ラテンアメリカ民話集/三原幸久編訳/岩波文庫/2019年
雌のヒツジをつれている老人に声をかけたのは、ペドロというずる賢い、人を騙すのが好きな男。
連れているのはヒツジなのに「どこへ、このかわいい」子犬をつれていきなさるのかね?」と話しかけます。もちろん驚いた老人は取り合いません。
だが、ペドロは変装して道端でまち、また老人に声をかけます。「やあ、よい天気だね。その子犬は売るのかい。いい値をつけようじゃないか」。「子犬なんか持っていないよ」と、老人。
しばらくたつと、ペドロはまた顔つきを変え、衣服も着替えて、老人のそばをとおりかかり、「その犬を売ってくれないかね」と尋ねました。「いや、だめだ」と老人。
ところが、老人は立ち止まって、じっと自分のヒツジをながめていましたが、やがて心の中で考えました。「悪魔が犬にかえよったに違いないわい」。そうして老人はそのヒツジを道端に放り投げると、さっさと去っていきました。林の中に身を隠していたペドロは、それを見るとすぐさまヒツジを捕まえ、そのヒツジでおいしい料理をつくりました。
ペドロが口のうまさで、老人を疑心暗鬼にさせ、ヒツジをいただいてしまいます。そんなことはないと思っていても、何度も繰り返し言われ続けると、相手が言っていることもあながち嘘ではないと思ってしまう心理がどこかで働きます。