1月11日のNY金は5営業日続落で通常取引終盤は昨年12月中旬以来の低水準に。ただし取引開始前後に動意付き2050ドル超まで急伸していた。
この日の注目材料は、FRBの利下げのタイミングを測る上で重要指標となる12月の米消費者物価指数(CPI)だった。発表時間はNYコメックスの取引開始と重なる午前8時半。発表されたCPIの内容は、前年同月比で3.4%上昇と伸びは前月の3.1%から加速し、市場予想(3.2%上昇)を上回った。FRBが3月に利下げを開始するとの期待を後退させる内容といえた。
にもかかわらずNY金はまとまった買いに2056.10ドルを付けるところまで急伸。さすがにすぐに売りが優勢となり20ドルほど急落したのは、もともと買いが一巡したところで追随する買いが出なかったことによる。その後2030ドル台でのレンジ相場に移行し、昼前には下げ足を速め2020ドル割れまで水準を切り下げた。
利下げ観測を後退させる指標に何故逆行する上昇を見せたのか。
同じ時間帯に伝えられたのがイラン海軍によるオマーン沖で石油タンカーを拿捕(だほ)の続報だった。 NY時間の早朝に一方が入っていたが、当事者がこれまでのイエメンの親イラン武装組織フーシ派による攻撃でなく、イランが直接かかわったという点に、金市場では一部のファンドが反応したとみられる。
「イランは『米国による原油の窃盗への報復』として、『セントニコラス号』を差し押さえたと、半国営メヘル通信が報じた」(ロイター通信)というもの。中東での紛争地域の拡大を避けたい米国は、ブリンケン国務長官の中東歴訪など外交努力を続けているが、うまく進んでいない。秋に大統領選挙を控えるバイデン大統領も(国内向けに)弱腰のスタンスを見せることもできず、さりとてウクライナ情勢も支援の滞りで混とんとする中で、イランとの交戦は避けたい。
フーシ派の拠点を叩くことで強い警告を発するという状況にあるとみられるが、米国の足元を見透かすようなイランの攻勢が強まっているようにもみえる。
市場予想を上回った米12月の消費者物価指数(CPI)を受け、終盤にかけて売りが膨らんだNY金は前日比8.60ドル安の2019.20ドルで通常取引は終了。しかし、その後の時間外取引では2030ドル台に値を戻していた。
いずれにしても11日のNY金は、地政学的要因と米CPIという米国マクロ統計が売買双方の手掛かりとなったことで、乱高下することになった。ただし、もともと時期尚早との見方が多かった3月はないとしても、FRBの政策転換は時間の問題と思われるので、その前提に沿って相場は流れることになる。
こうしたマクロの変化の上に地政学的要因が加わるのが2024年の相場展開となりそうだ。