monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 春 花(櫻)に寄せて

2013年03月16日 | 日本古典文学-春

きさらきはかりに、小侍従あつまよりのほりぬと聞て、法橋顕昭許より、「今はよし君まちえたりかくてこそ都の花をもろともにみめ」といひつかはしたりける返事に 小侍従
あひみんといそきし物を君はさは花ゆへのみや我を待ける
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

一条院御時、殿上人々花見にまかりて女のもとにつかはしける 源雅通朝臣
折はおしおらてはいかゝ山さくらけふをすくさす君にみすへき(イ君にみすへく)
返し 盛少将
おらてたゝかたりにかたれ山桜風にちるたにおしき匂ひを
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

南殿の桜の盛りに、春宮・二のみこなど、花折りてとのたまはせけるに、奉り侍りけるを、帝、吹き寄る風も恨めしきに情なしや、とのたまはせければ、奏し侍りける 御手洗川の内大臣
行方なき風だに散らす花なれば君がためには手折らざらめや
(風葉和歌集~岩波文庫)

軒の桜を人の折りて見せ侍りければ 忍ぶ草の関白
限りありて散るだに惜しき花の色を心づからも手折る君かな
返し 中納言
大空の風にまかせて散るよりは折りとめてこそ見るべかりけれ
(風葉和歌集~岩波文庫)

平忠度朝臣山里の花見侍けるに、家つとはおらすやと申つかはして侍けれは、「家つともまたおりしらす山桜ちらて帰りし春しなけれは」と申て侍ける返事に 小侍従
我ためにおれやひと枝山さくら家つとにとはおもはすもあれ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

にほふ兵部卿の宮、初瀬まうでのかへさに、宇治に留まりて侍りけるに、おもしろき花の枝を折りて、「山桜にほふあたりに尋ね来て同じかざしを折りてけるかな」と侍りければ 宇治の中の君
かざし折る花のたよりに山がつの垣根を過ぎぬ春の旅人
(風葉和歌集~岩波文庫)

女院、一条院におはしましけるころ、南殿の桜を一枝奉らせ給ひて 言はで忍ぶの嵯峨院御歌
九重のにほひはかひもなかりけり雲居の桜君が見ぬまは
(風葉和歌集~岩波文庫)

花のさかりに、桜のちいさき枝にむすひつけて、寂蓮か許につかはしける 藤原隆信朝臣
きてみよとさらにもいはし山さくら残りゆかしき程にやはあらぬ
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

花の散るころ、人のまうできたりけるに 花桜折る中将
散る花を惜しみおきても君なくはたれにか見せむ宿の桜を
(風葉和歌集~岩波文庫)

家のやへ桜をおらせて、惟明親王の許につかはしける 式子内親王
八重匂ふ軒端のさくらうつろひぬ風よりさきにとふ人もかな
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

白雲の 龍田の山の 瀧の上の 小椋の嶺に 咲きををる 桜の花は 山高み 風しやまねば 春雨の 継ぎてし降れば ほつ枝は 散り過ぎにけり 下枝に 残れる花は しましくは 散りな乱ひそ 草枕 旅行く君が 帰り来るまで
(万葉集~バージニア大学HPより)

民部卿為藤三月比、東山の庵室に尋まかりて花見侍て後、「山里の梢はいかゝなりぬらん都の花は春風そふく」と申つかはして侍ける返しに 頓阿法師
山里はとはれし庭も跡たえてちりしく花に春風そ吹
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

もとよしのみこ、兼茂朝臣のむすめにすみ侍けるを、法皇のめしてかの院にさふらひけれは、えあふ事も侍らさりけれは、あくるとしの春、さくらの枝にさしてかのさうしにさしをかせける もとよしのみこ
花のいろは昔なからに見し人の心のみこそうつろひにけれ
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

題知らず よみ人知らずみ山隠れ
散る花は後の春をも待つものを人の心ぞ名残だになき
(風葉和歌集~岩波文庫)

題しらす 小野小町
花の色はうつりにけりないたつらに我身世にふるなかめせしまに
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

たいしらす いつみしきふ
人も見ぬやとにさくらをうへたれは花もてやつす身とそ成ぬる
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

そめとのゝきさきのおまへに、花かめに桜の花をさゝせたまへるをみてよめる さきのおほきおほいまうちきみ
年ふれはよはひはおいぬしかはあれと花をしみれは物思ひもなし
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

一条院御時、ならの八重桜を人の奉りけるを、そのおり御前に侍けれは、そのはなをたいにて、うたよめとおほせことありけれは 伊勢大輔
いにしへのならのみやこの八重桜けふ九重ににほひぬる哉
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

三月八日は、除目なれば、曉ちかく御夜なれど、奏書を持ちて明くるまで寢ず。ほのぼのとするに、「曙の花見む。」といひて、大納言・權大納言・佐殿・新少將四人、釣殿に出でて池の花を見れば、盛りなるもあり、すこし散るもあり。「今年は風や吹かぬ。花や盛と見えて久しくなりぬ。」といへば、
九重は風もよぎてや吹き過ぐるさかりひさしく見ゆるはなかな
(中務内侍日記~有朋堂文庫「平安朝日記集」)

後冷泉院位につかせ給にける年の三月、南殿の桜のさかりなるをみて読侍ける 出羽弁
風ふけと枝もならさぬ君か代に花のときはを始てしかな
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

後冷泉院御時、月のあかかりける夜女房御ともにて南殿にわたらせ給ひたりけるに、庭の花かつちりておもしろかりけるを御覧して、是をしりたらん人に見せはやとおほせ事ありて、中宮の御かたに下野やあらんとてめしにつかはしたりけれは、まいりたるを御覧して、あの花おりてまいれとおほせことありけれはおりてまいりたるを、たゝにてはいかゝとおほせ事ありけれはつかうまつりける 下野
なかきよの月のひかりのなかりせは雲ゐの花をいかておらまし
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

長治二年閏二月中宮の花合に よみ人しらす
もゝしきに八千世かさねて桜花にほはん春そかきりしられぬ
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

西園寺に御幸ありて、翫花といふ題を講せられけるに 後嵯峨院御歌
万代の春日をけふになせりとも猶あかなくに花や散らん
宝治元年三月三日、西園寺へ御幸ありて、翫花といふことを講せられけるに 山階入道前左大臣
君か代にあふもかひある糸桜としのをなかく折てかさゝん
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘長三年二月、亀山殿に行幸ありて、花契遐年といふことを講せられけるに、序を奉りて 山階入道左大臣
ことしより御幸に契る山桜おもふも久しよろつ代の春
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
亀山院御時、亀山殿に行幸ありて、花契遐年と云事を講せられけるに 中院前内大臣
万代の君かかさしに折をえてひかりそへたる山さくらかな
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
弘長三年二月、亀山仙洞に行幸ありて、花契遐年といふことを講せられし時 中納言(典侍親子朝臣)
花みてものとけかりけり幾千代とかきりもしらぬ春の心は
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

明くる春の頃、内には中殿にて和歌の披講有り。序は源大納言親房書かれけり。予てよりいみじう書かせ給へば、人々心遣すべし。題は「花に万春を契」とぞ聞こえし。
 御製、
 時知らず花も常盤の色に咲け我が九重の万世の春
 中務の卿尊良の親王、
のどかなる雲井の花の色にこそ万世ふべき春は見えけれ
 帥の御子世良、
 百敷の御垣の桜咲きにけり万世までの春のかざしに
(増鏡~和田英松編「校註増鏡」)

元徳二年、中殿にて、花契万春と云事を講せられしに 今出河入道前右大臣
君かためひさしかるへき春にあひて花もかはらす万代やへん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
元徳二年、中殿にて、花契万春といへることを講せられける時 前大納言為定
九重のおほうち山もよはふなり花咲春はつきしとそ思
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
 元徳二年二月中殿にて花契万春といふことを講せられける時 藤原為忠朝臣
吹風ののとけき春と咲花は万代かけてちらすもあらなん
(臨永和歌集~「群書類従10」)

正元元年三月五日、西園寺の花ざかりに、大宮院、一切経供養せさせ給ふ。(略)又の日、御前の御遊び始まる。(略)御遊び果てて後、文台めさる。院の御製、
色々に枝をつらねて咲きにけり花も我が世も今盛りかも
あたりをはらひて、きはなくめでたく聞こえけるに、主の大臣、歌さへぞ、かけあひて侍りしや。
色々にさかへて匂へ桜花我君々の千代のかざしに
(増鏡~和田英松編「校註増鏡」)

正元々年三月、西園寺の一切経供養に行幸侍けるに、春宮中宮おなしく行啓有て次日、人々翫花といふ心をつかうまつりけるに 前大納言顕朝
ためしなきあまた御幸のけふにあひて花は八千世の色に出らん
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
正嘉三年、西園寺にて一切経供養せられける次の日、翫花といふ事を講せられけるに 後深草院少将内侍
桜花あまた千とせのかさしとやけふのみゆきの春にあふらん
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
正元々年三月、大宮院西園寺にて一切経供養せられし日行幸侍しに、東宮おなしく行啓ありてつきの日、人々翫花歌よみ侍しに 前内大臣〈公干時右近大将〉
もろ人の手ことにかさす桜花あまた千とせの春そしらるゝ
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

貞治六年、中殿にて、花多春友といへる事を講せられけるついてによませ給うける 後光厳院御製
咲匂ふ雲ゐの花の本枝に(イもとつ枝に)百世の春を猶や契らん
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

建保二年二月廿四日、南殿に出させ給うて、翫花といへる事をよませ給うける 順徳院御製
百敷や花もむかしのかをとめてふるき梢にはる風そ吹
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

さくらの花のさきて侍ける所に、もろともに侍ける人の、後の春ほかに侍けるに、そのはなをおりてつかはしける よみ人しらす
もろともにおりし春のみ恋しくてひとり見まうき花さかりかな
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

後京極摂政大炊殿にはやうすみ侍けるを、かしこにうつりゐて後の春、やへ桜につけて申つかはしける 式子内親王
ふる郷のはるをわすれぬ八重桜これやみし世にかはらさるらん
返し 後京極摂政前太政大臣
八重桜折しる人のなかりせはみし世の春にいかてあはまし
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

はやうすみ侍ける家の桜を、箱のふたに入て人のもとにつかはすとて 中務
年をへておりける人もとはなくに春をすこさぬ花をみる哉
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

春のあけぼの、衛門督の上もろともにながめ明かして (寝覚)
朝ぼらけ憂き身霞にまがへつつ幾度(いくたび)春の花を見るらむ
(物語二百番歌合~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

題しらす 源兼朝
七十の春を我身にかそへつゝことしも花に逢みつるかな
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

かしらおろして後、東山の花見ありき侍けるに、円城寺の花おもしろかりけるをみて読侍ける 前中納言基長
いにしへにかはらさりけり山桜はなは我をはいかゝ見るらむ
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

高陽院の花さかりにしのひて東西の山の花見にまかりてけれは、宇治前太政大臣きゝつけて、このほといかなるうたかよみたるなととはせて侍けれは、ひさしくゐ中に侍てさるへき歌なともよみ侍らす、けふかくなんおもほゆるとてよみ侍ける 能因法師
世中を思ひすてゝし身なれとも心よはしと*花に見えける(イ花に見えぬる)
是をきゝて、太政大臣いと哀なりといひて、かつけ物なとして侍けるとなんいひつたへたる
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

修行しありかせ給ひけるに、さくらの花の、さきたりけるしたにやすみ給ひて、よませ給ける 花山院御製
木のもとを栖とすれはをのつから花みる人になりぬへき哉
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)
那智に籠りて瀧に入堂し侍りけるに此上に一二の瀧おはしますそれへまゐるなりと申す住僧の侍りけるにぐしてまゐりけり花や咲きぬらんと尋ねまほしかりける折節にてたよりある心地して分け參りたり二の瀧のもとへまゐりつきたり如意輪の瀧となむ申すと聞きて拜みければまことにすこしうちかたぶきたるやうにながれくだりてたふとくおぼえけり花山院の御庵室の跡の侍りける前に年ふりたる櫻の木の侍りけるを見てすみかとすればと詠ませ給ひけむ事思ひ出でられて
木のもとに住みけむ跡を見つるかな那智の高根の花を尋ねて
(山家集~バージニア大学HPより)

山里に心細くて侍りけるころ、花を見てよめる 煙にむせぶの姫君の新宰相
知る人もなき山里に友と見る花に遅れぬ命ともがな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

病重くなりにける春、中納言、花の枝を折りて、かやうなる梢にて心地も慰みなんや、とて見せ侍りければ 重ぬる夢の大将
あだなりと嘆きし花の散らぬまに先立ちぬべき我ぞ悲しき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

老の病日にそへて万も覚えねど、南面の花盛りなりと聞きて、例の事なれば人々に案内して花の宴せしに
命あれば多くの秋になりぬれど今年ばかりの花は見ざりつ
この花常よりもめでたかりしを忘れ難けれど、昨日の名残に乱り心地まさりて、差出づべくも覚えざりしかば、人して折りにやりて見るにつけて
かばかりの花のにほひをおきながらまたも見ざらんことぞかなしき
この後病重くなりて、五月七日なんかくれ侍りける。
(顕輔集)

あれはてゝ人も侍らさりける家に、さくらのさきみたれて侍けるを見て 恵慶法師
浅茅原ぬしなき宿の桜花心やすくや風にちるらむ
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 読人不知
空蝉の世にもにたるか花さくらさくと見しまにかつちりにけり
(古今和歌集~日文研HPより)

花山にまかりけるに、僧正遍昭かむろのあとのさくらのちりけるを見て 津守国基
あるしなきすみかにのこる桜花あはれむかしの春や恋しき
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

大峰にておもひもかけすさくらの花の咲たりけるをみてよめる 僧正行尊
もろともに哀とおもへ山桜花よりほかにしる人もなし
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

 弥生の比、若宮に詣でたるに、長講堂近く見やらるれば、車さし寄せて見巡る。昔供花の折など、心に浮ぶ事多し。花の下(もと)に立ち寄れるに、変らぬにも、見し世の春にめぐり逢ひぬる心地して、思ひ出づる昔語りもせまほしきを、花物言はぬ慣(なら)ひさへぞ恨めしかりける。(略)
  宿もそれ花も見し世の木の下(もと)になれし春のみなどかとまらぬ
(竹むきが記~岩波・新日本古典文学大系51)


5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (mono)
2015-03-05 00:58:57
元徳二年の「花に万春を契」の文章と和歌を追加しました。
返信する
Unknown (mono)
2016-04-08 22:30:13
哀傷歌を別記事へ移しました。
返信する
Unknown (mono)
2016-04-09 00:28:35
山家集などを追加しました。
返信する
Unknown (mono)
2018-03-21 10:24:01
竹むきが記を追加しました。
返信する
Unknown (mono)
2024-04-22 02:11:00
臨永和歌集を追加しました。
返信する

コメントを投稿