米系メディアが午前11時からと伝えていたトランプ記者会見は、少し遅れて始まったようだ。全世界が、そして多くの市場関係者が関心を向けた結果は、少なくとも市場関係者には期待外れに終わった。とりわけ株式市場が期待した減税や投資に関連する方向性を示唆するものは見られなかった。相場の先行きを見通す材料を探そうとした関係者にとって、手掛かりは得られなかった。不透明感だけが残った。1月20日を待つべしと。
もっとも、今回の記者会見については、演台の横に書類が山と積まれる演出がみられたが、本人の不動産ビジネスと大統領職の利益相反についての説明が第一の目的だったとみられる。それについては、息子たちに引き継ぎ、本人は経営にはタッチせず、経営に関する情報も得ることもないとした。さらに前日の10日に突如持ち上がった米CNNなど一部が報じた、ロシアがトランプの何らかの弱みを握っていて密約疑惑が存在するのでは、との質問などもあり、今後の政策を語る時間が削られたという点もあったとみられた。
そもそも今回のスピーチのやり方は、(良識的じゃないかと、サプライズとなった)当選時のスピーチのように原稿が準備されたものではなく(プロンプターを使用したものでなく)、選挙戦の時のように思うところを即興で述べるというものだった。したがって、ラフな印象を与えることになった。このあたりも、市場関係者の期待は裏切ることになったのだろう。
メキシコ国境に壁を作る件について取り上げ、まず米国側の費用で建設し、その後のメキシコ側に支払いをさせるとした。世論の注目を浴びた事例は、外せず押さえた形か。しかし、今後のメキシコとの外交上の摩擦は必至といえる。
伝えられているように米国内での薬価の問題や防衛調達品にも言及し、株は一時売られた。ドルの動きに沿って金は動いたが、基本的に記者会見の内容が不透明でリスク・オン気運が後退し、米10年債が買われ長期金利が低下したことが、市場を支配した。
おまけにこの日は、記者会見終了後に10年債の入札日(発行日)。不透明な市場環境を映し、入札は条件、応札倍率共に好調裏に終わることになった。利回りは低下し、ドルは弱含み、またぞろ金市場では、ショート・カバーが勢いを増すことになった。
もっとも、金の上げにつながった直接的な背景は、ロボットを動かす長期金利とドルの動きだが、トランプ政権の政策の先行きや世界的なポピュリズムに対する不透明感が、市場の深いところでうごめいていることがある。1200ドル大台回復でテクニカル要因も加わることになる。当面の上げエネルギーは昨年末から書いているようにショート・カバー。