三重のむかし話/三重県小学校国語教育研究会編/日本標準/1977年
口が長い矢柄という魚は、秋になると、海面に顔を出しては、いい音色の笛をふくんだと。
あるとき、矢柄とトビ魚とイワシが集まって話をしていた。そのころのイワシは、「イワシのシ」という名前だったが、どうもよびにくい(ほんと!)というので、シをとって、イワシをとしたらどうかということになって、それいらいイワシとなったという。
イワシは、「矢柄は口が長くて、海面に顔をだすことができる、トビ魚は、海面をとぶことができる。おれもいちどは、海面に顔を出して、海の上を見たい」とくやしがり、矢柄に笛をふいて、イワシを集めてくれるようにたのみました。
わけをたずねられたイワシは、「なかまがあつまったら、いっぴきずつ上に乗っていったら海の上が見られる、一番上になったものから交替してみれば、イワシだって、あんたらのなかまいりができる。」といいました。
そこで矢柄が、プュー、プュー、プューとふくと、イワシが集まってきた。
ところが、ちょうど昼どきだったので、腹のすいていた矢柄とトビ魚は、集まってきたイワシをどもを、大きく口をあけて、つぎつぎに食べてしまった。それでイワシだけは、いまだに海の上を見ることができないという。
ところで矢柄(ヤガラ)には、いくつか種類があり、日本近海で漁獲されるのは主にアカヤガラとアオヤガラという。ヤガラは口が長いことから、フエフキと呼ばれることもあるといいます。高級魚で、これまでえんがありませんでした。