どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ちいさなたいこ

2022年05月16日 | 創作(日本)

    ちいさなたいこ/松岡享子・作 秋野不矩・絵/福音館書店/2011年(初出1974年)

 

 初出が1974年で、子どもころ読まれた方もおおいようです。昔話風ですが、松岡さんの創作のようです。

 心の優しい百姓のおじいさんとおばあさんがでてくるのですが、気持ちがほっとする優しい物語です。

 おじいさんとおばあさんが育てていたかぼちゃの中に、ひときわおおきなかぼちゃがありました。
 ある日、二人が寝ようとしていると、「ぴいひゃら どんどん」「ぴいしゃらら」と、楽しそうな祭りばやしが聞こえてきました。その祭りばやしが毎晩つづき、不思議に思ったふたりが、ある晩、床を抜け出し外へ出てみました。音はどうやら、みごとなかぼちゃの中から聞こえてきます。
 あくる日、そのかぼちゃを もいで 枕元においてみると、やはり、お囃子がきこえてきました。顔をそっとちかずけて見ると、そこには、太鼓を打つ男や笛を吹く男がいて、三十人余りが輪になって踊っていました。

 それからというもの、ふたりは、このお囃子を聞き、踊りを見るのが何よりの楽しみになりました。ところがある晩、いつもの時刻になっても、お囃子が聞こえません。中をのぞいてみると、太鼓打ちの男が腕組みをし、その傍らには破れた太鼓がありました。

 聞きなれた音を聞かないと、なかなか寝つかれなくなったふたりは、新しい太鼓をつくることにしました。細い竹、どんぐり、しぶを塗った薄い紙で、一日中かかって、やっと、ちいさい太鼓を作ると、おはしで、かぼちゃの穴からそっと、なかへ いれました。すると、太鼓打ちが 試し打ちし 調子がわかると、いつものお囃子の太鼓が はじまりました。

 つぎの晩、穴のふちに、なにか米粒のようなお団子がおいてありました。ふたりが そのちいさなお団子を じょうずにつまんで、口に入れると・・・。

 

 おじいさん、おばあさんが、小さな太鼓をつくる手の動きの絵が 素敵です。


死んだかいぞく

2022年05月15日 | 絵本(日本)

     死んだかいぞく/下田昌克/ポプラ社/2020年

 
 よっぱらった海賊が船の上で、腹を刺され、ゆっくり海に沈んでいく。死んだ海賊は、意識はあるが、からだは自分の思う通りにならない。
 
 「死んでいるならいらないだろう」と、サメは帽子を、しわしわの魚は歯を、小さな魚は爪を、アンコウは目ん玉を、たこは髪の毛を、そしてたくさんの魚に食べられ、海賊は、骨だけに。
 
 生きている間は、大勢の人間を殺め、ほしいものはすべて手に入れただろう海賊が、次々に奪われる側へ。
 
 「ぜったいにやらんぞ」「ちくしょう」から「おれさまは ほんとうに 死んでしまったようだから、もう、なんにも いらないか」 「このまま ここで うみを ながめながら すごすのも いいかもしれないな」と、自分の死を受け入れる心境の変化。
 
 
 「幸福の王子」は、天国にいくが、海賊はサンゴに生まれ変わる。
 沈んでいくうちに、海の色が微妙に変化。骸骨は笑っているようだ。
 
 剣を刺されながら海の底に沈んでいく海賊にぎょっとし、「オレは おまえみたいな まずそうなのは くわないよ」「わしゃ としを とっちまって、おまえなんて たべられないよ」と、おちょくるのに、にやにやしていると だんだんと死を諦観するようすに、これは大人の世界か?と気づかされる。
 
 もし死んでも意識があると考えると、生きているあいだを どう過ごすかと 問いかけられているのかも。

りゅうぐうのおよめさん

2022年05月14日 | 絵本(昔話・日本)

    りゅうぐうのおよめさん/文・松谷みよ子 絵・朝倉摂/ポプラ社/1967年

 

 母親と二人暮らしの若者は、山の花をとってきては売りにいって暮らしを立てていましたが、その花も売れない日の方がおおかった。

 ある日、海辺をとおりかかったとき、残った花を、竜神様へさしあげようと、海に投げ入れると、海があわだち、うずまいて そこからいっぴきの亀が顔をだしました。

 そのまま竜宮にいった若者は、竜神様からもてなしをうけ、三日間すごしますが、母親が心配しているだろうと 帰ることに。すると 竜神様から「好きなものを みやげにあげよう。なにがほしいか」といわれ、亀の助言通り、竜神様の娘を およめさんにもらい、はるばると 帰ってきました。

 帰ってみれば、三年の月日がたっていて、母親が食べるものもなくなって、石に倒れて死んでいました。しかし、およめさんが竜宮からもってきた宝物”いきむち”で、ひとなですると、母親は生き返ります。そして、”うっちんこづち”で、家、倉、米をだし、親子三人仲良く暮らしました。

 ところが、うつくしいおよめさんの評判をききつけた殿さまが、我が妻にしたいものだと、若者をお城に呼び出し、「千石の米を用意できないときは、おまえの妻をとりあげるぞ」といいます。これだけではありません。千石のお米を用意した若者に、”ちひろの なわ”を差し出せといいます。お米も”ちひろのなわ”も、およめさんが、海辺にむかって、たんたんと手をたたいて手に入れます。

 さらに、「こんどの正月に、699人の家来を連れて、お前の妻を見にいく。酒を99壺用意して、ごちそうを つくって まっておれ」といわれ、そのとおりにします。

 踊り子の舞を見た殿さまは、こんどは こまかなところをみせるように いいますが、およめさんは すわりなおして こまかい芸は あぶないと いますが、とのさまが どうしてもだせ というので、小さい箱をとりだし、さっとふたをとると、でてきたのは・・・。

 

 テンポよくすすんでいきますが、若者の存在感が希薄です。およめさんが、殿さまの無理難題を簡単に解決する痛快さが持ち味でしょうが、あっけなさすぎて、ものたりなさがのこります。

 奄美群島喜界島の話をもとにしたとあります。


大人のためのおはなし会・・坂戸

2022年05月13日 | お話し会

 坂戸図書館での”おはなし山”のおはなし会。

 

2022.5.13

 あいにくの雨。検温と人数制限した21回目のおはなし会でした。

 1 百姓のおかみさんとトラ(子どもに語るアジアの昔話2 こぐま社)
 2 七人さきのおやじさま(世界のむかしばなし のら書房)
 3 小さいお嬢様のバラ(ムギと王さま 岩波書店)
 4 聡のひとりごち(倉本聡のエッセイから)
 5 すてご鳥(ホレおばさん 子ども文庫の会)
 6 ねずみのお見合い(女むかし 君川みちこ再話集)
 7 かしこいモリー(おはなしのろうそく1 東京子ども図書館)

 久しぶりに他の地域のおはなし会に参加できて、楽しいひと時でした。

 「聡のひとりごち」は「雨ニモマケズ」のパロディ版。おもわず笑いました。

 「ねずみのお見合い」のオチは、わかっていても楽しい。

 時間があったので図書館の児童コーナをのぞいたら、たっぷりしたスペースを利用した紙芝居のコーナーが利用しやしそうでした。
 

2018.3.10
 あいにくの雨でしたが、19回目のおはなし会でした。

 1 おもしろい犬の話(福岡のはなし)
 2 里の春 山の春(童話 新潮社)
 3 鳥呑爺(日本昔話百選 三省堂)
 4 春の野路から(日本の昔話 角川学芸出版)
 5 ねずみの見合い(君川みち子 再話集)
 6 屁っぴり嫁ご(日本の昔話(いばらき)未来社)
 7 きんぷくりん(かたれやまんば5 藤田浩子の語りを聞く会)
 8 世界で一番やかましい音(おはなしのろうそく10 東京子ども図書館)
 9 ものいうたまご(アメリカの昔話 偕成社文庫)
 10 妖精の丘が燃えている(アイルランドの昔話 こぐま社)

 おはなし会は定期的に開かれているのが多いので、一度チエックしておくと、探しやすいようです。
 大勢の方に聞いてもらうためには土曜、日曜開催のほうがいいと思いますが「大人の・・」とめいうつと平日の午前中が多いというのは、語り手が女性の方が圧倒的というのと関係しているのでしょうか。


2017.3.10
 1 いちばんどりないた(言葉あそび)
 2 若返りの水(子どもに語る日本の昔話3 こぐま社)
 3 親捨山(日本昔話百選 三省堂)
 4 青葉の笛(ポプラ社)
 5 はーそのとおり(かたれやまんば1 藤田浩子の語りを聞く会)
 6 花のかぞえうた(言葉あそび)
 7 くぎスープ(世界のむかしばなし のら書店)
 8 かしこいグレーテル(子どもに語るグリムの昔話2 こぐま社)
 9 霧の中の古城(12の怖い話 長崎出版)
 10 ふしぎなオルガン(岩波少年文庫)

 言葉あそびには、あじがある絵も。絵心のある方がかいたのでしょうか。

 「青葉の笛」「霧の中の古城」は、はじめて聞きました。源平一ノ谷合戦が舞台。目が不自由な方の語りですが、思わず引き込まれました。
 源氏の熊谷次郎直実が息子と手がらをたてようと勇んででかけ、明日は決戦という夜、平氏の陣から美しい笛の音がきこえてくるという出だしです。
 調べてみたらあまんきみこさんの作品でした。
 霧の中の古城は、アーサー王の伝説。深い霧につつまれた森の雰囲気に圧倒されました。
 「親捨山」は、男性の方。男性の方のはあまり聞くことがないので、貴重な機会になりました。

  いつも思うのはグループによって、お話の選び方にそれぞれ特徴があるということ。聞く機会があったならこまめに足を運ぶと勉強になります。

 

2015.6.15

 大人というのではありませんが、幼児15あまりとお母さんたちが参加されていたおはなし会。

 1 そらまめとわらとすみ(お話)
 2 だんごむしのころちゃん(紙芝居)
   (手遊び)
 3 三びきのくま(お話)
 4 ひよこちゃんがこんなになっちゃった(パネルシアター)

 あっという間の時間でした。

  不特定多数を対象にするとプログラムの構成に頭を悩ませることになりそうですが、参加者は幼児が多いのを想定されたようで、いろいろ工夫されていました。

 「三びきのくま」の話は10分以上かかりましたが、子どもたちがよく聞いていました。


チトくんと にぎやかな いちば

2022年05月13日 | 絵本(外国)

    チトくんと にぎやかな いちば/アティヌーケ・文 アンジェラ・ブルックスバンク・絵 さくまゆみこ・訳/徳間書店/2018年

 

 チトくんがお母さんの背中におんぶされて市場にやってきました。市場は、子どもたちが店番したり、あかちゃんをだっこする人がいたり。

 きょろきょろするチトにバナナうりのアデさんがバナナを6本

 暑くなってきて、オレンジうりのフェミさんが、汁気たっぷりのオレンジを5個

 おかしうりのモモさんが、おかしを4個

 はしゃぐチトに、トウモロコシうりのクンレさんが、やきトウモロコシを3本

 しょんぼりするチトに、ココナツうりのテレさんが、ココナツを2つ。

 これ、みんな チトが もらったもの。

 チトくんはもらったものを1つずつ食べて、残りはお母さんの頭の上の籠にいれていきます。

 しかし、お買い物に夢中のお母さんは、ちっとも きづきません。

 頭の上のかごには、お母さんが買ったお米やヤシ油、トウガラシ、サンダルもはいって、だんだん重くなっていきます。かごを、したにおろしたお母さんは、買っていないものが、はいっていてびっくり。「それは みんな ぼうやに あげたんですよ!」という、みんなの声で、もらったものを チトが そのまま ぜんぶ かごに のせてくれたと思ったお母さんはにっこり。

 もらったものを一つづつ食べたチトくんは、おなかいっぱい。でも気がつかないお母さんは「チトはお腹がぺこぺこなはず」と心配しながら、バイクタクシー(車でなくバイクです!)にのりこみます。

 バナナや油、魚など、たくさんの荷物を頭にのせた女性がいて、暮らしがいきづいている市場。市場のみんなのやさしさに、心があたたかくなります。

 絵もカラフルで、市場のにぎやかさが伝わってきます。頭に乗せた籠のバランスがうまくとれるものだと感心。

 舞台はナイジェリアですが、市場の主役が女性と子どもというのもかわらないのでしょうか。


散歩で迷子?

2022年05月12日 | 日記

 同じ道の散歩では、代わり映えがないので、これまでと違った道に入り込み、自分では目的地まで歩いていたつもりが、いけどもいけども山の中。道路を車は通りますが、歩いている人はゼロ。3キロほどあるいた時点で、工場を発見し、道を聞いてみたら逆方向に入り込んだ様子。もどって信号のそばに、コンビニがあるからといわれ、歩き出すと信号もなかなか見つからない。

 今なら携帯ですぐ方向を確認できるが、もっているのがガラケーとあって携帯も役に立たず、隣町の表示にきがつき、見つかった工場で聞く羽目になった。

 ようやく小学生の姿があったので、どこの小学校に通学しているか聞いて、とんでもないところを歩いていたことに気がつき、ようやく帰り道が判明。

 一万歩で一時間三十分の散歩でした。


まよなかのおはなみ

2022年05月12日 | 絵本(日本)

    まよなかのおはなみ/星野はしる・作 菅野由貴子・絵/福音館書店/2006年

 

 満月の夜、お父さんと散歩していると、どしんどしんと 電信柱がおいこしていきました。一軒の前で立ち止まると、ずずっ ずずずずっと やってきたのは灯籠。

 大通で 倒れていたポストを たすけおこすと 「お花見にいきたくて」と、赤い顔をもっと赤くして いいました。

 ぼくと、お父さん、電信柱、灯篭、ポストに神社の狛犬が くわわり、満開の桜の木のそばにいくと、遮断機、薬屋のゾウ、稲荷神社のキツネ、公衆電話。

 いつもは、町の中で、じっとしているものたちの 年に一度のお花見でした。

 土の中から、古びた瓶を 掘りだすと、その中には 甘い匂いの花びら漬けが。花びらをたべ、歌って踊った後は、来年の準備です。

 桜のはなびらを、瓶のなかにいれ、塩、酒、はちみつ、氷砂糖、ラムネを 一つ入れ、次の年までまつと、おいしい「花びら漬」の完成です。

 

 電信柱が出てくるところは宮沢賢治風? 夜の花見には、なにか不思議なことがおこるのかも。

 「けっこう」「うまい!」「にっぽんいちー」と「花びら漬」のなんとおいしそうな感じです。


あるひ あるとき

2022年05月11日 | あまんきみこ

    あるひ あるとき/あまんきみこ・文 ささめやゆき・絵/のら書店/2020年

 

 近所の子、ユリちゃんが、遊んでいたこけしを ずらりねかせ ねむっている姿をみながら、おさないころ かわいがっていた こけしの「ハッコちゃん」のことを 思いだした”わたし”。

 ”わたし”は、あまんさんのことでしょうか。

 遊ぶのも、眠るのも一緒、防空壕にも こけしのハッコちゃんと いっしょ。

 終戦をむかえたのは大連の地。大連の冬は、零下10度まで下がる日も。

 敗戦の日からニ度目の冬。両親は家のものを 毎日のように、売りにいって、売れ残ったものを整理しながら、ダルマストーブで、燃やしていました。机、いす、たんす、たな 琴などが、たきぎになり、本とともに 燃やしていました。

 ”わたし”の市松さんや セイヨー人形は、おひなさまは 売れましたが、泣き顔の ハッコちゃんは いつまでも いっしょでした。

 しかし、引き揚げの三日前、「ハッコちゃんは、つれていけない」と、母からいわれ、明日出発という日、ハッコちゃんは、とうとう ストーブのなかへ。

 

 戦争の悲惨さは でてきませんが 幼いころ大事にしていた こけしの記憶です。

 最後のページには、さまざまな表情の こけしが30個。これは、子どもと生きていた こけしです。

 ささめやさんの素朴な感じの絵が、子どもの気持ちを代弁しているようでした。

 

 いまのウクライナの子どもたちと重なります。戦争は弱いもの、子どもたちが最大の被害者です。子どもたちが なにがあっても 生きのびることを祈りたい。


ぶたたぬききつねねこ

2022年05月10日 | 絵本(日本)

     ぶたたぬききつねねこ/馬場のぼる/こぐま社/1978年

 

題名から想像されるように、しりとりあそびの絵本です。

馬場さんのほのぼのした絵で、「おひさま」からはじまり、「くりすます」まで41回つながっていきます。

絵のストリー性も。「こっく」さんのあと「くし」がでてきて、くしの肉をみて「しちめんちょう」がびっくり。

「りんご」のあとは「ごりら」ですが、ごりらは、りんごのなかから登場です。

ちょっと時間があるとき、簡単に楽しめるのが、しりとり遊び。かけあいながら脱線するのもOKでしょう。

ものの名前の認識で、楽しみ方がちがいます。長く続けば続くほど、認識の幅がどれほど広がっているのかも確認できそう。

 


もじあそび

2022年05月10日 | 絵本(日本)

     もじあそび/安野光雅/福音館書店/1993年新装版

 

 絵から名前をあてたり、五十音表を、たて、よこ、ななめ、さかさま に読んで物の名前をさがし、さらには 文字の組み合わせの数から、クロスワードパズルまで。

 絵から名前をあてるところでは、文字数の表示に工夫があります。

 クロスワードパズルでは、絵から升目を埋めていきます。

 二つのもじでは、二つの言葉、三つのもじでは6とおり、4つの文字では、96とおり、5つのもじでは120とおりと、増え方にびっくり。

 楽しめながら見て行けますが、ちょっと 対象年齢が高いかも。親の方が 引き込まれそう。


きみはたいせつ

2022年05月09日 | 絵本(外国)

    きみはたいせつ/クリスチャン・ロビンソン・作 横山和江・訳/BL出版/2021年

 

 貼り絵の直線が生かされた味わいの深い絵です。

 宇宙からみると人間は、とても小さな小さな見えないほどの存在。しかし顕微鏡で見えるものからは、とてつもなく巨大な存在。そんな人間に 「どんなに ちいさくても どんなに とおくにいても きみは たいせつだよ」と やさしく 語りかけます。

 「きづかれないほど、ちいさないきもの」は、顕微鏡から、地中から

 「やっかいものだと、おもわれるとき」は、恐竜の世界

 「とおくはなれていても」は、宇宙船から

 「ひとりぼっちで、たまらなく さびしいとき」は、街の雑踏

 など、場所も時間も、舞台はさまざま。

 どんなときでも、「きみは たいせつだよ。ひとりじゃない」という言葉が、誰かをはげましてくれるのを願わずにいられません。


天狗のかくれみの、天狗のうちわ

2022年05月08日 | 昔話(日本)

天狗も人に騙され、ふんだりけったりの存在。

<天狗の隠れ蓑編>

・天狗の隠れ蓑(定本日本の民話12 佐渡の民話/浜口一夫編/未来社/1999年初版)

 外国の昔話にはみられない天狗。中国の昔話には出てきてもおかしくなさそうだが、あまりお目にかからない。もっとも中国の昔話といっても日本で読むことのできるものは、ごくごく少数ということがあるのかも知れない。

 天狗がもつという隠れ蓑。この隠れ蓑をうまく手に入れるというのも、いろいろなものがあるが、佐渡版では盛りだくさんの要素が入っていて、落語にあっても(もしかしたらあるかも・・・)もおかしくない。

 男が天狗の隠れ蓑をうまく手に入れるが、あとで押しかけられるのを見越して、何がこわいか話し合う、男はまんじゅうがこわいという。
 男がいう遠眼鏡がインチキだったのに はらをたてた天狗が、男を怖がらせようと家にまんじゅうを投げ込む。まんじゅうをはら一杯食べた男が、死んだふりをすると、それをみた天狗は山にかえっていく。

 佐渡版は、ここで終わらない。

 隠れ蓑をきて、酒屋の酒蔵に潜り込んで、たらふく酒を飲んだ男は、ねむくなって横になる。その拍子に隠れ笠が頭からすっぽりはずれる。酒屋の小僧が酒蔵にはいってみると、酒樽のそばには、赤ら顔の生首がごろり。
おどろいた酒屋のおやじが、生首を始末したものに、5両だすというが、誰もこわがって手をだそうとしない。

 男がこの話を聞いていて、5両だしてくれると一人ででていくというと、おやじが5両を投げ出す。男はそのお金をもって酒蔵をでていくという結末。

 伝承者の方が、複数の話を、うまく組み合わせたものでしょうか。

・てんぐのかくれみの(岐阜のむかし話/岐阜県児童文学研究会編/日本標準/1978年)

 どえらい酒飲みが、天狗のうちわと隠れ蓑を手に入れ、ただ酒をのむが、おかあが、蓑を燃やしてしまう。男が灰を体に塗ったら体が隠れ、また酒を飲み放題。ところが寝小便で体が現れ、追い回されるはめに。

 男が天狗をだますセリフ。男の本性?

 「うわ、こりゃきれいなむすめがみえる」「江戸城にゃそりゃあ どえらいべっぴんな女子しゅがおおぜいいる」

 うちわは千里をいっきにとべるので、あっというまに 天狗から逃げてしまう。

・足の化けもの(長野のむかし話/長野県国語教育学会編/日本標準/1976年)

 むかし、遊んでばかりいた男が、近くの神社の庭で竹筒をみながらサイコロをころがし、大坂が見える、京も見えるとほらをふいて、天狗の隠し蓑と隠れ傘を手に入れます。天狗がサイコロや竹筒をのぞいても何も見えないので男のところへいくと、男は天狗の一番きらいなサイカチのやぶの中にいるのでちかずけません。

 男が隠し蓑と隠れ傘をつけると姿がみえなくなるので大喜び。男は隠し蓑と隠れ傘をタンスの中にしまい、こっそり出しちゃ ニタニタ笑って喜んでいましたが、男が遊びにいったとき、かかあが、きたないからと隠し蓑と隠れ傘を燃やしてしまいます。

 帰ってきた男が、泣きべそをかいて、灰をかき集めると、不思議なことに灰がついたところが、見えなくなってしまいます。「こりゃ、たまげた。おもしれえな」と、体中に灰をぬってみると、男が見えなくなってしまいます。男は、体が見えないことをいいことに酒屋で酒を飲んだり、飯屋でごちそうを食ったりとやり放題。

 家に帰る途中、道端でしょんべんして、酒蔵に入り込んで、眠ってしまいます。

 酒屋の小僧さんが、酒をだそうとやってくると、酒樽のうえで足の化け物がいびきをかいて寝ているのでびっくり。みんなが大声でわめきちらします。

 しょんべんしたとき、足のあたりにひっかけて足が見えていたのです。

 酒屋では、足の化け物がつかまらなく、大騒ぎ。そこへ男のかかあが、人払いし男を逃がします。化け物が消えてよろこんだ酒屋は、かかあに お礼に しこたま銭をやります。

 姿が見えなくなったら、やり放題かと思うと、男はやや控え目。この事件以降、男がよく働くようになったという最後は、語り手のねがいでしょうか。

 

<てんぐのうちわ編>

・てんぐのうちわ(奈良のむかし話/奈良のむかし話研究会/日本標準/1977年)

 一人の男がサイコロを転がしながら「こりゃ、面白いわい、京都が見える。大阪が見える」と、独り言を言っていると、高い岩の上にいた天狗が、男のところに近づいてきて、団扇を取り出し、サイコロとかえようといいます。男が天狗に、何が一番恐ろしいかと聞くと、タラの木が一番怖いといい、逆に天狗が、男の怖いものは、と聞くと、男は「あんころもち」と答えます。

 天狗はすぐにだまされたことに気がつきますが、男はタラの木の林に入り込んでかくれてしまいます。天狗は、男が怖いというあんころもちを どんどん投げ込みますが、男はよろこんでもちをとって食べます。天狗は、地団太ふんで残念がりますが、とうとうあきらめてどこかへいってしまいます。

 男は、あまいおもちをどっさり食べたので、のどが渇きます。そこで天狗にもらった団扇をあおぎながら「水をくれ、水をくれ」というと、目の前に、お茶碗一杯の水がでてきました。つぎに「お金出ろ、お金出ろ」というと、こんどはザラザラお金が出てきます。

 うれしくなった男は、女の人の鼻をのばしたりして、喜んでいました。自分の鼻でためしてみると、鼻はみるみるうちに高くなっていきます。調子に乗って天狗の団扇をあおぎつづけると、雲をとおりこし、天までのびてしまいます。天上では神さまが橋を架けていて、そこへ、へんなものがにょきにょきのびあがってきたので、橋げたにその鼻を打ち付けました。急に鼻の先がいとうなったので、男はびっくりぎょうてん。

 「おれの鼻、低くなれ、低くなれ」と、いっしょうけんめい、団扇をあおぐと、鼻が短くなるにつれて、からだが、すこしづつ上へ上へとあがっていきます。男が「助けてくれ!助けてくれ!」と、大声で悲鳴をあげると、天上の神さまたちは、「切り落とせ!」と、鼻の真ん中を刃物で打ち切ったので、男は、天からまっさかさまに落ちて、とうとう死んでしまいます。

 この男、天狗の団扇を、人を騙すのに使わないのが救い。自業自得の結末。

 

・生き針・死に針(茨城のむかし話/茨城民俗学会編/日本標準/1975年)

 タイトルだけは想像できませんが、天狗の団扇を手に入れ、団扇をかえすかわりに生き針と死に針を手に入れた男の話。

 病人に生き針を打ってやって病人を助けていた三郎のところへ婿話が持ち込まれます。三郎は笑っていて聞こうともしませんでしたが、なんどもなんども頼まれて、二軒のうちへ婿になることに。さいわいなことに二軒は庭続きなので、二階の屋根から屋根へ、梯子をかけて行ったり来たりしていました。ところが、ある朝、三郎は、梯子を渡ろうとして、ねぼけて 梯子を踏み外して・・・。

 この話には前段があります。

 三郎は三人兄弟の末っ子。元旦の夜、初夢を見たら、その夢の話をすることを約束した兄弟。上の二人は、初夢を話しますが、三郎はだまって話そうともしません。約束が違うと、三郎は、村はずれにあるお宮の一番太い松の木に縛られてしまいます。そこに天狗があらわれます。

 しばれていた縄をといてもらいながら、天狗のすきをみて団扇をとってしまった三郎は、生き針と死に針とひきかえに、団扇を天狗にかえします。

 死に針の出番があってもおかしくありませんが、使われる場面はありません。そして夢の話にふさわしい結末です。


あまがえるのぼうけん

2022年05月07日 | 絵本(日本)

    あまがえるのぼうけん/作・たてのひろし 絵・かわしまはるこ/世界文化社/2021年

 

 あまがえるのラッタ、チモ、アルノ―は遠くの森にいってみることに。

 まずは小さな虫をぱくぱく食べて腹ごしらえ。

 葉っぱをかぶり、おおはしゃぎ。

 大きな木に虫がいっぱいいて 蜜をすっていました。そこへ おおきなすずめばちが わりこんでくると 虫たちの 大喧嘩がはじまりました。

 地面に降りると、やぶきりが とびかかってきました。そのとき、大きなヒキガエルが やぶきりを まるのみし さらに アルノーが 食べられそうになります。ぎりぎりで逃げおえた三匹。

 木に登ると、目の前には 見事な夕焼け。お腹がすいて、蜜ができてる木で 小さな虫をたべていると こんどは あおばずくが・・。

 あおばずくからも逃げおえ くたくたの三匹は、木のうろを見つけて もぐりこみ 深い眠りに おちていきました。

 

 かえるが 小さな虫をたべ、そのかえるを ねらう 生き物がいて 自然の中で生きていくのは あるいみ冒険の連続。

 梅雨の便りが聞こえてきますが、この時期に読みたい絵本です。かえると水は切り離せないと思っていたら、畑に小さなかえるが いたりして どこからと疑問がわきました。かえるはどのくらいの距離を移動するのか知りたいところ。

 ラッタ、チモ、アルノーの性格が いまひとつなのが 残念。ただ、おおきく描かれたリアルな木、ひきがえる、あおばずくが 圧巻です。

 「生きるために逃げたり、隠れたりすることは卑怯でも臆病でもない」というメッセージも明快です。


サクラ はる なつ あき ふゆ

2022年05月06日 | 絵本(自然)

    サクラ はる なつ あき ふゆ/おくやまひさし/ほるぷ出版/2022年

 

 当地では桜が散って、いまは緑がいっぱい。

 手で描かれたという満開の桜、枝、葉、根のひとつひとつが桜の魅力を伝えてくれます。

 ともすれば花の咲く時期だけが注目されますが、一年を通じると、別の顔をもっています。

 11月の後半から枝には冬芽が 花の準備。この時期の小さな虫たち。

 枝には長枝、短枝という区別があること、葉を食べる幼虫、根から汁をすって育つセミについてなど。

 キノコは幹の中へ菌糸をのばして、やがて木をくさらせること、そしてコケも木全体をつつむと、木を枯らしてしまうというので、散歩の途中のヨメイヨシノを見てみました。何十年かたっていそうですが、コケが生えていました。

 花が散ってから、サクランボのような実がつくというので、陽光桜をみたら、たしかに実がなっていました。残念ながら、近くのヨメイヨシノの実は確認できませんでした。

陽光桜の実


いぬと ねこの おんがえし

2022年05月05日 | 絵本(昔話・日本)

     いぬと ねこの おんがえし/日本民話 太田大八・絵/鈴木出版/2002年

 

 ある長者の家にいた いぬとねこは、のんびりと すごしていました。

 ある日、長者の家で働いていた男が、長者が大金持ちなのは、毎日蔵のなかの仏像に手をあわせているおかげだと思い、仏像を盗んで 逃げていきました。

 仏像が盗まれてから、長者は何をしても失敗ばかり。だんだん貧乏になり、田も畑も手放し、残ったのは、いぬとねこだけになりました。

 「どこかで いい人に かわれて 仲良く暮らしておくれ」といわれたいぬとねこは、とぼとぼと家を出ていきます。

 二匹は、歩きながら相談しました。長者が貧乏になったのは、仏像を盗れたからにちがいない、おれたちで とろかえそうと、野をこえ、山をこえ、大きな川もわたって、とうとう男の家にたどりつきます。男は仏像のおかげで 大金持ちになっていました。

 ねこが、その目で仏像が置いてある蔵をみつけ、長者のところにいたねずみの協力で、仏像を取り返した二匹。

 とちゅう大きな川をわたるとき、いぬの背にねこがのり、ねこが仏像をくわえて 大きな川をわたりました。ところが大きなさかなが ジャポンとはねるのにおどろいたねこが 口をあけてしまい、仏像は川の中へ。しかし、そこへ長者のところによくきていた鶴のたすけで仏像を探し、二匹は、長者のもとへ。

 仏像が戻った長者は、また大金持ちにもどります。


 昔話絵本といえば太田大八さんや赤羽末吉さんです。だれの再話かを表示するのが普通ですが、この絵本では日本民話としています。再話とするほどでもなかったのかも。

 類似の話では、仏像がうろこ玉というのが多いでしょうか。取り戻す流れも もう少し長めです。