山ふかみ苔のむしろの上にゐて何心なく鳴くましらかな(山家集)
秋山のみねのこずゑをつたひ来てやどの軒ばにましら鳴くなり(三百六十番歌合)
しばの庵やひとり住みうきみ山べに友あり顔にましら鳴くなり(光経集)
声たかみ林にさけぶ猿よりもわれぞもの思ふ秋の夕べは(金槐和歌集)
さ夜ふけて山ものどかにすむ月におのれひとりとましら鳴くなり(光経集)
心すむ柴のかり屋の寝覚めかな月ふく風にましら鳴くなり(御室五十首)
さらぬだに寝覚めの床(とこ)のさびしきに木(こ)づたふ猿のこゑ聞こゆなり(散木奇歌集)
ありあけの月もかたぶく山の端(は)にさびしさそふる猿(さる)の三さけび(朗詠題詩歌)
月の入るかた山かげに鳴く猿はふけ行く秋をものがなしとや(朗詠百首)