亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

バイデン政権誕生に伴う一つのシナリオ

2020年11月03日 21時52分53秒 | 金市場
日本時間の今夜から投票が始まる米大統領選。もっとも、今回は期日前投票と郵便投票が、メディアによると11月2日までに9965万人超と空前の1憶人に迫る人々が投票を済ませたとされる。2016年の選挙の総投票数の約70%に相当するという。投票率も前回より上がって60%とされていたが、1908年以来の約65%に達するとの指摘もある。

開票に時間が掛かるのは必至ゆえに、3日に投票所に赴いて投票する人はトランプ支持者に多いとされ、その結果、即日開票ではトランプが過半数を得て優勢となり、途中経過で勝利宣言するという指摘がある。その有効性は別として、たしかにそうした状況下ではそのような展開はあるのかもしれない。

トランプ再選を読む向きは、法廷闘争に持ち込むことを指摘する。郵便投票の集計の差し止めの訴えを起こし、最終的には連邦最高裁の判断に委ねられる。そこで選挙直前に上院で承認されたバレット新判事を含め保守派6名、リベラル3名の勢力図から、トランプ勝利になるとする。バレット判事を指名は、この展開の可能性まで見込んでいたのは、発言内容からは明らかではある。

思うのは、仮にそのような展開になった時に、果たして個別の判事がトランプ陣営に有利な判断をするのだろうかということ。郵便投票を中心に多くの期日前投票の無効を決めるにあたり、党議拘束でもあるまいに、都合よくトランプ(共和党)に加担するのか疑問だ。アメリカの司法制度を侮ってはいけないと思う。

さて、以下のレポートは、先週10月28日の午前に時事通信社から配信された、当方が書いたもの。同社の了承を得て、参考までに全文を掲載いたします。


2020/10/28 10:05
◎〔アナリストの目〕バイデン政権誕生に伴う一つのシナリオ=亀井幸一郎氏

 1週間後に投票日が迫る米大統領選・議会選。各種世論調査の平均値を割り出し発表している政治専門サイト、リアル・クリア・ポリティクスのデータでは、10月26日時点での支持率はバイデン候補50.7、トランプ候補43.3と、バイデン候補が安定的にリードを保っている。物議を醸した第1回のTV討論とトランプ候補の新型コロナウイルス感染による入退院を境に支持率の差は拡大することになった。ここにきて減少傾向だが、それでも市場ではトランプ第2期政権の誕生を予想する向きは多い。隠れトランプの存在があるなど世論調査に出ない支持票の存在を指摘し、2016年と同様の選挙結果を予想する。

 ◇2016年大統領選の反動

 私はバイデン政権の誕生を読んでいる。というのも16年の選挙結果を左右した浮動票だが、当時トランプ候補に投じられた票のかなりの部分が今回の選挙では離れるのではないかと思っているからだ。

 当時の欧米諸国では、リーマン・ショック以降の経済回復に加速感が出ない中で、景気の押し上げが期待された金融緩和が株式など資産価格の上昇に反映された。その結果、貧富の格差が拡大、社会の不満がたまっていた。既存の政治に対する期待感は低下し、先行きを見通せない閉塞(へいそく)感の中、(具体的な要求があるわけではないが)現状打破機運は高まっていた。欧州では移民問題も争点となる中で、16年夏の英国の欧州連合(EU)離脱いわゆるBrexitが決まり、翌17年にはフランスで伝統的な2大政党の枠を超えた新たな流れ、マクロン政権が誕生する。

 同じ流れの中で16年の米大統領選でワシントンという既存政治の流れではなく、ニューヨーク地盤の政治経験のない、トランプ大統領が誕生したのは、こうした時代の流れの上でのことだった。共和党保守のコアな支持層を固めた上で、現状打破を望む浮動票の取り込みに成功した結果と思われた。政権発足から間もなく4年が経過する中で、当初の期待は消え失望だけが残った有権者は、コアの支持者の反対側で多数存在し、今回の選挙結果に影響を与えるものと思われる。この流れは議会選挙にも影響を及ぼすものと思う。

 ◇フルの政策発動を意味する「ブルーウェーブ(Blue Wave)」

 ここにきて「ブルーウェーブ(Blue Wave)」という言葉がメディアに頻繁に登場している。民主党のシンボルカラーがブルー、共和党のそれはレッドだが、バイデン政権誕生の下で上下両院ともに民主党が支配権を握ることをさす。上下両院ともに共和党が支配する中での民主党政権となったオバマ政権最後の2年間は、いわゆる「ねじれ状態」の中で政策遂行に苦労した経緯がある。予算権限を持つ議会で上位に立つ上院を共和党が握ったことで、予算審議はたびたび紛糾し、一部政府機関の閉鎖にまで追い込まれた。

 この点で今回「ブルーウェーブ(Blue Wave)」に象徴される政治的安定がもたらされるならば、大型財政出動を唱える民主党政権ゆえに、新型コロナ禍で傷んだ経済の立て直しにはプラスになるのは言うまでもないだろう。大規模な財政出動は、米連邦準備制度理事会(FRB)の求めているところでもある。

 ◇注目されるブレイナードFRB理事

 バイデン政権誕生という前提で話を進めるならば、私の中で経済成長、株価、そして金価格を押し上げる一つのシナリオがある。その鍵を握る人物がブレイナードFRB理事になるのではと思われる。

 現在2人となっているFRB女性理事の1人だが、ハト派で知られインフレ率平均2%の達成という新機軸を打ち出したFRBにあって、量的緩和策などさらなる緩和策を唱えている人物でもある。今回の新型コロナ禍の景気の急激な落ち込みの中で、FRBは社債の買い取りや中小企業向け融資の買い取り(メインストリート融資制度)という新機軸を打ち出したが、このプロジェクトの陣頭指揮に立っているのがブレイナード理事だ。

 FRBが金融政策の方針を決める会合は、言うまでもなく米連邦公開市場委員会(FOMC)。開催にあたり議題を決める内輪の会合がある。パウエル議長にFOMC副議長を務めるウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁、さらに2人いる副議長のうち金融政策担当のクラリダFRB副議長の3人で構成されていたが、そこに今年からブレイナード理事が加わっている。パウエル議長の要請によると思われるが、FRBの中でも一目置かれる存在となっているわけだ。

 FRB理事に就任した14年以前の4年間、米国財務省で国際問題担当の財務次官でもあった同理事だが、実はヒラリー・クリントンと近しいことで知られる人物でもある。16年当時、ヒラリー政権が誕生の暁には女性初の財務長官就任が見込まれていた経緯がある。そして今またバイデン政権誕生の折に、同様に財務長官候補にあがっている。

 FRBからの財務長官への転出には前例がある。国際金融危機の嵐の中で09年にスタートしたオバマ政権にあって、NY連銀の総裁から財務省に移ったのがティモシー・ガイトナー財務長官だった。政権とFRB間の風通しは一気に良くなり、直前までFOMCの副議長を務めていた人物が財務長官として、当時のバーナンキFRB議長の進める量的緩和策のもと金融行政を取り仕切った経緯がある。

 ◇環境関連銘柄の物色と金市場への追い風

 今回、私が読むようにバイデン政権が誕生した場合、ブレイナード財務長官の誕生は、危機下にあった2009年同様にFRBと政権の融合性を高め、財政と金融政策のポリシーミックスという形で政策の有効性を高めるものと思われる。思うのは、このところの米株式市場での環境関連の銘柄物色など流れの変化は、トランプ政権下での上昇にピークアウト感が漂う中で、新たな材料を求める「資本の意思」とでもいえる流れではないかということ。しかしながら、財政赤字の急拡大は避けられず、ドル安基調の高まりとともに、金市場にとっては追い風が吹くことになると思われる。ワクチン開発成功のリスクオンの中で上値は抑えられつつも、当初は緩やかな上昇という流れか。株式市場はバブル化が避けられないと思う。

※亀井 幸一郎(かめい・こういちろう)氏 金融・貴金属アナリスト
【無断転載をお断りします。時事通信社】
[/20201028CCC0025]


コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米欧中銀のせめぎ合い、NY... | トップ | バイデン政権、嵐の中で出港準備 »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (fairlane)
2020-11-07 22:46:08
マスコミとSNSが第四の権力だと本当に分かった今回の選挙です 佐藤栄作総理が新聞記者を追い出してテレビに向かって退任会見をしたことがありますが、トランプ大統領に至ってはそれすら許されそうもないのがすごいですね 大統領の言葉をマスコミやSNSが検閲出来るのか と 報道の自由ってなんなのでしょう。。 こういうゴタゴタを報じるロシアのニュース番組が、アメリカ帝国の崩壊を今まさに目撃してます と言ったのもすごかった 彼らは自分たちの帝国が自壊したのを経験しているから、いつか見た光景と思っているのでしょう そのロシアもプーチン大統領がパーキンソン病?との報道が出ましたね 日本を取り囲む大国が激しく動いていて、日本はどうなるのだろうと思わざるを得ません。。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

金市場」カテゴリの最新記事