インドの遺産相続のふたつの話。
・遺産(人になりそこねたロバ/インドの民話/タゴール瑛子:編訳/筑摩少年図書館/1982年)
インドらしい数のマジックの昔話。単なる勘違いではありません。思わず?。
三人の息子と十七頭のラクダに囲まれていた老人が、自分が亡くなったらラクダの半分は、長男が、次男は三分の一、三男は九分の一に分けるよう遺言を残して亡くなりました。
三人兄弟はとても仲良く、近所の評判も上々。ところが遺産分割となると、洋の東西をとわず紛争の種です。
十七頭のラクダの半分となると、どうしてもうまく分けられません。
長男は九頭をよこすようにいいますが、弟たちは不公平と文句を言います。それではと長男が八頭をとり、残りはお金に換えて分けようとしますが、こんどは長男がだまっていません。
一頭のラクダを殺して、父親の供養に親戚にふるまったらどうかという提案も納得されません。言い争いが続いているところにイスラム教の聖者がラクダに乗って通りかかりました。
聖者は、自分のラクダを差し上げるから、はじめから分けなおすようにいいました。
兄弟は、いったんは辞退しますが、どうしてもというので、もらったラクダの一頭を加え、全部で十八頭のラクダを遺言どうり分けることにしました。
長男は十八頭の半分で九頭。
次男は十八頭の三分の一で六頭。
三男は十八頭の九分の一で二頭。
(全部で十七頭!)
不思議なことに聖者のラクダだけが残ってしまいます。聖者はラクダにまたがって去っていきました。
・アッパージーの裁き(語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年)
もうすこしシンプルな遺産相続の話。
四人の兄弟が、17頭のゾウをわけることになって、それぞれ理由をならべて、ゾウをもらおうと話し合いがつづけられますが、どうしても決まりません。そこでアッパージーに決めてもらうことにします。
アッパージーは、17頭のゾウを一列にならべると、一番大きいゾウの背中にまたがり、のこりのゾウを、みんなでわけるようにいいます。四人はそれぞれ4頭づつのゾウを手に入れ、ここまでは文句がありません。
アッパージーは、「余計なゾウで、けんかになったら、このゾウは、不吉だ。このゾウをこのままにしておくと、おまえたちの身に何が起こるか、わかったもんじゃない。これを四人の名前で寺に寄進することにしよう。おまえたちの名もあがり、喧嘩もなくなる。そのうえ、功徳が得られるとなれば、これにこしたことはなかろう」と、ゾウに乗って立ち去ります。
昔話では、遺産相続の仕方も明快です。