医師すら知らないことも 耐用線量の周知必要 切らない治療_福井・陽子線がん10年目
2020年3月19日 (木)配信福井新聞
県立病院陽子線がん治療センターがオープンした2011年当時、治療の対象は前立腺、肝臓、肺がんなどわずかだった。現在は脳脊髄や食道、小児がんなど治療の幅は広がり、疾患名は38に上る。
16年度、陽子線治療で初の公的保険適用となったのが小児がんだった。小児がんの場合、放射線治療で一般的なエックス線を当てると、後に知能障害が出たり身長が伸びなかったりといった影響が出ることがある。ピンポイントでがん細胞に照射でき、正常な細胞を傷つけることが少ない陽子線は他に比べ優位性があると、国に認められた格好だ。
センターは現在、乳がんの臨床試験も行っている。
高齢になるほどがんになりやすい。「県がん登録」によると、15年の65歳以上のがん罹患(りかん)率は74・9%。人口動態から、少なくとも今後10年はがん患者が増えるとみられる。
同センターの利用者も61歳以上が78・7%を占め、90代も10人以上。センター長の玉村裕保さん(65)は「高齢者は複数の疾患を抱え、手術ができないこともある。副作用も限定的な陽子線は有効」と話す。
ただ、陽子線は治療後も数カ月は効果が持続するとされ、コンピューター断層撮影(CT)などの画像で効果を確認できるのは、約半年後となる。複数の治療経験者は「みんな再発が怖い。血液検査の数値だけでなく、治療がうまくいったことを分かる形で早く示してほしい」と話す。
がん患者同士は、待合室で声を掛け合っている仲でも、連絡先を交換することはなかなかないという。前立腺がんだった県内の70代男性は「患者は孤立している。陽子線治療後に元患者が集い、経験を語り合うサロンのような場があれば、少しでも不安を取り除くことができる」と提案する。
陽子線治療の施設は全国に18ある。どの施設も日本放射線腫瘍学会の「統一治療方針」に基づくため対象疾患、治療法、陽子線の照射量は同じ。データが収集しやすく、利用者が安心できる利点はあるが、医療者にとっては「もう少し照射したいと思っても方針通りにやらないといけない」というジレンマもある。
一方、陽子線治療は専門家以外あまり知られていないのが現状だ。
同学会のガイドラインは正常組織の放射線耐用線量を部位ごとに定めており、一度エックス線を当てた部位には、基本的には陽子線を照射できない。しかし、エックス線治療後にがんが再発し、陽子線を求めてセンターに来る患者も多い。玉村さんは「耐用線量について、医師すら知らないことがある。エックス線治療後の患者の中には『最初に陽子線を当てていれば』と思うケースがある」。医師らの知識を深めるために、大学レベルでの陽子線研究が必要と訴える。
公的保険適用は限定的だが、多くの疾患に対し厚生労働省は陽子線を「先進医療」に指定しており、民間保険の先進医療特約の対象になっている。玉村さんは「治療法を選ぶのは患者さんの権利。われわれ医者側はきちんと選択肢を示すべき」と話す。
2020年3月19日 (木)配信福井新聞
県立病院陽子線がん治療センターがオープンした2011年当時、治療の対象は前立腺、肝臓、肺がんなどわずかだった。現在は脳脊髄や食道、小児がんなど治療の幅は広がり、疾患名は38に上る。
16年度、陽子線治療で初の公的保険適用となったのが小児がんだった。小児がんの場合、放射線治療で一般的なエックス線を当てると、後に知能障害が出たり身長が伸びなかったりといった影響が出ることがある。ピンポイントでがん細胞に照射でき、正常な細胞を傷つけることが少ない陽子線は他に比べ優位性があると、国に認められた格好だ。
センターは現在、乳がんの臨床試験も行っている。
高齢になるほどがんになりやすい。「県がん登録」によると、15年の65歳以上のがん罹患(りかん)率は74・9%。人口動態から、少なくとも今後10年はがん患者が増えるとみられる。
同センターの利用者も61歳以上が78・7%を占め、90代も10人以上。センター長の玉村裕保さん(65)は「高齢者は複数の疾患を抱え、手術ができないこともある。副作用も限定的な陽子線は有効」と話す。
ただ、陽子線は治療後も数カ月は効果が持続するとされ、コンピューター断層撮影(CT)などの画像で効果を確認できるのは、約半年後となる。複数の治療経験者は「みんな再発が怖い。血液検査の数値だけでなく、治療がうまくいったことを分かる形で早く示してほしい」と話す。
がん患者同士は、待合室で声を掛け合っている仲でも、連絡先を交換することはなかなかないという。前立腺がんだった県内の70代男性は「患者は孤立している。陽子線治療後に元患者が集い、経験を語り合うサロンのような場があれば、少しでも不安を取り除くことができる」と提案する。
陽子線治療の施設は全国に18ある。どの施設も日本放射線腫瘍学会の「統一治療方針」に基づくため対象疾患、治療法、陽子線の照射量は同じ。データが収集しやすく、利用者が安心できる利点はあるが、医療者にとっては「もう少し照射したいと思っても方針通りにやらないといけない」というジレンマもある。
一方、陽子線治療は専門家以外あまり知られていないのが現状だ。
同学会のガイドラインは正常組織の放射線耐用線量を部位ごとに定めており、一度エックス線を当てた部位には、基本的には陽子線を照射できない。しかし、エックス線治療後にがんが再発し、陽子線を求めてセンターに来る患者も多い。玉村さんは「耐用線量について、医師すら知らないことがある。エックス線治療後の患者の中には『最初に陽子線を当てていれば』と思うケースがある」。医師らの知識を深めるために、大学レベルでの陽子線研究が必要と訴える。
公的保険適用は限定的だが、多くの疾患に対し厚生労働省は陽子線を「先進医療」に指定しており、民間保険の先進医療特約の対象になっている。玉村さんは「治療法を選ぶのは患者さんの権利。われわれ医者側はきちんと選択肢を示すべき」と話す。