monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

堀口大學訳詞「流れ」

2019年11月20日 | 読書日記

 流れ   ギー・シャルル・クロス

流れの真中にあつて
右にも左にも動かず
百年そこにとどまる石のやうに
萬物の真中に
たつた一人でおのれは居る。

水の中に石一つ、
わななきふるへる水の中に。
おのれの有である何物をも
おのれは持たぬ、さうして
おのれは誰の有でもない。

一人であること、
永久に一人であること、
それを納得し、それを識ること、
此の求める所のない安心に
較ぶべき夢があらうか?

激せずに流れ行く水は
静かでさうして深い。―
おのれつかのまも
世の現實を信じたことがあつたか?

(「月下の一群 堀口大學訳詩集」より)


「苔衣」用例

2019年11月18日 | 日本国語大辞典-か行

 「苔衣(こけごろも)」という語には、「①粗末な衣。僧等の衣。」と「②苔。」という語釈がありますが、いずれも日本国語大辞典用例よりもさかのぼる用例があります。

①粗末な衣。僧等の衣。

浜風にわが苔衣ほころびて身に降りつもる夜半の雪かな
(金葉和歌集、第四冬、288~「和歌文学大系34 金葉和歌集・詞花和歌集」)

②苔。

 浪洗石苔
波あらふ磯邊の石の苔衣ほす間もみえぬ興津鹽風
(巻第三百九十・為家卿藤川題百首、雑)
続群書類従・第十四輯下(訂正三版)823ページ

 浪洗石苔
苔ころもわかなきぬらすたくひとや岩こす浪のまなく歸らん
(巻第三百九十八・安嘉門院四条百首、雑)938ページ
続群書類従・第十四輯下(訂正三版)

00590 いはしみつ-あたりのいはの-こけころも-けかるるちりを-いかてすすかむ
(為家五社百首~日文研の和歌データベースより)


「杉葺き」という語

2019年11月15日 | 日本国語大辞典-さ行

 「杉葺き」という語は日本国語大辞典には立項していませんが、以下のような和歌用例があります。

さもこそは真屋(まや)の杉葺き(すぎぶ)き薄(うす)からめ洩(も)るばかりにも打(う)つ時雨(しぐれ)かな
(巻第六・冬、1282)
『万代和歌集・上(和歌文学大系13)』 安田徳子、明治書院、1998年、211ページ

我庵の軒の杉葺末くちて伝ふあられのこゑそ短き
(巻第四百三・心敬僧都十躰和歌、長高体)
『続群書類従 15上』続群書類従完成会、1979年、45ページ