S&Pが昨年末に宣言していたユーロ圏諸国15ヵ国の格下げ観測。報道されているように13日に各国当局に個別に通達された後に、発表された。結果的には9ヵ国が格下げとなった。注目は何といってもフランスだった。最上格付けトリプルA(「AAA」)を失うという事態もさることながら、1段階ではなく2段階の格下げの可能性すら懸念されていたからだ。
ここまでユーロ圏の最上格付けはドイツ、フランス、ルクセンブルク、オランダ、フィンランド、オーストリアの6ヵ国だったが、フランスとともにオーストリアも1段階格下げとなった。これら6ヵ国はEFSF(欧州安定化基金)がその信用で資金を集め危機国に貸し付ける中核国になっていた。とりわけフランスは、ユーロ圏危機国救済のドイツと並ぶ2枚看板で象徴的な存在ゆえに注目されたわけだ。そのフランスも自国の債務返済に汲々とするイメージは、ユーロを支える根本部分が揺らぐということで市場センチメントへの悪影響は避けられない。とはいうものの、12月時点からフランスの格下げ可能性は何度も市場の材料となっており、その点では織り込み済みといえるのも事実だろう。発表後の株式やその他の反応が思ったほどには大きくなかったのは、その表れともいえよう。NYコメックスの金も一時1624ドルまで売られたものの引けは前日比16.90ドル安の1630.80ドルとなった。その後の時間外で1640ドル近辺まで戻っている。思うに、市場は最悪フランスの2段階引き下げまで織り込んでいたのではないか。
S&Pが配慮したと思われるのは、発表のタイミングだった。週末金曜日の午後というタイミングは、土日の休日で冷静に判断という時間を市場に与えるもの。とりわけ月曜日のNYはマーチン・ルーサー・キング生誕祭の休日で3連休となる。ただし、欧州は開いていて当のフランス国債の入札が予定されている。市場の反応をみる最初のイベントになるわけだ。ちなみにS&Pはフランスの格下げを1段階格にとどめたものの、その格付け見通しを「ネガティブ」としている。これは2012年か13年に再び格下げする可能性が少なくとも3分の1あることを示す。
さらに、今回の格下げは4月に大統領選挙を控え苦戦が伝えられているサルコジ大統領にとって不利に働く可能性がある。ドイツに水を空けられたのはサルコジ政権の力不足というわけだ。対立する野党社会党のオランド候補は、ドイツが主導権を握る財政連合案に反対の立場で歳出削減は成長を削ぎ逆効果という立場とされる。つまり、オランド優勢が際立つこと自体が先行き不透明という市場の判断を招く可能性がある。1段階格下げされても、問題のある水準でないのは確かだが、そうも言っていられないということ。このあたりは、織り込まれていない。まずは週明けの反応を見よう。
さらに問題になりそうなのは、ギリシャ。結局ギリシャに始まった危機の表面化がギリシャで方向性が見えるという事態もありそうだ。ギリシャさえ、片付かないというイメージだ。