流れ ギー・シャルル・クロス
流れの真中にあつて
右にも左にも動かず
百年そこにとどまる石のやうに
萬物の真中に
たつた一人でおのれは居る。
水の中に石一つ、
わななきふるへる水の中に。
おのれの有である何物をも
おのれは持たぬ、さうして
おのれは誰の有でもない。
一人であること、
永久に一人であること、
それを納得し、それを識ること、
此の求める所のない安心に
較ぶべき夢があらうか?
激せずに流れ行く水は
静かでさうして深い。―
おのれつかのまも
世の現實を信じたことがあつたか?
(「月下の一群 堀口大學訳詩集」より)