さてEUを中心に形作る単一市場からの完全離脱方針を示したメイ演説だが、事前に報じられていた演説草案を超える内容はなかった。つまり織り込み済みということに。さらに、EU側との最終合意は、上下両院に投票による承認を求めるとした。つまり、離脱通告後の交渉については、世論の動向も影を落とすということになる。一見、“ハード”に見えるものの手順や内容は“ソフト”ということで、この場は収まることになった。
そもそもEU側に安易な妥協という、甘い顔は見せられない事情があるわけで、移民の受け入れ(シェンゲン協定、移動の自由)という原則を受け入れられないのであれば離脱を選ばざるを得ないわけで、そもそも完全離脱以外の選択肢はなかった。演説の様子をNHKがネットで同時通訳付きでライブ配信しており、それを見ていたが、キャメロン前首相より歯切れよくクリアな印象でよかった。女性の方が堂々としているなぁ、という感じ。
いずれにしても波乱は、前日の急激なポンド売りが、事前情報以上の内容がなかったことで一気に買い戻されるという、このところのロボット・トレードの典型例のような値動きに限定され、こちらもそれ以上のことは起きなかった。しかし、離脱を前提にしたのは事実であり、欧州の拠点をロンドンに置いてきたグローバルな金融機関はどうするかなど、本格的な動きはこれからということに。合意後も移行期間を設けるとしてはいるのだが。
さらに離脱ということで、この動きに賛意を示しているトランプ次期米政権からの働きかけも活発化する可能性がある。EU側は、こちらを警戒している。英国内では、残留を望んでいたスコットランドで動きがありそうだ。
報じられているように米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙とのインタビューでの、中国を巡る文脈での“ドルは強すぎる”としたトランプ発言に市場はドル安で反応することになった。政権の正式スタート後も、ツィートは止めないようなので、落ち着かない市場環境が続くことになりそうだ。
20日の就任演説は、11日の初記者会見とは大きく温度差がある重厚で落ち着きのあるものになるとの見方がある。そういうことかも知れないが、その後でツィートでいなすのか。劇場型選挙が終わり、今度は劇場型政治が始まるということか。個人的には、頑張れポールライアン(下院議長)という感じだ。
金市場は、まだ年末にかけて溜まったショートが完全に掃けていないとみられるので、目先も上値余地ありと思われる。