入道前太政大臣大饗し侍ける屏風に、臨時客のかたかきたる所をよめる 藤原輔尹朝臣
むらさきもあけもみとりもうれしきは春のはしめにきたる也けり
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
鷹司とのゝ七十賀の月次屏風に、臨時に客のきたるところをよめる 赤染衛門
むらさきの袖をかさねて(イ袖をつらねて)きたるかな春たつ事は是そうれしき
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
春臨時客をよめる 小弁
むれてくる大宮人は春をへてかはらすなからめつらしきかな
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
はつ春のやどのあそびのをり得てぞ梅が枝うたふ声も聞こゆる
(年中行事歌合)
二日は、殿に臨時客などいとめでたし。女房紅梅の匂に、萌黄の打ちたる着たり。制あれば数五つなり。されど、綿いと厚くて、少なしとも見えず。あまたあるこそ厚きもあまりなれ、うち出でたるは、薄きはものげなきに、いときよげに見ゆ。上達部、殿上人参りたまひて、御遊びあり。右の大殿もの誦じなどせさせたまふ。
(栄花物語~新編日本古典文学全集)
よろづみな春の心つきて、空のけしきもひきかへ、さまざまにものけざやかにめでたきに、枇杷殿の宮には、今日臨時客なれば、関白殿をはじめたてまつりて、よろづの殿ばら残りなく参りたまふに、御前の庭、け近くをかしき木も花紅葉もなけれど、うちつけの目なるべし、東の対の御しつらひあざやかにめでたきに、寝殿を見れば御簾いと青やかなるに、朽木形の青紫に匂へるより、女房の衣の褄、袖口重なり、なほほかよりは匂ひまさりて見ゆるは、おほかたこの宮の女房は、衣の数をいと多う着させたまへばなるべし。中門のわたり、東の廊の妻戸などの見通しに、さるべき随身などの見やらるるに、この殿ばらの座につかせたまへるほどなど、きたなげなき四位、五位、六位などの、さまざま取りつづきもてまゐる有様、奥つ方の御屏風などまで、見るにもまことに絵にかきたる有様、いづこかたがひたるとぞ見ゆるに、若君の御簾の内より出でたまふを見れば、紅梅の御衣のあまた重なりたるに、同じ色の浮文の御直衣着たまひて、御前の高欄におしかかりておはすれば、(略)
(栄花物語~新編日本古典文学全集)
寛治八年正月二日、殿の臨時客ありけるに、左大臣左大将・右大臣・内大臣参たり。事はてゝ各(おのおの)御馬ひかれければ、三公地に下(くだり)て拝し給けり。殿下、左府随身府生下毛野敦久・右府前駆参川権守盛雅を南階の前にめして、御衣をぬぎてたまはせけり。内大臣・中納言中将、左右よりすゝみより給て、くれなゐのうちあこめ御ひとへをくりいだされけり。中納言中将つたへとりて、御単(ひとへ)をば敦久にたまひ、打衣(うちぎぬ)をば盛雅に給けり。先規(せんぎ)あれども、時にのぞみて面目ゆゝしくぞ侍ける。次(つぎに)中宮御方、臨時客に人々まゐり給けり。催馬楽・朗詠などはてゝ、散手・新靺鞨(しんまか)・其駒などにおよびける、淵酔の興ためしなくや侍らん。
(古今著聞集~岩波・日本古典文学大系)