踏み間違い 手足の感覚異常一因か 高齢者の事故 新潟の医師が問題提起
2019年6月18日 (火)配信新潟日報
ブレーキとアクセルを踏み間違う事故が後を絶たない。こうした事故の裏に、神経障害が隠れているのではないかと新潟県内の医師が問題提起している。加齢などが要因で変形した関節などが神経に障り、手足の位置感覚に異常を来す「頸椎(けいつい)症性脊髄症」だ。高齢ドライバーによる加害事故が相次ぐ中、医師は「認知症ばかりが原因ではないのでは」と指摘。体の変化を自覚すれば減らせる事故もあるとして、啓発や運動機能検査の充実を呼び掛けている。
問題提起しているのは、脊椎外科の医学博士で亀田第一病院=新潟市江南区=の本間隆夫医師(72)。頸椎症性脊髄症で手足の感覚障害などを訴える患者を治療しているが、報道で伝わる高齢者事故をみていると、「神経障害が疑われるケースが多いと感じる」という。
頸椎症性脊髄症は、背骨の間の「脊柱管」を通る神経が、変形した関節などから圧迫され伝導障害を起こす。脊柱管には脊髄液が流れ、関節や背骨と神経の接触を防いでいるが、生まれつき脊柱管が細い人は圧迫を受けやすく、障害を起こしやすい。
障害では、皮膚が持つ触覚、痛覚、温度覚、位置覚などの感覚に異常をもたらす。車の運転では特に位置覚が問題になる。位置覚障害は、日常生活では片手でボタンをはめられない、机の角で脚をぶつけやすいなどで現れる。運転する際、手の位置は視覚で補うことができるが、足先はハンドルなどに隠れて見えないため自覚しにくい。このため、踏み間違いや速度調節の問題につながる可能性がある。
過去にあった踏み間違い事故では、高齢ドライバーが「ブレーキを踏んだ」と証言しても、現場にブレーキ痕がないケースがある。本間医師は「自分の意図した位置に足が動かせていない」とみる。
頸椎症性脊髄症は、磁気共鳴画像装置(MRI)ですぐに診断できる。神経が圧迫されないようにする「椎弓(ついきゅう)形成術」などの治療法も確立されている。
本間医師は「関節の老化が主な要因で、誰にでも起こりうる症状」と指摘。「この障害が社会から認知されていない。自分に症状が現れているかもしれないと自覚するだけでも、防げる事故があるのではないか」と訴えている。
■片足跳びで検査容易
頸椎症性脊髄症による位置覚異常は、通常の診察では幾つかの簡易な検査で調べている。
代表的なのが片足跳び。片足で3回連続で跳ぶと、位置覚障害がある場合は着地時にぐらついてしまう。「例えば駅の階段で位置覚に障害がある人は上るときより、降りるときに不安を抱く」と本間医師。トントンとスムーズに降りられる人は問題ないという。
また、手の親指と人さし指の先できれいな円形の輪が作れる人は正常。異常がある場合はゆがんだ輪になる。膝頭の下を軽くたたく検査では、足先が強くはね上がると障害の疑いがあるという。
高齢ドライバーの運転免許更新では、2017年から認知機能検査が強化されたが、本間医師は「運動機能の検査も充実させるべきではないか。異常が疑われる反応があれば、MRI検査ですぐに診断できる」としている。
■県内発生の4割高齢者
県警交通企画課のまとめによると、県内ではブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故が2014年以降の5年間で計336件発生した。このうち、65歳以上の高齢者による事故は4割の143件に上り、死亡事故10件(11人死亡)は全て高齢者事故だった。
15年7月には、佐渡市の公共施設駐車場で80代男性が車を後退させる際、踏み間違いで歩行者3人をはね、うち2人が死亡した。17年11月には、燕市のスーパー駐車場で60代女性が店舗出入り口付近にいた1人をはね、死亡させる事故が起きている。
2019年6月18日 (火)配信新潟日報
ブレーキとアクセルを踏み間違う事故が後を絶たない。こうした事故の裏に、神経障害が隠れているのではないかと新潟県内の医師が問題提起している。加齢などが要因で変形した関節などが神経に障り、手足の位置感覚に異常を来す「頸椎(けいつい)症性脊髄症」だ。高齢ドライバーによる加害事故が相次ぐ中、医師は「認知症ばかりが原因ではないのでは」と指摘。体の変化を自覚すれば減らせる事故もあるとして、啓発や運動機能検査の充実を呼び掛けている。
問題提起しているのは、脊椎外科の医学博士で亀田第一病院=新潟市江南区=の本間隆夫医師(72)。頸椎症性脊髄症で手足の感覚障害などを訴える患者を治療しているが、報道で伝わる高齢者事故をみていると、「神経障害が疑われるケースが多いと感じる」という。
頸椎症性脊髄症は、背骨の間の「脊柱管」を通る神経が、変形した関節などから圧迫され伝導障害を起こす。脊柱管には脊髄液が流れ、関節や背骨と神経の接触を防いでいるが、生まれつき脊柱管が細い人は圧迫を受けやすく、障害を起こしやすい。
障害では、皮膚が持つ触覚、痛覚、温度覚、位置覚などの感覚に異常をもたらす。車の運転では特に位置覚が問題になる。位置覚障害は、日常生活では片手でボタンをはめられない、机の角で脚をぶつけやすいなどで現れる。運転する際、手の位置は視覚で補うことができるが、足先はハンドルなどに隠れて見えないため自覚しにくい。このため、踏み間違いや速度調節の問題につながる可能性がある。
過去にあった踏み間違い事故では、高齢ドライバーが「ブレーキを踏んだ」と証言しても、現場にブレーキ痕がないケースがある。本間医師は「自分の意図した位置に足が動かせていない」とみる。
頸椎症性脊髄症は、磁気共鳴画像装置(MRI)ですぐに診断できる。神経が圧迫されないようにする「椎弓(ついきゅう)形成術」などの治療法も確立されている。
本間医師は「関節の老化が主な要因で、誰にでも起こりうる症状」と指摘。「この障害が社会から認知されていない。自分に症状が現れているかもしれないと自覚するだけでも、防げる事故があるのではないか」と訴えている。
■片足跳びで検査容易
頸椎症性脊髄症による位置覚異常は、通常の診察では幾つかの簡易な検査で調べている。
代表的なのが片足跳び。片足で3回連続で跳ぶと、位置覚障害がある場合は着地時にぐらついてしまう。「例えば駅の階段で位置覚に障害がある人は上るときより、降りるときに不安を抱く」と本間医師。トントンとスムーズに降りられる人は問題ないという。
また、手の親指と人さし指の先できれいな円形の輪が作れる人は正常。異常がある場合はゆがんだ輪になる。膝頭の下を軽くたたく検査では、足先が強くはね上がると障害の疑いがあるという。
高齢ドライバーの運転免許更新では、2017年から認知機能検査が強化されたが、本間医師は「運動機能の検査も充実させるべきではないか。異常が疑われる反応があれば、MRI検査ですぐに診断できる」としている。
■県内発生の4割高齢者
県警交通企画課のまとめによると、県内ではブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故が2014年以降の5年間で計336件発生した。このうち、65歳以上の高齢者による事故は4割の143件に上り、死亡事故10件(11人死亡)は全て高齢者事故だった。
15年7月には、佐渡市の公共施設駐車場で80代男性が車を後退させる際、踏み間違いで歩行者3人をはね、うち2人が死亡した。17年11月には、燕市のスーパー駐車場で60代女性が店舗出入り口付近にいた1人をはね、死亡させる事故が起きている。