昨年秋(11月)から、2023年のNY金を展望するにあたって注目材料のひとつとして 米国の連邦債務上限問題を挙げてきた。
それがここにきて動きが出始めている。
米国は国家(連邦政府)の債務(借金)の総額の上限を法律で決めている。財政面で日本に比べると健全な国といえる。トランプ政権時代の2019年に債務上限の不適用を決めた時限立法が切れたのに従い、31兆4000億ドルの上限を決めていた。今年の1月19日にその上限に達しイエレン長官率いる米国財務省は、それ以降、公務員退職・障害基金などへの投資を一時停止するなどして支払いに回すなど、やり繰りして政府の資金繰りをつけている。
2月には議会予算局が7月~9月の間には限界が到来し、国債利払いの不能(デフォルト)などの可能性があると警告を発していた。 そんなところに先週4月19日米議会下院共和党トップのケビン・マッカーシー議長(ら下院共和党議員5人)が債務上限を最大1兆5000億ドル引き上げ、あるいは2024年3月末まで債務上限を凍結する見返りに、連邦政府の支出を4兆5000億ドル削減する独自の法案を発表し、今週には下院で採択するとした。
法案の内容は当面の新規の国債発行を可能にする一方で、バイデン政権の目玉政策といえるクリーンエネルギー生産設備などに対する税額控除支援策は廃止され、学生ローン支払い免除・停止措置などは中止することなどが盛り込まれている。 もともと民主党が多数派となっている上院で同法案が可決される可能性は低いうえに、バイデン大統領は支出に関する交渉は行わないとしてきたことから、成立の可能性はないといえるもの。
そもそも内容的にバイデン政権には受け入れられないものでもある。ただし妥協案を共和党サイドは提出したにも関わらず、民主党政権はそれを反故にしたという(有権者に訴える)事実つくりの側面が強いとみられる。
ここに来てにわかに警戒感が高まっているのは、ゴールドマンサックス・グローバルインベストメントリサーチが4月の歳入が想定より少なかったとして債務不履行に陥る時期が6月になる可能性があるとの見通しを示したことによる。足元で米国債市場は相応に荒れている。
国債のデフォルトに備える保険でもあるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のいわば保険料(5年物スプレッド)が2011年ごろの水準にまで急上昇している。タイムリミットが確実に近づく中で、市場は本格的にデフォルトへの警戒を強めている状況にある。
過去にもここに書いたが、2011年は当時のオバマ民主党政権下で交渉が難航しデフォルト寸前で話し合いがまとまった。しかし、当時の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが「決められない政治」を理由に米国債の1ランク格下げを発表し、その後の市場の混乱につながった経緯がある。NY金は格下げ発表から11営業日で約240ドル急騰し、当時の過去最高値1900ドル台に駆け上がることになった(その後急落)。
この問題は必ず決着がつきデフォルトには至らないというのが、一般的な捉え方で過去すべてそうなっている。しかし、2011年は合意がなっても混乱につながった。当時より現在の方が政治分断の度合いが大きく、そもそも下院共和党自体が一枚岩ではなくフリーダム・コーカスと呼ばれる保守強硬派議員の動きが懸念される状況にある。市場の警戒は6月に向けさらに高まるだろう。状況によりイベント型のNY金急騰の可能性が出てくる。