子どもに聞かせる世界の民話/矢崎源九郎編/実業之日本社/1964年
貧しい羊飼いの夫婦にうまれたグナンは、生まれるとすぐ歩き出し、一時間ごとに大きくなって一日もたたないうちに、普通の大人よりももっとおおきなってしまいました。さきゆきを心配した羊飼いの夫婦は王さまのところなら、つかってくださるかもしれないと、ダナンを旅に出してやりました。
おなかのすいたダナンはとちゅう、とびかかってきたオオカミをひっとらえると肉を焼いて、食べてしまいました。王さまの御殿につくと、王さまはダナンを試してやろうと牛を一頭丸焼きにして出しますが、ダナンはその肉をぺろりとたいらげたので、おそばつきの家来にしました。
ある日、王さまのおともをして狩りにいったとき、ふいに、しげみの中から、目を光らせたトラがおどりでてきました。びっくり仰天した王さまと、家来たちも慌てふためいて逃げ出しましたが、ダナンはとびかかってきたトラの片足をつかんで、ぶるんぶるんとふりまわし、そばの大きな木めがけて、たたきつけました。ダナンがしんだトラをかついでかえると、王さまはトラの皮でりっぱな敷物を作りました。なんともいえないいい気持になった王さまは、トラの王の皮で、きものをつくってみようと、ダナンにトラの王をつかまえることを命じました。
三日の間という期限でしたが、ダナンは、トラの王がどこにいるかけんとうもつきません。ところが、ふいにひとりのおじいさんが、「トラの王は、遠い北の山の、洞穴にいる。この、あしげのウマにのっていきなさい」というと、おじいさんのすがたは消えて、あしげのウマだけが残っていました。目にもとまらないはやさで走っていると、「助けてえ。」という、子どもの声がしました。オオカミが女の子にとびかかろうとしたのをみたダナンは、矢で女の子を助けました。その家のおかあさんは、子どもが助かったのをみると、たいそう喜んで、ヒツジの骨をさしだし、もっていくよういいました。
北へウマを走らせていると、大きな川。大ガメがあらわれ、目玉を新しいのと、とりかえたいので手伝ってくれるよう頼まれました。ダナンが指の先で、カメのめだまをほじくりだしてやると、カメは、一ぴきのリュウになり、目玉をもって川へいくよういうと、天へ、とびさっていきました。その目玉は、きらきらかがやくスイショウの玉に、かわっていました。
ダナンが、いわれたとおりに、玉をもって川の中に飛び込むと、川の水は二つに分かれ、真ん中に道があらわれたのです。川をわたると、トラの王に、娘をさらわれたというおじいさんにあいました、きっと助け出すと約束したダナンは、山の上の洞穴にちかづき、番をしていたトラどもに、もっていたヒツジの骨を投げ出すと、トラは一斉に、骨にあつまりました。洞穴のおくにすわっていた娘と山をかけおりるとトラの王がおそってきましたが、ダナンが大きな岩を投げたので、トラの王は死んでしまいます。
助けた娘はダナンのよめさんになり、いっしょに、王さまのもとへかえりました。王さまはトラ王の皮で、きものをつくるようダナンのおよめさんに命じます。やがて王さまが、皮のきものをきると、そのとたんに王さまの口は、みるみるにさけ、おまけにきばをむきだしました。ほんもののトラになってしまったのでした。ひとびとは、びっくりしてにげだしました。トラが暴れまわるので、ダナンは、トラをたいじしてしまいました。
ダナンはうつくしい妻と、あしげのウマにのって、両親のまつ家に帰っていきました。
ところでこのダナン、一日でおおきくなるので、いくつで王さまのところへいったものやら。
そして、この王さまは、もっぱらダナンの引き立て役で、悪い面はでてきません。