人になりそこねたロバ/インドの民話/タゴール暎子・編訳/ちくま少年図書館67/1982年
雄牛を盗まれたお百姓が、「盗まれた一頭をとりもどすより、八頭の牛を買うほうがかんたんだ」ということわざどうり、村から遠い牛市にでかけました。
数ある牛の中に、忘れもしない自分の雄牛を見つけました。子どもときから育ててきたので見まちがうはずがありません。俺の牛だと主張する男に、「一年以上も飼っていたなら、なんでも知っているだろう。ひとつたずねるが、どっちの目がみえないんだね?」と、尋ねます。
男は、二、三日前に盗んだので、牛の目に注意を払っていませんでしたが、疑われたらたいへんと、ためらわず、「左目さ」と、答えます。お百姓が、「違うぞ、右の目さ。右目が見えないんだよ。こいつは」というと、こんどは、男が右目だとこたえます。そこであつまった人にお百姓は言います。
「おーい、みんな見てくれよ。この牛のどっちの目が悪いかな。ほれ、両目ともとっとも悪くないんだよ。わしは、この男がほんとうのことを知っているかどうか、試してみたのさ」。
男は牛どろぼうとして、裁判で六か月の刑をいいわたされました。
疑わしい電話があったら、こんな ”かま”をかけてみたいもの。