五分次郎/谷真介・文 高田勲・絵/佼成出版社/1992年
おじいさんとおばあさんが、こどもがほしくて毎日、観音さまへ いって、いのっていました。ある日のこと、おばあさんの右の中指が ぷっくりふくれて、かわいいこどもがとびだしてきました。
おじいさんとおばあさんは大喜び。背の高さが五分(1.5㎝)くらいしかないので、五分次郎と名前をつけました。
五分次郎は、おじいさんの方によじのぼってすべりおりたり、おばあさんの 手のひらで ぴょんぴょん はねてあそびます。ところが五分次郎は、いくらごはんをたべてもちっともおおきくなりません。
五分次郎が二十歳になったとき、「いままで そだててもらったので、こんどは わしが 働きます。わしは 魚売りに なりたいんです」と、おじいさんに お金をだしてもらって、いわしをかい、売りに出かけました。
大きな長者の家の娘が声をかけますが だれもいません。よくよくみると石のかげに五分次郎がいました。大きな長者の家の娘は、あんまり かわいいので すっかり五分次郎が すきに なりました。
日が暮れて家にかえれそうもないので、五分次郎が一晩泊めてくれるようたのむと、長者はこころよく泊めてくれます。
その夜、お弁当に もってきた いりこのこなを 眠っていた娘の口に こすりつけました。次の朝、五分次郎が泣いているのを見た長者が わけをたずねると、「むすめさんが、わたしのお弁当のいりこをみんな食べてしまったんです」
長者が娘をよぶと、口に いりこのこなが ついています。
「むすめさんを、およめさんに くれなければ、ぜったいに、ゆるしません」と、長者と直談判して 一緒になることに。お互いにすきになっていましたから長者からも許しが出ました。
およめさんと家に向かう途中、五分次郎は馬に食べられたり、金毘羅にお参りに行く途中、タイに食べられたりと ご難続き。
さらに金毘羅まいりから泊まった家でオニが相撲をとりだしたりと、この後の展開も波瀾万丈。
オニの忘れて行った小槌で、おしりをたたくと五分次郎は五尺三寸のいい男になって、めでたしめでたしです。
およめさんが馬のお尻からでてきた五分次郎を、つまんで谷川であらったり、タイのおなかのなかで「ほうちょう あぶねえ ほうちょう あぶねえ」、さらに小槌をふりまわすとき「五尺三寸の いい おとこに なーれ!」と叫ぶ場面など楽しさもいっぱい。
五分次郎が ねじりはちまきの いせいのいい 魚やになったというのも、ほかのサクセスストーリーにないおわりかたです。
五分次郎が、大きくなる寸前まで、小さく小さく描かれているのも雰囲気をよくあらわしています。
ごぶじろう/稲田和子・再話 いなだ なほ・絵/福音館書店/2022年(2015年初出)
ごぶじろうは、18歳のとき、世の中で修業しようと、笹船に乗って村をでました。大きい屋敷のおじょうさんに気に入れられ、讃岐の金毘羅詣りに同行します。
馬に食べられたり、タイに食べられたりするのは、同様の展開。鬼どもの住処で、鬼どもが相撲をはじめると、ごぶじろうが、「まあー、やっちこい。あかどんの かちい」「まあー、やっちこい。あおどん かちい」と、大声を出すと、鬼どもは、声の正体がわからずに不気味に思い、たからものを おいたまま にげてしまいます。
それから ごぶじろうは、小槌で、五尺三寸の若者に。
おじょうさんとの結婚はでてきますが、どんな職業についたのかについては、ふれられていません。
子どものころ、大人の会話に尺貫法がよくでてきましたが、最近はあまりきかれなくなりました。尺貫法も昔話のなかだけになるのかも。