monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

十一月題詞

2021年11月06日 | 読書日記

 銀色の猛獣はほがらかに媚を売り、真紅の脣に金鈴(きんれい)を鳴らして思想の墓上に近づく。肉体に蒸(む)れたる宝石は念願を交して薄暮の扉に焔のゆめをゑがき、尾をたれ、言葉を祭り、紫紺の柩(ひつぎ)に亡魂の帆をかけて、せはしげに、また快く、神の姿へとみちびかれる。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」)


十月題詞

2021年10月03日 | 読書日記

 暴風雨(あらし)の鋒鋩はうごめく胎児をはらんで、薔薇色する六本の指はぬめぬめと天(そら)にかがやき、水晶体の憂鬱は祈禱の杖(つゑ)を曳いて青白い小窓のほとりに偸安の花を咲きほこらせる。さざめく微笑、たふれる妄語、十月のむらさき色の乳房には候鳥の悲鳴を蔵して沈みゆき、疾駆する慾情の翅の筋を氷の蝋燭で燃やしつくす。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」


九月題詞

2021年09月05日 | 読書日記

 夏の亡霊のうへに浮く悔恨の火の手は琥珀色の波をゑがいてうづまき、渡り鳥の喉に空しい魂の贈物をとどける。うすいろの翡翠の横笛を吹く美童の面形はくろずんで焚香の長夜のゆめに溶け入り、黄金(こがね)の皿にうづくまる漿果(このみ)のひかりは女人の裸形のごとくなまめかしく息づいて吠えさけぶ。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」)


八月題詞

2021年08月01日 | 読書日記

 光の肉親、熱の姉妹、色の血族。八月はあらゆる色彩と光輝と炎熱との昏迷する鎔鉱炉である。怪物のやうに大きな八つ手の葉の無言の恐怖は黙黙したたつて地面にひそみかくれ、鉄の環を鼻にはめて追はれる牛のやうに青春の狂気の永遠性は法衣の香にむせびながら空鳴りするみづからの蹄のおとに夢をふみしだく。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」)


七月題詞

2021年07月30日 | 読書日記

 震動する真夜中の影にゆらめく炬日は、陰影の驚きをはびこらして、空一面にはだかる真紅の媚を招きよせる。水のながれに沿うて浮く葉うらにひそ盗心の美しさはいよいよ濃くなり。くされ蒸す色彩の墓場に古びたタンバールの空色の騒擾ををどらせ、満開の情癡はしめやかに釣鉤(つりばり)の糸をたれて私語のやうに身をさらしてたえまもなくくゆるのである。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、447p)より「季節題詞」)