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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 秋 七月下旬

2016年07月26日 | 日本古典文学-秋

(略)宇治ちかきところにてまた車にのりぬ。さてれいのところにはかたあしとてとゞまりぬ。さる用意したりければうかひかずをつくして一かはうきてさわぐ。いざちかくてみんとてきしづらにものたてしぢなどとりもていきておりたればあしのしたにうかひちがふ。こうをどもなどまだみざりつることなればいとをかしうみゆ。きこうじたる心ちなれど夜のふくるもしらずみいりてあれば、これかれ「今はかへらせたまひなんこれよりほかにいまはことなきを」などいへば「さは」とてのぼりぬ。さてもあかずみやればれいの夜ひとよともしわたる。いさゝかまどろめばふなばたをごほごほとうちたゝくおとにわれをしもおどろかすらんやうにぞさむる。あけてみれば夜のあゆいとおほかり。それよりさべきところどころにやりあかつめるもあらまほしきわざなり。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

七月晦日、女のもとに始めてやるとて、よませし
花薄ほのめかすより白露を結ばんとのみ思ほゆるかな
(和泉式部続集~岩波文庫)

延暦二十四年七月癸巳(二十六日)
使人を遣わして畿内の明神に奉幣した。祈雨(あまごい)のためである。
(日本後紀〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)

承和十四年七月丙戌(二十三日)
白馬を幣帛として丹生川上雨師神に奉納した。止雨を祈願してである。
(続日本後紀~講談社学術文庫)

(長保三年七月)二十六日、乙未。
新中将(成房)が立ち寄った。同車して左府の許に参った。馬場において納涼の饗宴が開かれた。
(権記~講談社学術文庫)

(正治二年七月)廿七日。天晴る。参上す。相次で御堂に参ず。中将殿退下さる。未の時許りに京を出で、嵯峨に入る。萩の花盛りの由、木守丸告ぐ。仍来臨す。近辺の井水、多く旱のために止まる。此の井水、又乏少と云々。
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(建仁二年七月)廿三日。天晴陰。心神又悩む。今日の暑気甚だしきの間、小屋煮るが如し。夜に入り、相扶けて宮廻り、又通夜せず。伊勢園の小屋に宿す。聊か涼しきに似たり。
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(元久元年七月)廿八日。天晴る。早旦、殿下に参ず。御供して、五辻の新御所に向ふ。御覧じ廻す。午の時に還りおはします。途より和歌所に参ず。昨日の如く、家隆朝臣参会す(雅経殊に遅参)。大理櫃二合を取り寄せらる。破子・瓜・土器・酒等あり。又寒氷あり。大理自ら刀を取り、氷を削らる。入興甚し。納涼の中と雖も、外人(うときひと)無きにあらず。堪能と称して之を削る。白き布巾を以て、氷を嚢(つつ)みて、左手に之を扣く。皐陶の職、頗る軽々たり。各々饗応して之を食す。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(建保元年七月)廿四日。天晴る。炎旱。日数幾ばくならずと雖も、陽景太だ盛んなり。草木多く枯槁す。暑気又堪へ難し。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

二十日 丁亥、深更ニ及テ、*風(*夜)静マリ、月明ラカナリ。将軍家、俄カニ佐渡ノ前司基綱ガ宅ニ渡御シタマフ。御車ヲ用ヒラル。御共ノ人人ハ、折節*此等(*八九人)バカリナリ。所謂周防ノ右馬ノ助、陸奥ノ掃部ノ助、三浦河内ノ守、毛利蔵人、兵庫ノ頭、*織部頭(*織部正)。同キ駿河ノ四郎左衛門ノ尉、同キ五郎左衛門ノ尉、結城上野ノ判官等ナリ、彼ノ所ニ於テ、勝長寿院ノ児童等ヲ召シ、管絃舞曲等ノ興遊有リト〈云云〉。
(吾妻鏡【延応元年七月二十日】条~国文学研究資料館HPより)


古典の季節表現 秋 苅萱(かるかや)

2016年07月25日 | 日本古典文学-秋

まめなれとよきなもたたすかるかやのいさみたれなむしとろもとろに
(古今和歌六帖~日文研HPより)

夕風の吹もみたらはいかゝせんまかきあれたる庭の苅萱(蒙求和歌~続群書類従15上)

あきかせののちいかならむかるかやのふかぬさきよりみたれぬるかな
(正治初度百首・隆房~日文研HPより)

堀河院御とき、百首のうたたてまつりける時、かるかやをよみ侍りける 大納言師頼
秋くれはおもひみたるるかるかやのした葉や人の心なるらん
(千載和歌集~日文研HPより)

浅茅生の小野のかるかやたれゆへに乱れんとてか秋風のふく
(宗尊親王三百六十首)

雑御歌の中に 院御製
何しかも思ひみたるゝ露ふかき野へのをかやのたゝかりの世を
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

なにとなくこころほそきはかるかやのはすゑみたるるかせにそありける
(久安百首・郁芳門院安芸~日文研HPより)

 紫の薄様なりけり。墨、心とめておしすり、筆の先うち見つつ、こまやかに書きやすらひたまへる、いとよし。されど、あやしく定まりて、憎き口つきこそものしたまへ。
  「風騒ぎむら雲まがふ夕べにも忘るる間なく忘られぬ君」
  吹き乱れたる苅萱につけたまへれば、人々、
  「交野の少将は、紙の色にこそととのへはべりけれ」と聞こゆ。
  「さばかりの色も思ひ分かざりけりや。いづこの野辺のほとりの花」
  など、かやうの人々にも、言少なに見えて、心解くべくももてなさず、いとすくすくしう気高し。
(源氏物語・野分~バージニア大学HPより)


古典の季節表現 秋 萩の花摺(はなずり)/萩の摺衣(すりごろも)

2016年07月24日 | 日本古典文学-秋

我が衣摺れるにはあらず高松の野辺行きしかば萩の摺れるぞ
(万葉集~バージニア大学HPより)

四季物語の中に 月の帝の御歌
篠原や露分け衣袖ぬれてうつりにけりな萩が花摺(はなずり)
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

秋歌中に 藤原隆祐朝臣
露ふかき秋の野原のかり衣ぬれてそ染る萩か花すり
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

白河院にて、野草露滋といへる心を、をのこともつかうまつりけるに
大蔵卿行宗
かり衣萩の花すり露ふかみうつろふ色にそほち行哉
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

武蔵野の露わくる袖はむらさきの色にうつろふ萩が花ずり
(実材母集)

題しらす よみ人しらす
武蔵野は猶行末も秋はきの花すり衣限りしられす 
( 続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 大江氏元
分つゝや衣はすらん朝露にぬれて色そふ秋萩のはな 
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

万葉集の詞にて二百首歌よみ侍けるに、衣にすらん 従二位隆博
秋萩のさくや花野の露わけてころもにすらん人なとかめそ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)


「空蝉の〔枕詞〕」用例

2016年07月15日 | 日本国語大辞典-あ行

 「空蝉の」という枕詞には「枕 命、身、人、空(むな)しなどにかかる。」という語釈があり、日本国語大辞典・第二版では、源氏物語(1001‐14年頃)の用例を早い例としてあげていますが、さかのぼる用例が複数あります。

うつせみの命を惜しみ波に濡れ伊良虞の島の玉藻刈り食(は)む
(巻第一、24)
伊藤博校注『万葉集 上巻』(角川文庫)1987年、61ページ 

00192 [詞書] 題しらす
よみ人しらす 
うちはへてねをなきくらす空蝉のむなしきこひも我はするかな
(後撰和歌集~日文研の和歌データベースより)

00971  [詞書] かくいひかよはすほとに、三とせはかりになり侍りにけれは
荒玉の年の三とせはうつせみのむなしきねをやなきてくらさむ
(後撰和歌集~日文研の和歌データベースより)


袖に墨/袖の墨

2016年07月08日 | 日本古典文学-人事

 「袖に墨が付く」ということを歌った和歌が複数あるので、どういうことを歌っているのか語釈を調べてみました。
 人から恋されるときには、袖に墨がつくという言い伝えから、「袖に墨が付く」のは、人に恋い慕われたしるし。 もしくは、人に恋い慕われる前兆。とのことです。
 このことを詠み込んだ和歌などを集めてみました。

かにかくに-ひとはいふとも-おりつかむ-わかはたものの-しろあさころも(新撰和歌六帖・1298)日文研HPより

からくにの-ひとにとははや-わかことく-よにすみつかぬ-たくひあるやと(永久百首・631)日文研HPより
イからくにの-ひとにとひてや-わかことく-よにすみつかぬ-たくひあるやと(永久百首・631)日文研HPより

ひとにのみ-すみつくそてを-かさねつつ-こふるしるしも-きみはしらしな(久安百首・待賢門院堀河・1077)日文研HPより

 袖にすみのつきたるを人のたれかこふるならむなととふらひけれはいひける 左大臣家郷
なからへて有はつましき世中になにとすみつくわか身成らん
(巻第百五十八・今撰和歌集、雑)
『群書類従・第十輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1993年、431ページ

修理大夫顕季の六條の家にて七夕をよめる
七夕はひまなく袖につくすみをけふやあふせに薄すつらん
(巻第二百五十四・散木奇歌集、第三・秋部・七月)
『群書類従・第十五輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1987年、17ページ
※『新編国歌大観 3巻』では、同一歌が「七夕はひまなく袖につくす身をけふやあふせにすすぎすつらん」と表記されていますが、「袖に尽くす身」では意味がとおらないと思います。

たなはたの-そてにひまなく-つくすみは-あふせにけふや-あらひすつらむ(夫木抄・4042)日文研HPより

人に恋ひらるる人は袖に墨つく、又こひすれば額の髪しじくともよめり、古歌に、わぎもこが額の髪やしじくらん怪しく袖に墨のつくかな。〔奥儀抄・四〕(Weblio 辞書 より)

われゆゑと-しらすやあらむ-しつのめか-つつれるそてに-つけるすみをは(頼政集・恋・555)日文研HPより

つつむそて-たかこふるとは-もらさすと-つくらむすみを-あはれともみよ(千五百番歌合・2281)日文研HPより

 桂の家にて人々歌よみしに、人に恋ひらるといふ心を
偲(しの)ばれむことぞともなき水茎のたびたび袖に墨のつくかな
(師中納言俊忠集~「和歌文学大系22」明治書院)

 初逢恋を申せしに  衲叟
袖につく墨のしるしをいつよりかあやしめおきてさねそめぬらん
(雲玉集・358~『新編国歌大鑑8』586ページ)

われをのみ-たのまさりけり-わきもこか-ひとかたならぬ-そてのすみかな(新撰和歌六帖・1618)日文研HPより

[詞書] 霞隔遠樹
たちのこす霞の袖につく墨はたかため恋の杜となるらん(草根集・00369)日文研HPより

[詞書] 遠帰雁
棹姫のかすみの袖につく墨のおつるやこゆる春の雁かね(草根集・01635)日文研HPより

[詞書] 野深雪
あさ明の末のの雪につく墨はたか夕暮の袖はらふらん(草根集・06026)日文研HPより