「千五百番歌合」は1202~03年頃の歌合。
くものなみかすみのなみにまがへつつよしのの花のおくを見ぬかな
(197・千五百番歌合、358・定家)
『新編国歌大観 第五巻 歌合編、歌学書・物語・日記等収録歌編 歌集』1987年、角川書店、428ページ
1207年の賀茂別雷社歌合の定家歌で「海辺帰雁」題の以下の和歌にも「霞の波」が含まれています。
うらにたく-もしほのけふり-たちわかれ-かすみのなみに-かへるかりかね(日文研の和歌データベースより)
1207年成立の最勝四天王院障子和歌では、俊成女が「住吉浜」の歌として、以下の和歌を作歌。
あはちしま-みとりにまかふ-すみよしの-かすみのなみに-はるのふなひと(日文研の和歌データベースより)