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TPPと私たちの食・農・くらし 鈴木宣弘東京大学教授 「健康と環境は訴えられない」?他

2016-04-21 12:24:18 | TPPと私たちの食・農・くらし
「健康と環境は訴えられない」?
特許の保護期間の長期化を米国製薬会社が執拗に求めて難航したことに、「人の命よりも巨大企業の経営陣の利益を増やすためのルールを押し付ける」TPPの本質が露呈している。グローバル企業による健康・環境被害を規制しようとしても損害賠償させられるというISDS条項で「濫訴防止」が担保されたというのも疑問だ。タバコ規制は対象外に(カーブアウト)できるが、その他は異議申し立てしても、国際法廷が棄却すればそれまでである。健康や環境よりも企業利益が優先されるのがTPPだ。
要するに、「米国企業に対する海外市場での一切の差別と不利を認めない」ことがTPPの大原則なのである。遺伝子組み換え(GM)表示もその他の食品表示、安全基準も、「地産地消」運動なども、TPPの条文に緩和が規定されなくてもISDSの提訴で崩される危険性を忘れてはならない。韓米FTAでは、ソウル市の学校給食条例の廃止に象徴されるように、米国産を不当に差別する可能性を指摘され、数多くの国や地方自治体レベルの法律・条令を「自主的に」廃止・修正することになった。かたや米国は、TPPが連邦法にしか影響しないので、州法による「バイアメリカン」(公共事業に国産義務付け)は影響を受けない。

「消費者は利益」?
消費者の価格低下のメリットが強調されているが、輸入価格低下の多くが流通部門で吸収されて小売価格はあまり下がらない。さらには、日本の税収約60兆円のうち2%程度を占める関税収入の多くを失うことは、その分だけ消費税を上げるなどして税負担を増やす必要があることになり、相殺されてしまうのである。
さらには、米国などの牛肉・豚肉・乳製品には、日本では認可されていない成長ホルモンなどが使用されており、それが心配だと言っても、国内で生産農家がいなくなってしまったら、選ぶことさえできなくなる。

「食の安全基準は守られる」?
食品の安全性については、国際的な安全基準(SPS)の順守を規定しているだけだから、日本の安全基準が影響を受けることはないという政府見解も間違いである。米国は日本が科学的根拠に基づかない国際基準以上の厳しい措置を採用しているのを国際基準(SPS)に合わさせると言っている。
例えば、BSE(牛海綿状脳症)に伴う牛肉の輸入基準は米国にTPP交渉参加を承認してもらう「入場料」として、すでに20か月齢から30か月齢まで緩めたが、国際基準ではBSE清浄国に対しては月齢制限自体ができないので、米国からの要求を見越して、食品安全委員会は月齢制限撤廃の準備を完了している。国民への説明と完全に矛盾する。
また、「遺伝子組み換え(GM)でない」という表示が消費者を「誤認」させるとして、「GMが安全でない」という科学的根拠が示せないならやめろと求められ、最終的には、ISDS条項で損害賠償させるぞと脅されて、その前に「自主的に」撤廃に追い込まれることも想定しなくてはならない。
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