こんにちは「中川ひろじ」です。

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TPPと私たちの食・農・くらし 鈴木宣弘東京大学教授 品目別の再試算の問題点

2016-04-24 19:16:38 | TPPと私たちの食・農・くらし
品目別の再試算の問題点~対策あるから影響なしの論理破綻
政府の影響試算の根本的問題は、農産物価格が10円下落しても差額補填によって10円が相殺されるか、生産費が10円低下するから所得・生産量は不変という点である。
例えば、酪農では加工原料乳価が最大7円/kg下がるが、所得も生産量も変わらないという。生クリーム向け生乳への補給金だけで7円の下落が相殺されるわけはない。畜産クラスター事業の強化で生産費が7円下がる保証もない。可能だと言うなら根拠を示すべきだ。
しかも、加工原料乳価が7円下落しても飲用乳価か不変というのは、北海道が都府県への移送を増やし、飲用乳価も7円下落しないと均衡しないという経済原理と矛盾する。輸入米を飼料米に回せば米価への影響がないというのも、国内の主食米を飼料米に向けている中で影響しないわけはない。
果物の加工向けと生果との関係も同様だ。政府は影響を加工向けの一部に限定するが、例えば、過去のオレンジ果汁自由化でジュースでの果物摂取が増えて国産の生果が圧迫されて価格下落・生産縮小が起きたのは歴史的事実だ。過去のデータから輸入オレンジ果汁の1%の価格低下が国産のみかん供給の1.32%の減少につながったという関係が推定される。これを用いれば、29.8%のオレンジ果汁の関税撤廃の影響は相当大きいことが一定の合理性を持って推定できる。
ブランド品への影響は1/2というのも根拠がない。例えば、過去のデータから豪州産輸入牛肉が1円下がるとA5ランクの和牛肉は0.87円下がるという、ほぼパラレルな関係にあることが推定できる。コメの在庫増加による価格下落圧力も、過去のデータから1万トンの在庫積み増しが41円/60kgの米価下落につながったと推定される。こうした値に準拠すれば、合理的説明が可能な影響試算ができる。
牛肉・豚肉は赤字の9割補填をするから所得・生産量が変わらないというのもおかしい。農家負担が25%あるから実際の政府補填は67.5%で、平均赤字の67.5%を補填しても大半の経営は赤字のままだから、全体の生産量は減ってしまうだろう。
 個別品目別に整理すると、
①コメ
米価下落も一切ないとしている。TPPによる追加輸入分は市場から「隔離」するから大丈夫というが、隔離とは欧米がやっているように援助物資や補助金付輸出として海外に送るなど、国内市場から切り離すことであり、備蓄米を増やして棚上げ期間も5年→3年に縮めるのだから、在庫が増え、それが順次市場に出てくることを織り込んだ価格形成が行われる。飼料米に回すから大丈夫かのような説明もあるが、飼料米に回していた主食米が圧迫され、主食米の価格が下落する。
また、収入保険を経営安定対策かのように提示しているが、これは過去5年の平均米価が9,000円/60kgなら9,000円を補填基準収入の算定に使うので、所得の下支えとはまったく別物だ。基準年が固定されず、下がった価格を順次基準にしていくのだから「底なし沼」である。米国では強固な「不足払い」(所得の下支え)に収入保険がプラスアルファされているのに、収入保険だけを取り出して米国を見本にしたというのも悪質なごまかしである。
②牛肉
牛肉価格の下落は、体質強化策と経営安定対策によって吸収されるというが、政府補填率が8割から9割になるだけで、それが可能とは思えない。かつ、価格低下による補填単価の増加の一方で、補填の財源としていた牛肉関税収入は1,000億円近く消失するのに、財務省は新たな財源を準備しない方針である。限られた農水予算内で手当てすれば、農水省予算のどこかが削られることになる。しかも、経営の収益性分析(付表)で明らかなように、赤字の9割補填(政府の実質補填は0.9×0.75で67.5%だが)を行なっても、相当に大規模な経営のみが黒字に転換するだけで、全体の生産量の減少を抑止できる可能性は極めて低い。特に乳雄肥育は全面的赤字のままである。
③豚肉
政府は、現在、コンビネーションで輸入価格を524円、関税を22.5円に抑制して輸入している業者が、50円の関税を払って、安い部位の単品輸入を増やすことはないから影響は4.3%の従価税分がほとんどとの形式論を展開する。しかし、50円なら低価格部位だけを大量に輸入する業者が増加するというのが業界及び歓喜する米国(=日本には大打撃)の見方である。赤字の9割補填を行なっても、相当に大規模な経営のみが黒字に転換するだけで、全体の生産量の減少を抑止できる可能性は極めて低いのは豚肉も同じである。
④酪農
政府試算では、チーズ向けの関税撤廃(50万トンのチーズ向け生乳が行き場を失いかねない)などの影響で、加工原料乳価が最大7円下がるとしているが、飲用向けにはまったく影響せず、また、北海道の生乳生産もまったく変化しないとしている。まず、加工向けが7円下がれば、北海道からの都府県への飲用移送が増えて、飲用乳価も7円下がらないと市場は均衡しない。また、生クリーム向けの補給金の復活と畜産クラスター事業による補助事業の強化で、7円の乳価下落はどうやって吸収できるのか。説得力のある説明は不可能である。
米国では、ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO)制度の下、政府が、乳製品市況(政府の乳製品買い上げで下支えされている)から逆算した加工原料乳価をメーカーの最低支払い義務乳価として全国一律に設定し、それに全米2,600の郡(カウンティ)別に定めた「飲用プレミアム」を加算して地域別のメーカーの最低支払い義務の飲用乳価を毎月公定している。それでも、飼料高騰などで取引乳価がコストをカバーできない事態に備えて、最低限の「乳代-餌代」を下回ったら政府が補填する仕組みも2014年農業法で確立した(付図参照)。
つまり、日本の加工原料乳補給金に匹敵、いやそれ以上の役割を果たす政府の乳製品買い上げ+用途別乳価の最低価格支払い命令に加えて、最低限の所得(乳価-飼料コスト)を補填する仕組みを米国では組み合わせているのだから、我が国で、「補給金と所得補償は両立しない」という議論は成り立たない。
また、コメと酪農の所得補償については、モラルハザード(意図的な安売り)を招くから無理との指摘がなされてきたが、これはナンセンスである。安くなればコメ農家や酪農家向けの財政負担が増えても消費者の利益は拡大する。消費者利益の増大のほうが財政負担の増加より大きいので、日本社会全体では経済的利益はトータルで増加するというのが経済学の教えるところであり、我々の試算でもそうなる。「消費者負担型から財政負担型政策へ」と言ってきたのは政府である。
 また、「畜産クラスター」の拡充も対策と言われるが、現場での評価は「従来型の箱物投資を個人でし易くしただけで、クリアすべき条件設定も多いため施設・機械の総費用が大きくなり、1/2補助を受けても、補助金なしで個人で投資したほうが自己負担は小さい場合もある。増頭計画が前提でもあり、過剰投資と過剰負債を誘発しかねない」と否定的な声も多い。生クリームへの補給金が認められ、畜産クラスターも拡充されるからこれでよいなどと思っていたら、酪農の未来を失いかねない。
⑤果樹
生果、果汁を含め、全面的関税撤廃になる果樹についても、政府は軽微な影響しかないとしているが、特に、過去の果汁の貿易自由化で、ジュース消費が増え、国産の生果消費が圧迫されて自給率が著しく低下してきた経緯、加工向けの価格下落で需給調整機能が低下し、生果の下落にもつながってきたことなどを無視した著しい過小評価となっている。
⑥麦
 牛豚同様、財源確保の前提に問題がある。輸入小麦のマークアップ(実効17円/kg)を45%削減するので、輸入小麦の国内流通価格が下がり、国内麦価格の下落(▲14%程度)につながるとともに、約400億円の財政収入が減ってしまうので、価格下落に伴い、国内の小麦の固定支払い(ゲタ対策)などは拡充すべきところ、財源は大幅に減る。限られた農水予算で手当てすれば、暗渠排水予算が減らされるというようなしわ寄せが生じる。調整金が減少する砂糖も同様。
なお、米菓をはじめ、コメ、麦、乳製品、砂糖などを含む加工品や調製品も関税撤廃・削減されるが、それは食品産業の空洞化を招き、原料農産物が行き場を失い、地域の雇用も失われる。こうした影響も勘案されていない。
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チェルノブイリから30年

2016-04-24 19:09:21 | 脱原発・危機管理

今から30年前の1986年4月26日、チェルノブイリ原子力発電所でレベル7の深刻な事故が起きた。原発から30キロ圏内の11万6千人が故郷を失った。

24日、日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)の主催で、10日前にベラルーシから帰国したばかりの鎌田實理事長のお話を聞いた。

事故後に、いったんは町に住んでいたが故郷に戻って暮らしているお年寄りのお話し。年間5ミリシーベルト以上は強制避難、1~5ミリシーベルトは、「サマー(ロシア語)」自分で決めて、戻ってきた。「寂しくないか」と聞くと、「寂しい」と答える老婆。故郷を失わせ、寂しさのなかで生きる老婆、原発事故がなければと思わざるを得ない。

ベラルーシは、この30年間1回24日間の保養を年2回やりつづけてきた。18才未満は2年に1回、18才以上は5年に1回、健康診断を、30年間続けてきた。検診を行い異常が見つかれば適切な治療を施すことで95%の子どもの命が救われた。
...やるべきことをやりつづけて不安をなくす努力を続けてきたベラルーシ。やることをやらずに不安を大きくする日本…、この差は何か!


JCF日本チェルノブイリ連帯基金は、イラク戦争で劣化ウラン弾が使われ、白血病の子どもが増えたことから、イラクへの医療支援も行っている。

24日は、イラクから急遽、帰国したJCFのスタッフ加藤丈典さんと、医師のリカ・アルカザイルさんから報告がされた。
現在、JCFなど8団体で構成するJIMNET(日本イラク医療支援ネットワーク)の中心的活動をJCFがになっている。これまでに小児白血病の診療所を4か所で運営している。
シリアやイラクから300万人を超える難民がEUに避難していることが国際的に大きな課題となっている。2014年6月にニーナワー県のモスルがイスラム国の侵攻により陥落したことを契機に320万人以上の国内避難民が発生している。その結果ニーナワー県の行政は完全に麻痺し、人々の健康を守る保健局も崩壊した。その代わりに避難民の中から有志の医療従事者が自主的に医療サービスを開始したのがマルチシムーニ教会クリニックである。
JCFは、このクリニックに対して「薬品処方指導」「医療体制構築支援」を行ってきた。しかし増え続ける国内難民への医療支援のほんの一部にすぎない。そこでニーナワー県の保健局の離散した6000人の職員が働ける場所をつくろうと、アラブ人とクルド人が協力を始めた。ニーナワー保健局のマンパワーとクルド自治区は医療施設を提供するというものである。もともと歴史的にも反発しあってきた民族だが「子どもの命」を守るために協力しあい。その橋渡しをJCFがした。

■信州医療が世界の平和を創る
鎌田理事長は、イラクの医療支援の中で、長野県が健康長寿であることの秘訣である「減塩」「野菜を取る」「歩く」「生きがいを持つ」ことを広げている。
鎌田理事長は語る、「今週は自分の健康のために歩いてみよう。来週は家族や仲間の健康を考えて歩いてみよう。次の週は命のことを考えて歩いてみよう。その次の週は誰の命も大切であることを考えて歩いてみようと、話している。平和を守ると言えば、それぞれの平和を守るために対立が生まれる。でも健康のことならだれでも一緒に考えられる。健康・命・平和はつながっている」。
鎌田理事長は続けて「僕たちは、これまで一度も危険な目にあったことはない。それは戦争をしない日本のNGOだからだ」と言い切る。


23日土曜日には、「ソ満国境15歳の夏」がピカデリーホールで上映された。70年前ソ連国境に捨てられた新京第一中学生120人。ソ連の捕虜収容所で息絶えた4人の仲間。福島原発事故で故郷を失った現在の15歳の子どもたちが、苑』取材を進めるというストーリー。捕虜収容所から新京へ向かう中学生を救った中国人。「中国の村人が日本人を助けたことによって、これからの世代にどんな新しい歴史が生まれるのか楽しみだ」と村長が語る。
鎌田理事長も、「イラクやシリア難民は世界がほんの少し支援をするだけで命が救われる」と話す。故郷が失われないように。子どものたちの命を救うために。熊本の地震による被災者への支援。原発事故による放射能から子どもたちを守ること。私たちは戦争やチェルノブイリが伝える教訓をもう一度考える必要があるのではないでしょうか。
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