monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

大手拓次「みづいろの風よ」

2019年05月03日 | 読書日記

  みづいろの風よ

かぜよ、
松林(しやうりん)をぬけてくる 五月の風よ、
うすみどりの風よ、
そよかぜよ、そよかぜよ、ねむりの風よ、
わたしの髪を なよなよとする風よ、
わたしの手を わたしの足を
そして夢におぼれるわたしの心を
みづいろの ひかりのなかに 覚(さ)まさせる風よ、
かなしみとさびしさを
ひとつひとつに消してゆく風よ、
やはらかい うまれたばかりの銀色の風よ、
かぜよ、かぜよ、
かろくうづまく さやさやとした海辺の風よ、
風はおまへの手のやうに しろく つめたく
薔薇の花びらのかげのやうに ふくよかに
ゆれてゐる ゆれてゐる、
わたしの あはいまどろみのうへに。

(大手拓次「藍色の蟇」~青空文庫より)