(患者を生きる:3207)感染症 インフルエンザ脳症:2 3週間ぶり「マー、マー」
臨床 2016年12月27日 (火)配信朝日新聞
5歳の時にインフルエンザ脳症になった川端はるなさん(12)は2009年11月、富山市の総合病院から富山大学病院に転院した。
インフルエンザ検査、MRIによる脳撮影、脳波検査が立て続けにあった。主治医の種市尋宙(たねいちひろみち)さん(43)は結果に目を通した。前の病院で始めたステロイドの大量投与が功を奏したのか、脳の腫れは少し改善していた。一方、たんなどが詰まり、右肺の一部に空気が入らない状態になっていた。
「ステロイド治療をあと1日続けて、脳の腫れを抑えます。普通はこれで徐々に意識が戻ってきますが、状況次第で別の治療もする場合があります。同時に抗菌剤で肺炎を防ぎましょう」
丁寧に説明する種市さんの話を聞きながら、父貴志(たかし)さん(43)は「ここでなら治るかもしれない」と先が少し見えてきた気がした。
だが、意識はなかなか戻らなかった。「ママの声、わかる?」と母ちあきさん(42)が声をかけても反応はない。ちあきさんは「絶対に治ると信じる」と看病記録のノートに書き、焦る気持ちを落ち着かせようとした。
意識が戻るきっかけになればと、お気に入りのテレビ番組の曲のCDや、「早く元気になって」と幼稚園の友達が吹き込んでくれたテープをベッドの脇で聞かせた。テープは、毎日見舞いに来た園長先生が、持って来てくれた。
転院10日目から、甲状腺刺激ホルモンの分泌を調整するホルモン(TRH)を腕から点滴し始めた。甲状腺機能障害の治療薬だが、脳の血流を増やす作用があり、意識障害の治療にも使われていた。「意識が戻るのを待つこともできるが、積極的に治療しよう」と種市さんは考えた。
TRHの投与開始の翌日、はるなさんは笑ったり泣いたりするようになった。投与6日目、理学療法士が呼びかけると、ベッド上で手足をそろりと動かした。8日目には車椅子に乗り、11日目には手すりを支えに、ゆっくり歩けた。「赤ちゃんから今までの成長を、早回しで見ているよう」とちあきさんは思った。
12月2日。「マー、マー」。はるなさんが、ちあきさんを呼んだ。3週間ぶりの声だった。(錦光山雅子)
■ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comへお寄せください。
臨床 2016年12月27日 (火)配信朝日新聞
5歳の時にインフルエンザ脳症になった川端はるなさん(12)は2009年11月、富山市の総合病院から富山大学病院に転院した。
インフルエンザ検査、MRIによる脳撮影、脳波検査が立て続けにあった。主治医の種市尋宙(たねいちひろみち)さん(43)は結果に目を通した。前の病院で始めたステロイドの大量投与が功を奏したのか、脳の腫れは少し改善していた。一方、たんなどが詰まり、右肺の一部に空気が入らない状態になっていた。
「ステロイド治療をあと1日続けて、脳の腫れを抑えます。普通はこれで徐々に意識が戻ってきますが、状況次第で別の治療もする場合があります。同時に抗菌剤で肺炎を防ぎましょう」
丁寧に説明する種市さんの話を聞きながら、父貴志(たかし)さん(43)は「ここでなら治るかもしれない」と先が少し見えてきた気がした。
だが、意識はなかなか戻らなかった。「ママの声、わかる?」と母ちあきさん(42)が声をかけても反応はない。ちあきさんは「絶対に治ると信じる」と看病記録のノートに書き、焦る気持ちを落ち着かせようとした。
意識が戻るきっかけになればと、お気に入りのテレビ番組の曲のCDや、「早く元気になって」と幼稚園の友達が吹き込んでくれたテープをベッドの脇で聞かせた。テープは、毎日見舞いに来た園長先生が、持って来てくれた。
転院10日目から、甲状腺刺激ホルモンの分泌を調整するホルモン(TRH)を腕から点滴し始めた。甲状腺機能障害の治療薬だが、脳の血流を増やす作用があり、意識障害の治療にも使われていた。「意識が戻るのを待つこともできるが、積極的に治療しよう」と種市さんは考えた。
TRHの投与開始の翌日、はるなさんは笑ったり泣いたりするようになった。投与6日目、理学療法士が呼びかけると、ベッド上で手足をそろりと動かした。8日目には車椅子に乗り、11日目には手すりを支えに、ゆっくり歩けた。「赤ちゃんから今までの成長を、早回しで見ているよう」とちあきさんは思った。
12月2日。「マー、マー」。はるなさんが、ちあきさんを呼んだ。3週間ぶりの声だった。(錦光山雅子)
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