「宇宙の戦士」ですが、ちょっと前に映画化された時は、「モビルスーツの原点になった強化服(パワードスーツ)が出てこない」などと批判されたものです。でも、原作では、強化服は最初と最後にちらっと出てくるだけで、話の8割以上は主人公の若者がいかに一人前の兵士になったかに費やされています。
軍の教官が主人公に繰り返し言う、「・・・の正しさを数学的に証明せよ」というせりふが印象的です。「・・・」に入るのは、例えば「仲間が一人でも敵に捕まったら、味方が何人死んでも助け出さなければならない」といった軍の、いや、体制の価値観です。でも、価値の問題を数学で解決することなど、不可能なはずです。一足す一の答えはひとつですが、価値観は本来、人それぞれだからです。実際、この問いに対して主人公がどう答えたかを、ハインラインは全く書いていません。
この小説に出てくる昆虫型エイリアンは、アメリカに敵対してきた日本人や朝鮮人、ベトナム人などの黄色人種の比喩なのだという説がありますが、私はむしろ、ハインラインが描こうとしたのは、反共一色に凝り固まってそれ以外の価値観を許さない、60年代当時のアメリカ社会そのものだったのではないか、と思います。
・・・あれっ、「夏への扉」はどこに?