リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(13)

2022年11月20日 10時15分53秒 | 音楽系
Mf.2002手稿本の最初のページです。



これに続く2ページにテクニック・装飾に関する22項目の記述が続きます。




この中で、図1のような和音のリアライゼイションとして図2のような右手薬指を使った弾き方が明示されています。

図1 和音

図2 リアライゼイション(2小節目から)


リアライゼイションの冒頭部

すみません。ピンボケになってしまいました。原著ではリアライゼイションの冒頭が泣き別れになっています。その部分を拡大したらピンボケになってしまいました。

他にも別のパターンで右手薬指の使用が示されています。以下は本手稿本に収められている曲の一部です。



バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(12)

2022年11月19日 15時39分22秒 | 音楽系
フィリップ・フランツ・ルサージ・ドゥ・リシェー (以下ルサージ)により1695年に出版された「リュートの飾り棚」(Cabinet der Lauten)という曲集の始めのページには15項目によるリュートのテクニックや装飾についての記述があります。


表紙です。




この曲集は現在のヴロツワフ(ポーランド)で出版されました。当時のドイツから見るとブレスラウ(シレジア)という街で、ヴァイスはこの街の近くのグロトクフという小さな街で生まれました。

ルサージはムートンの弟子だったようで名前もフランス人っぽい名前ですが、実際はシレジア人でヴァイスファミリーに近いところにいた人だと考えられています。

その彼の「飾り棚」におけるテクニック・装飾に関する記述はその少しあとのいくつかの手稿本に引用されています。ヴロツワフ大学図書館にあるMf.2002手稿本はそのひとつで、ルサージより多い22項目にわたり記述されています。

一事が万事

2022年11月18日 14時22分23秒 | ローカルネタ
昨日市内の奥まったところにある高級感を売り物にしている某スーパーに行きましたら、えらい安い種なしブドウが目にとまりました。はい、ブドウは私の大好物です。もうこの時期ブドウは終わっていますが、おつとめ品で800円、かなり安かったです。軽く房に触れてみましたらすこしゆるいというかやわらかい感じでしたが早めに食べればいいだろうと思って購入いたしました。

早速家に帰って夕食のデザートに頂くと、これがなんと言いますか少しカビくさい味です。おかしいなと思いつつも2つ目をいただきましたが、こちらも同様でしたのでもうすぐに口から出しました。一つ目の一部はすでに飲み込んでしまいましたが・・・いくら特売品でもカビ味はないだろうということで今朝お店に返品に行ってきました。

店の入り口で商品の仕分けをしていたお兄さんに、「あの、お店で責任のある方にお話がしたいのですが」と伝えますと、奥の方にいらっしゃる店長とおぼしき方のところに私を連れていってくれました。その方に、

「あのこのブドウ昨日ここで購入したんですが、ちょっとカビの味がするもんで・・・」と言ってモノを見せました。

「うむ、これは返金や」

と言ってお兄さんに私をレジに連れて行くよう指示をしてやりかけていた仕事に復帰。レジで800円返金してもらいましたが、お店を出ようとするとき、あれ?それだけ?こういうときって、店長がゴメンゆうんとちゃうの?と思いましたが、気の弱い私は返金してもらっただけで嬉しくなったのでそのままお店を出ました。

実は同じブドウがらみで、以前市内の新興住宅街ににある大きなスーパーで、種なしブドウと称するものを買ってきましたら、種なしではありませんでした。種なしのつもりでかんだらガリっとなって歯が欠けそうになりましいた。(欠けませんでしたが)そのお店に返品に行きましたら、担当の方は平謝りでお詫びのしるしということで別の種なしブドウを3房も頂きました。

今回も実はそれをうっすら期待していたんですけどねぇ。誤れとか、お詫びの印はないんかとか、腹こわしたらドーするんや!なんてすごむとか、そんなことは紳士である私にはとても出来ません。でもこのお店、こんな対応していたらそのうち左前になりますよ。

このお店は、高級な外車で来るお客さんの比率がよそより多いので、駐車場の区画が広くとってあったり、レジの担当の方がとてもキビキビしていたり、レジ袋もすこし厚手のものを用意してくれたりで、高級感を演出して好ましかったのですが、ある時期から駐車場の区画が5ナンバーぎりぎりの狭さに書き換えられたり、レジの人員が減りお客が並んでいるのにレジ打ちができないなど、急に変ってしまいました。あるときなんか、駐車場は混んでいましたが店に入ると人はまばら、でもレジに長い行列がというようなこともありました。そこに今回の「ブドウ事件」です。やはり一時が万事というのは正しい。全国にブランド展開している同店ですが、足下がこんなのではこの会社はだめです。


バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(11)

2022年11月17日 10時41分11秒 | 音楽系
前回はルネッサンス・リュートの技術に寄り道してしまいましたが、バロック・リュートの技術に戻り、連載(9)の2.について見てみましょう。


2.ヴァイスの曲に右手薬指を使うという指示はひとつもない


この文は、ヴァイスの曲には中指人差し指の指示はあるが薬指の指示はない、従ってヴァイスの曲で薬指を使って弾くのは歴史的にみて間違いである、と取れますが、さて?

そもそもヴァイスの曲(に限らず当時の楽曲)に左右の指使いの指示はほとんど書かれていません。つまり別に薬指の指示もないし、他の指の指示も特にないのです。薬指のことだけ強調して言うということは、ヴァイスや同時代の楽曲をバロック・リュートで弾くときは薬指は全く使わないと取ってしまいます。

でもねぇ、こんないい加減なことを知らない人に言っていけません。まぁ受け取った人が聞き間違いしたのかも知れませんが。

ということなので2.に関しては誤り、または言ってもあまり意味のないことだと言えますが、せっかくですので当時のタブで薬指を使う指示がないわけではないので、みてみましょう。

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(10)

2022年11月16日 14時32分46秒 | 音楽系
ザ・スクール・オブ・ミュージック(音楽道場)は現在ロンドンの大英図書館にあります。私が持っている資料はかつての大英博物館ミュージックルーム時代に手にいれたものです。

右手薬指使用に言及している部分が下のページです。



赤の↓が示しているところが該当箇所です。譜例の下の解説にあるように3つのドットは薬指を表します。なお、青色の矢印で示した箇所は、3つのドットが付いていて薬指で弾くという指示になっていますが、譜例の解説(青色の下線部)では中指で弾くとありますので、多分誤植だろうと思います。

青下線部の原文:
& last of the 4 followes d in the small Meanes, striken upward with the second finger
([最初の小節の]4つの[タブの]文字のうちの最後、2コース上にある d は2番目の指[=中指]でもって上方に弾かれます。)

ロビンソン自身および彼の弟子たちはこのような指使いで演奏していたわけです。ではダウランドはどのような指使いで弾いていたでしょうか。それははっきりとはわかりません。ダウランドがロビンソンの曲を弾いたら(そいうことがあったかどうかはわかりませんが)、ロビンソンの指使いではなかったかも知れません。反対にロビンソンがダウランドの曲を弾いたら、これは技術的なエビデンスがあるので、この「音楽道場」で示されているような指使いをするでしょう。

イギリスのルネサンス音楽の時代に薬指について言及している理論書が伝えられている以上、前回のエントリーの1.については、間違っているということがおわかりになったと思います。まぁいろいろな指使いをしていたということでしょう。我々としてはどうすればいいのかというと、薬指は使っても使わなくてもどちらでもいいということになります。ただし、ロビンソンが薬指を使うケースは、音が離れた位置(弦と弦が離れている)にあるときということなので、拡大解釈して例えばディミニューションでも薬指を使うということはありません。いくら「流派」が異なるとは言え、時代的に共通点しているところは沢山あります。現代ギターの指使いの考え方をリュートに持ち込んではいけません。

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(9)

2022年11月15日 17時18分58秒 | 音楽系
少し前の話題に戻って、右手薬指の使用について書いてみたいと思います。といいますのも実は私の生徒さんから次のようなことを言っている人がいると聞いたからです。

1.ルネサンス時代には右手薬指はつかわない
2.ヴァイスの曲に右手薬指を使うという指示はひとつもない

ある有名なプロの方が断言されていたことで、絶対的なものと捉えているみたいだということでした。

このシリーズでは、歴史的なことはきちん踏まえたうえで、なおかつ教条主義的にならないように、というスタンスが大切だということをお話しました。そもそも歴史的資料は全ての時代および全ての奏者(流派)の奏法を完全に伝えるほど多くは残されていないからです。それでいくと上記1.2.歴史的認識も踏まえていないし、かつ教条主義的になっているという点であまりよろしくはありません。もっともこの状況は私は伝え聞いたにすぎないので、実はきちんとわかっていらっしゃるのかもしれませんが。

ともあれ、まず1について見てみると、ずばり右手薬指の使用を明示している人がいました。トマス・ロビンソンがその人です。彼が1603年にロンドンで出版しました「ザ・スクール・オブ・ミュージック」には右手薬指を使う例が出ています。

この本はタイトルで「リュート、パンドーラ、オルファリオン、ヴィオラ・ダ・ガンバの正しい指使い法を教える」と謳っています。

この本の表紙にはなかなか自信たっぷりな文言がならんでいます。訳してみますと;

-------------------
音楽道場

ここでは次のことを教えたり。すなわち次の楽器の正しい指使いの方法論、リュート、パンドーラ、オルファリオン、ヴィオラ・ダ・ガンバの。それらはもっとも間違いがなく標準化されたる規則で、簡潔かつ明解なものなり。

さらにリュートでもってプリック・ソングを師匠に習うことなく自習せしむる法も細に入り述べたり。またよりよく自習を深めるためにあらゆる種類の楽曲も添付せしものなり。

楽曲はリュート奏者トマス・ロビンソンが書き下ろしたり。
-------------------

次回は薬指を使用する例が掲載されているページをご紹介します。

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(9)

2022年11月15日 17時18分58秒 | 音楽系
少し前の話題に戻って、右手薬指の使用について書いてみたいと思います。といいますのも実は私の生徒さんから次のようなことを言っている人がいると聞いたからです。

1.ルネサンス時代には右手薬指はつかわない
2.ヴァイスの曲に右手薬指を使うという指示はひとつもない

ある有名なプロの方が断言されていたことで、絶対的なものと捉えているみたいだということでした。

このシリーズでは、歴史的なことはきちん踏まえたうえで、なおかつ教条主義的にならないように、というスタンスが大切だということをお話しました。そもそも歴史的資料は全ての時代および全ての奏者(流派)の奏法を完全に伝えるほど多くは残されていないからです。それでいくと上記1.2.歴史的認識も踏まえていないし、かつ教条主義的になっているという点であまりよろしくはありません。もっともこの状況は私は伝え聞いたにすぎないので、実はきちんとわかっていらっしゃるのかもしれませんが。

ともあれ、まず1について見てみると、ずばり右手薬指の使用を明示している人がいました。トマス・ロビンソンがその人です。彼が1603年にロンドンで出版しました「ザ・スクール・オブ・ミュージック」には右手薬指を使う例が出ています。

この本はタイトルで「リュート、パンドーラ、オルファリオン、ヴィオラ・ダ・ガンバの正しい指使い法を教える」と謳っています。

この本の表紙にはなかなか自信たっぷりな文言がならんでいます。訳してみますと;

-------------------
音楽道場

ここでは次のことを教えたり。すなわち次の楽器の正しい指使いの方法論、リュート、パンドーラ、オルファリオン、ヴィオラ・ダ・ガンバの。それらはもっとも間違いがなく標準化された規則で、簡潔かつ明解なものなり。

さらにリュートでもってプリック・ソングを師匠に習うことなく自習せしむる法も細に入り述べたり。またよりよく自習を深めるためにあらゆる種類の楽曲も添付せしものなり。

楽曲はリュート奏者トマス・ロビンソンが書き下ろしたり。
-------------------

次回は薬指を使用する例が掲載されているページをご紹介します。

How great thou art (チェロアンサンブル版)ライブ!

2022年11月14日 11時51分02秒 | 音楽系
アメリカ・カリフォルニア州のロマ・リンダにあるロマ・リンダ大学教会の礼拝で、孫が通っているチェロ教室の皆さんの演奏がありました。


会員数では、約6,400人の会員を擁する世界最大のアドベンチスト教会です。

曲目は、フレンチ・フォークソング、見よ勝者は帰る、賛美歌「輝く日を仰ぐとき」を演奏しました。最後の賛美歌(英語題How great thou art)は私の編曲によるものです。チェロ教室の先生に頼まれてチェロ5部(チェロ1~チェロ5)で編曲をしました。

先生からは全くの初心者でも弾けるパートも用意してほしいとのことでしたので、左手を使わず開放弦だけで弾けるパート(チェロ5)も作ってあります。でもこれはなかなか大変な作業でした。まず調性はニ長調一択ですね。

子供たちにとって音自体はシンプルでも、ポリフォニックに各声部が動きますので、チェロ5であってもタイミングが難しくかなり練習を積んだと先生は仰っていました。ではその成果を聴いてみましょう。

How great thou art (cello ensemble)
背中が弾き振りをしているJim先生です。画面左のスクリーンにときどき左手を使わないチェロ5の子も映ります。ウチの孫の顔をチラッと・・・

このチェロ教室の子供用には「となりのトトロ」(四重奏)、「彼こそが海賊」(二重奏)(パイレーツ・オブ・カリビアンの音楽)も編曲しています。トトロは来年の春に演奏してもらえそうです。パイレーツは今年のクリスマスコンサートで先生と上手な生徒とで演奏するといいんじゃないでしょうか。まぁ向こうさんの都合もあるでしょうけど。

バロック音楽の旅15講座第3回コンサート

2022年11月13日 22時29分06秒 | 音楽系
今日はバロック音楽の旅15講座の第3回目、チェンバロの杉浦道子さんをお迎えしてのコンサートでした。

昨日はとても天気がよかったのですが、今日は天気予報の通り午前中から雨でした。ただ会場のくわなメディアライヴ1F時のホールは小さな多目的ホールながら、きちんと搬入出口を備えていますので、雨が降っていても楽器の搬入出には全く問題がありません。今日は雨が降っていても気温は比較的高めという予報でしたが、その通りでしたので暖房は入れる必要がなく室温も安定していましたのでチェンバロの調律に関しては問題は少なかったと思います。



コンサートのプログラムは以下の通りです。バッハ親子の作品とラモーの作品で構成して頂きました。


ヨハン・セバスチャン・バッハ (1685 - 1750)/6つの小前奏曲BWV933-938
ハ長調、ハ短調、ニ短調、ニ長調、ホ長調、ホ短調

ヨハン・クリスティアン・バッハ (1735-1782 )/ソナタ変ホ長調Op. 5-4
アレグロ - アレグレット(ロンド)

------------------------------ 休憩 ---------------------------------

ジャン=フィリップ・ラモー (1683-1764)/新クラヴサン組曲より
ファンファリネット(小さなファンファーレ)、めんどり、
未開人、エンハーモニック、エジプトの女
メヌエットⅠ、Ⅱ
ガヴォットと6つのドゥーブル


途中に簡単なトークを入れながら進めています。

杉浦さんの美しい演奏にみなさんうっとりでした。そしてチェンバロという楽器にもすごく興味がある方が多く、開演前から写真を撮る方もいらっしゃいました。終演後も杉浦さんに質問される方が大勢いらっしゃいました。

次回第4回講座は12月11日。フラウト・トラヴェルソとリコーダーの国枝俊太郎さんと私とでデュエットです。この講座は6回シリーズですが、途中からの参加もできますので、興味のある方はぜひお越し下さい。

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(8)

2022年11月12日 14時40分40秒 | 音楽系
バッハが五線譜で示した装飾記号の解題はとてもよく知られています。



この示されている音符を均等割で弾けばオーケーではありません。沢山書かれている細かい音符は音楽の流れに沿って微妙に長さが異なるように弾くべきです。といってあからさまに音の長さを変えるというわけではありませんが。

50年くらい前、何人かのピアニストによるバッハの装飾の弾き方はどんな場合もほぼ「等速」だったように記憶しています。でした。まるでフリーデマンのための音楽帖の表をそのままコンピュータに入力して機械的に弾いているようでした。装飾の弾き方はほぼ等速からいくつかの音を長めに弾くといった幅があるべきです。

ですから、リュートの「コンマ様の装飾記号」に戻りますが、どう1回弾くか、どう2回弾くか・・・こそが重要なのです。1回、2回・・・弾けばいいというものではありません。この記号が多義的であるというのを知っている(つまり知識レベル)のは習得レベルとしては1%くらいに過ぎません。知っていても弾けなければ何にもならないのです。

ブサールはいい言葉を残しています。


・・・残念ながらそれら(装飾音の弾き方に関するルール)は口で言ったり書いたりして表すことができない、・・・上手な人の真似をするか、自ら練習を重ねて習得するのが一番いい方法になるでしょう。・・・(VARIETIE OF LUTE-lessons)