チベットの昔話/アルバート・L・シェルトン 西村正身・訳/青土社/2021年
目の見えない年老いた木こりの世話をよくしていた孝行息子が、薪を背負って険しい山道をくだっているとき、小さな皮の袋を見つけた。中には三百グラムの銀塊が十個はいっていた。それは莫大な財産で、彼と父親が残りの生涯を安楽に暮らせるほどのものであった。
父親に、「誰にも言わないでおこう」というと、父親は、正直でなければならないと、村長に銀塊のことを話すようにいいます。
ある日のこと、ひとりの男が銀塊の入った袋をなくしたと、役人にいいました。すぐに見つけてやれるとおもった役人は、礼の若者に袋を持ってくるようにいいました。あまりに簡単に銀塊の入った袋が見つかりそうだと思った男は、袋には二十個入っていたのであって、若者が十個盗んだと役人に申し立てた。村長は、召使いに、父親の話を聞き、なんていったかを聞かせてくれといいました。
さて、召使は、父親の言うことは若者とおなじでしたと報告しました。銀塊に難癖つけた男は、十個だけでなくもう十個余計に手にはいるとわくわくしていましたが、役人がいったのはこうでした。
「この袋はあなたのものではありません。あなたのは二十個入っていたものであり、これには十個しか入っていませんから、ご自分のものは、どこかほかのところで探してください。これは年老いた父親を支える手助けとして若者に与えることにします。」
正直者には、福きたるの典型でしょうか。