森の歌が聞こえる/田島征三・作絵 L・インシシュンマイ・オブジェ/偕成社/2024年
森の中の小さな村には、ときどき、どこからか風にのって、うつくしい歌がきこえてきた。その歌声をきくと、村人たちは、しあわせな気持ちになるのだった。その森にはピーという精霊たちがすんでいて、村人たちはピーをおそれ、うやまっていた。
その村にノイという少年が、病気の母のために、毎日、森に薬草をとりにいき、食べられる草や木の芽をあつめ、弓矢で小さな動物をとってくらしていた。
ある日、村に見知らぬ男があらわれ、お金や、めずらしい食べ物を村人たちにく、ばって村のまわりの木を全部切り倒し、(金もうけの木)をうえるんだと、大きな声でよばわった。ノイは反対しますが、つつましくくらしてきた村人たちは、お金や食べ物に心をうばわれ、男の命令にしたがった。
男があらたにうえさせた木は、あっというまに大きくなり、その木をうりはらっては、おなじ木を植えさせました。精霊のピーはいなくなり、いつのまにか、あたりには動物たちもいなくなり、これまで食べていた草や木の芽もとれなくなりました。ノイは母のための薬草をさがしに、いつもよりずっと遠くまでいかなければならなくなりました。ある日ノイは、深い森のおくで、歌をうたいながら織物をおっているうつくしい女を目にしました。そして、その織物のすばらしさに目がくらみ、思わずそれを盗み岩山のほらあなに、しまっておきました。
村には、うつくしい歌声が聞こえなくなり、村人との間では、いいあらそいがたえなくなりました。やがてノイの母親が亡くなり、人のものを盗んだからと、織物をかえそうとしました。ピーたちの怒りは、大雨と嵐になって、一晩中吹き荒れ、洪水が村を襲いました。そして岩山に織物をとりにいこうとしたノイも、激しい流れの中にまきこまれてしまいました。波にのまれながら、必死に泳いでいたノイは、舟にのっていた少女を助けました。
ノイのおかげで元気になって少女は、ポンパイという名前でした。やがてノイは、ポンパイの協力を得て森をよみがえらさせるために木を植えていきました。朝早くから夜遅くまで。二人の努力は村人たちの心をうごかし、やがてすこしずつ、森には昔のように草木が茂るようになり、動物たちもかえってきました。
大人になったノイは、ポンペオに結婚を申し込もうと、岩山にのぼって、あの織物をもちかえり、ポンペイに着せかけた。しかし、ポンペイは、悲しそうにいいました。・・・
絵本で、オブジェというのをはじめてききましたが、このオブジェは、ラオスのルートマニー・インシシェンマイさん。森の動物たちのオブジェの発想に、まだまだしらないことばかりというのを実感しました。
森の生態系の破壊や、うつくしいものに目を奪われ、盗んでしまう人間の弱さ、築き上げたはずの信頼関係が、あっというまにくずれていくようすなどが見事にえがきだされていました。
それにしても、田島さんの活動の幅広さに頭が下がります。