岩手のむかし話/岩手県小学校国語教育研究会編/日本標準/1976年
五助という男が、きくという妹といっしょに山の中に暮らしていたが、きくが遊びにいってから なかなか帰ってこない。つぎの日の朝はやく探しにいくと、きくの下駄が落ちていた。ようやく山のおくの、大きな岩のなかに、きくをさがしあてたが、そこにはおおきな山男がいて、「あざみ姫の首持ってきたら、きくをわたしてやる」という。山男には勝てそうもないと、家に帰ってきたが、山男がいう、あざみ姫の首が気になっていた。
何日かたって、ぼろぼろの着物のおじいさんが、「今晩ひと晩とめてけろ」という。食べ物などはいらないから泊めてくれといわれ、五助は、おじいさんを泊めることにした。五助が、いなくなったきくのことを話すと、おじいさんはあざみ姫のことを話し、いつのまにか姿を消してしまった。
五助は、これはきっと神さまが教えてくれたに違いないと、夜が明けると、東の方へ歩いて行った。すると、きれいな小鳥が鳴いている一軒の家に、ばあさんがいたので、おじいさんから教えてもらった「岩切丸」という刀を貸してくれるよう頼みこみ、刀を借りて、また東へいった。
沼のそばにあった切株にこしかけていると、神さまみたいなのが鏡みたいなものをもって沼からあがってきた。「かしてけれ」「かせねえ」「かしてけれ」とやりあって、鏡を借りた五助は、岩切丸と鏡をもって、あざみ姫のいるところへむかった。
ずんずんいくと、岩山のおくへ大きな御殿があって、そこらじゅうに大きな石ころがごろごろころがっていた。この石はあざみ姫ににらまれて、石になった人石だった。五助はあざみ姫ににらまれないよう、鏡を見ながら後ろ向きに歩いていくと、足までとどく髪をして、それはそれはぞっとするようなきれいなおひめさまが、鏡にうつって見える。そばにつかずくと、一本一本の髪の毛がヘビになって、赤い舌をだしながら、五助にかかってきた。五助は、きくのことを思い、腹決めて、あざみ姫の首へ、岩切丸をたたきつけると、首がおちて、真っ赤な血が流れ、湯気のようにもやもやになると、あたりは、真っ赤な霧が かかるようになった。そのうち、その霧は馬のようになり、ぴょんととびあがって、しばらくするとあたりは晴れて、そこらじゅうあかるくなってきて、その山一面きれいな花が咲いた。
御殿も人石も消えて、五助は馬といっしょに、あざみ姫の首をもって山男のところへいって、きくを家に連れて帰った。
山男がなぜあざみ姫の首がほしかったのかは全く出てこないほか、ぼろぼろの着物のおじいさが なぜあざみ姫のことをおしえてくれたかもでてきません。さらに岩も切るという岩切丸や、あざみ姫と直接目を合わせないための鏡もとつぜんでてくるなど、戸惑う部分もある話です。