亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

FRBテーパリング 正常化へのほんの入り口

2021年11月04日 21時15分09秒 | 金市場

注目のFOMC(連邦公開市場委員会)当日の金市場は、金融会合の結果を見る前の段階で思わぬ値下がりに見舞われた。そして、売り込まれた金を浮上させたのはFOMCの決定内容(声明文)とハト派的なパウエルFRB議長の記者会見の内容だった。

 

11月3日、午後にFOMCの結果を控え模様眺め的な印象の金市場が反応したのは、朝方に米民間雇用サービス会社ADPが発表した、10月の全米雇用報告の結果だった。民間部門の就業者数(非農業部門)は57万1000人増と市場予想の39万5000人増(ダウ・ジョーンズ調べ)を大きく上回った。今週末5日発表の雇用統計が堅調な内容になるとの見方から、利上げに向けた判断が早まるのではと売りが膨らんだ。ファンドの(アルゴリズム)ロボットトレードの成せる業だろう。

パウエルFRB議長は労働市場の改善について、ここまで目標に遠いとの判断を下してきたが、ADPの結果は新型コロナ感染沈静化とともに労働市場の改善加速をイメージさせ、利上げに向けた環境が整うとの見方につながった。ちなみに労働省発表の10月の雇用統計では就業者増加数は45万人程度が予想されている。通常取引は前日比25.50ドル安の1763.90ドルで終了。その後、現地東部時間14時にFOMCの声明文が発表され、次にパウエルFRB議長の記者会見に移行した。

注目のFOMCは、予想通りテーパリングの決定と着手を発表した。経済がFRBの責務目標に一段と近づいたため新型コロナ禍での緊急対策として実施している資産購入策の規模を11月から月150億ドル削減すると発表。国債の買い入れを月額100億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を50億ドル縮小し、それぞれ700憶ドル、350憶ドルとする。12月以降も環境に変化がなければ同額ずつ減らしていく計画で、来年半ばに購入を終了する予定となっている。テーパリング着手は、歴史的な緩和策の正常化に向けたほんの入口と言え、まずはこの日の株式市場を見ても混乱なく発表できたといえる。アナウンスメント効果というか、慎重すぎるほど周到に織り込ませたうえでの政策変更となった。「前門の虎」は、飼いならされた。

今回、注目されたインフレに対するFRBの判断だが、声明文では引き続き一過性の要因が物価を引き上げているとの見解を維持した。新型コロナ禍からの回復過程で引き起こされているサプライチェーン問題(供給制約)が緩和すれば、インフレは弱まるとの基本的な見通しに変化はなかった。ただし、時間軸に変化が見られた。パウエル議長は「供給制約は22年まで続き、物価上昇率を押し上げるだろう」としながらも、「パンデミックが収まれば供給制約が和らぎ、雇用も拡大し、物価も現在の高インフレの水準から下がるだろう。それは22年4~6月か7~9月とみる」とした。

超緩和策の巻き戻しに着手したFRBだが、ここからは長い道のりになりそうだ。ゼロ金利を脱し経済環境に見合った(と思われる)水準まで利上げし、その後(あるいは平行して)バランスシートの縮小(資金回収)に向かう局面が、重要局面となる。

2008年のリーマンショックに象徴される国際金融危機対応の超緩和策からの正常化過程では、2017年10月にバランスシートの縮小を開始したが、その1年後あたりから利上げも重なり徐々に株式市場は不安定化した。2019年には、短期金融市場(銀行間金融)が不安定化し、断念せざるを得なくなった経緯がある。大きな違いは、その当時に比べ、FRBのバランスシートは2倍以上に膨らんでいることだ。

「後門の狼」は虎より手強いと思われる。

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