「with ウイルス」が人類の宿命

過去のパンデミックはいずれも、人類の文明発展に伴い発生してきた。かつてシルクロードを行き来した行商人たちが、絹や紙、火薬やガラス製品などの品々を運ぶと同時に、東から西にはペストを運び、西から東へは天然痘や麻疹を運んだように、いやそれよりもはるかに大規模に、私たちはグローバル化した世界で経済活動を行っている。ラクダや馬、船や鉄道に代わり、大型旅客機やクルーズ船で人間を大量に素早く長距離運べるということは、ウイルスや細菌も速やかに世界中を移動できるということだ。

過密化した都市では、ウイルスや細菌が繁殖するのにふさわしい条件が整い、加速する森林伐採によって人里に押し出された野生動物は、人がまだ免疫を持たないウイルスや細菌をも運んできた。発展途上国の低賃金労働者は衛生環境が劣悪ななか、野生動物を食べることで、新たな感染リスクにさらされている。人体、農作物、家畜への抗生物質の乱用は、微生物の抗生物質への耐性も高めている。

いずれをとっても、人類にとって「都合のよい」環境は、微生物にとっても「生存に有利な」環境であり、そのことを視野に入れて、私たちはこれからの地球環境、経済環境を見直していくべきなのだろう。改めて石弘之氏の、「人と病原体との闘いは、未来永劫につづく宿命」というメッセージを受け止め、「with ウイルス」の生活を模索していきたい。