せきれい丸/作・たじまゆきひこ きどうち よしみ/くもん出版/2020年初版
冬の寒い朝、「明石のおばさんとこへ おいもと 魚を もっていってくれんか」と、お母さんにいわれ淡路島と明石をいききする「せきれい丸」に乗り込んだひろし。
船長がとめるのも きかず むりやりのりこんでくる人たちと 船の中は ごっちゃになって、ひろしは デッキに あがりました。
強い風と高い波。せきれい丸は 沖に出ると西風にあおられ、よこだおしになったまま 波に のみこまれてしまいました。
ひろしの からだは ふかくふかく しずんでいきます。そのとき とおくで だれかが よんでいるようです。「おーい、りゅうた がんばれ!」
いきなり ロープが 顔へ とんできました。「りゅうた! しっかりロープを つかめ。だいじょうぶや! 父ちゃんが きたから だいじょうぶや。しっかり つかまってとれよ」。むちゅうでロープをにぎったひろしは、たすけられましたが、りゅうたは みつかりませんでした。
ひろしは、だまって 船を浜へ引き上げたり、網を干したり、魚を運んだりして、りゅうたのお父さんの手伝いをはじめました。
ひろしは、りゅうたは、自分の代わりに しんでしまったという思いをもっていました。
「ひろしくん、きみの せいで りゅうたは しんだんと違う。もう こんでもええよ」といわれながらも なんども、りゅうたくんの お父さんの手伝いに行く ひろしは お父さんに 漁にさそわれます。
漁師の子どもらも のりこんだ 船は ひさしぶりの大漁に めぐまれました。
1945年12月9日、淡路島と明石をむすぶ連絡船「せきれい丸」が沈没し、304人が犠牲となった事故を題材にした絵本です。
ひろしのお父さんがのった船は、アメリカ軍の攻撃でしずみ、りゅうたのおじさんは 戦争から戻っていない戦後の混乱がつづく時期。
ひろしの「きみがなりたかった 漁師に ぼくはなるんや。淡路島の漁師に ぼくは きっと なってやる!」というさけびに、友だちの分も生きていこうという決意があふれていました。
忘れ去られて行く過去には、まだまだ記憶に残すべきものがたくさんあります。