岐阜のむかし話/岐阜児童文学研究会編/日本標準/1978年
いまは囲炉裏がある家は古民家だけでしょうか。わかりやすいタイトルで、囲炉裏に捨てられた木の実が、化けて現れる話。
炭焼きをしていた とっつぁまとかっつぁまが遠い町にでかけて一人で留守番していたむすめが、炉端のそばの瓶の中の木の実をたべ、種や皮を囲炉裏に投げ込んでいるうちに、目の前の灰の上にごみの小山ができた。
親の帰りが遅く、むすめが囲炉裏のそばでねむって、ふと目をさますと あたりがザワザワ、ザワザワ騒々しくなって、囲炉裏の炉縁の上を 親指ほどのこびとがおおぜい列を作って動いていた。
真っ赤な陣羽織を着たもの、笠をかぶったもの、鉄の棒をジャラジャラしたもの、裃をつてたものなど。恐ろしくなったむすめが、大きい火ばしをにぎって、行列を、灰の中に叩き落したり、ひっかきまわしたりした。すると、とつぜん、人間の腕が一本、灰に中からにゅっとあらわれ、むすめの足を握りしめたので、むすめはその場で気を失ってしまう。
やがて親が帰ってきて、むすめのからだを揺り動かしたり、顔に水をふっかけしたりしているうちに、むすめは息をふきかえした。むすめが、さっき見たことをこわごわ話すと、とっつぁまとかっつぁまは、「囲炉裏に、木の実や、こわれた勝手道具をすてると、そいつが化けて出るということじゃが、やっぱり化けてでたのかな。」と、話をしながら囲炉裏の灰をかきおこすと、いつすてたんかわからん古い木の実の種がたくさんでてきて、それにまじって、真っ黒にこげた、めしのしゃもじも一本でてきたと。
とっつぁまとかっつぁは「囲炉裏は火の神さまのおいでなさるところ、いつもきれいにしておこうな」「炭焼きにとっては、火の神さまほどありがたい神はない」と、むすめに語って聞かせ、囲炉裏のすみからすみまで、きれいにそうじをしたという。
昔、囲炉裏は、家族のだんらんの中心で、昔話もこうした場所で語られてきました。