岐阜のむかし話/岐阜児童文学研究会編/日本標準/1978年
竜宮伝説もさまざまですが、竜宮に滞在することなく、帰ってくる話。
か助は、水泳ぎや魚とりにかけては村一番の若者。祭りの近いある日、村の者が か助に、灯明淵に投網をうってくれとたのみにきました。
灯明淵は水深く人のよりつかないところで、魚たちのすみかにもってこいの場所。あるとき、一人の若者が、灯明淵より川上に船をこぎだし、水面をみていると、いままで見たこともないような美しい人の姿を水中に見つけました。「おまえはだれじゃ」と声をかけて水ん中に手を差しのべたとき、その美しい人の姿はにわかに消え、ヤナギの根元には、ひとえの着物がきちんとたたんであるのを見つけました。
ここから羽衣伝説かと思いきや、着物を船にひきこんだ若者は、さっき水の中でみかけた美しい人のことを思うと、恐ろしゅうなって、着物をもとにもどします。
この話は、だれとはなしにつたわっていました。
気の重い か助でしたが、「神さまにそなえる大きいコイをあげてくれ」といわれ、灯明淵のいちばん深そうなところに船をこぎ、投網をなげ、ころあいをみはからって網をひくと、水の中にひきこまれるかとおもえるような、つよい力がつたわってきました。
か助が、勇気を出して水の中にもぐり、ほらあなを潜り抜けると、かがやくような広場に出ました。そこには、まばゆいばかりの御殿がたっていました。
赤ひげのじじが、でっかいドチやナマズ、コイやフナ、川ガニや川エビをしたがえてかまえ、そのまん中に、うわさに聞いた美しい人がたっていました。
気の遠くなる思いの か助に、地上で聞きなれない響きの声がかかります。
「かえりたくば、かえしてあげる。ふたたびくることなかれ」。はっとわれにかえったか助は、水面におしあげられ、岸辺におよぎつきました。
それから、灯明淵には竜宮があるとうわさされ、ここで漁するものもいなくなったという。
灯明淵は沼でしょうか?。竜宮は海だけのものではなさそうです。