感染不安、無理解の壁 働き方見直し求める声も 「特集」妊娠中の医療従事者
2020年6月17日 (水)配信共同通信社
妊娠中の医師や看護師らが、新型コロナウイルス感染の不安を抱えながら現場で働いている。政府は働く妊婦に対し、在宅勤務や休みを取りやすくするように支援を進めるが、医療従事者の在宅勤務は難しく、勤務先の無理解に不満も出る。そもそもコロナ禍前から人手不足や過重労働が常態化していることが休みづらい原因だとして、働き方そのものを見直すべきだとの声も上がる。
▽申し訳なさ
「感染したら子どもに影響が出るのではないか、出産を受け入れてくれる病院はあるのか。このまま働き続けていいのか悩んだ」。東京都内の病院の救急科に勤務する20代の女性医師は、妊娠初期だった3月下旬の状況を振り返った。
都内で感染が広がり始めた時期で、感染者だけでなく発熱やせきの症状がある人も搬送されてくる。病院側に不安を訴えても「新型ウイルスに関する指針がない」と取り合ってもらえなかった。
同僚の配慮で、感染者や発熱患者の対応から外してもらえた。ただ「人の命やキャリアに関わることが、個人の善意や判断に委ねられている」と、国や病院側が十分な支援制度を設けていないことに危機感を抱いた。
一方で「医師として、緊急事態だからこそ働くべきではないのか」と思ったことも。今も勤務を続けているが、救急車の音に駆けだしていく同僚の姿に「申し訳なさ」も感じている。
都内の別の医療機関で働く妊娠中の産婦人科医の女性(42)も、ゴーグルやビニールカーテンを使い、分娩(ぶんべん)に立ち会っている。「大丈夫なのかなと思うけど、こういう仕事なので(感染の)覚悟もしています」
▽持続性
妊婦は肺炎になると重症化する可能性がある。胎児に影響が出る恐れから新型ウイルスの治療薬候補アビガンは使用できず、感染への不安を抱える人が多い。
民間の調査機関「ニンプスラボ」が5月中旬に実施したアンケートでは、医療従事者の6割以上が出勤を主とする勤務形態だと答え、在宅勤務の難しさが浮き彫りになった。在宅勤務や休業について勤務先に相談できない理由を問うと「言い出しにくい」との回答が最多だった。
働く妊婦への対応として、厚生労働省は、医師の判断があれば在宅勤務や休業ができるよう企業側に義務付けたり、休業補償のため企業への助成金を創設したりしているが、医療現場における実効性には疑問が残る。
休みづらさの背景には、長年是正されてこなかった過重労働もある。20代の女性医師は「医療従事者は限界ぎりぎりまで働いており、コロナ前から『妊娠したから休みたい』と言えない素地があった。自己犠牲の上に成り立つ奉仕には持続性がなく、男性にとっても負担なはずだ」と指摘、働き方を見直すべきだと訴えた。