国内初治療のリアル「感染と背中合わせ」 病院長は語る
新型コロナウイルスの感染者の治療に国内で初めて当たった相模原協同病院(相模原市緑区橋本)の井関治和院長(60)が4日、報道陣の取材に応じた。情報が少なく手探りで治療を進めた当初の状況や、感染の急拡大で院内が疲弊していった様子を回顧。これまで治療した患者は40人弱に上り、井関院長は「経験を生かし、今後起こり得る感染の波を乗り越えたい」と話した。
「新型肺炎に感染したかもしれない」。中国・武漢から帰国したばかりの市民から電話があったのは1月10日のことだった。
2019年12月に武漢で原因不明の肺炎患者が数多く見つかり、翌年1月7日に中国の研究者が新型のコロナウイルスが原因であると発表したばかり。国内での感染者は確認されていなかった。
当時、ウイルスが人から人へ感染するのかも分かっておらず、井関院長は「どういう病気なのか、どう治療すればいいか。全く情報がなかった」と振り返る。
この市民は6床ある隔離病棟に入院し、16日に国内初の感染者と判明した。病院では院内感染を避けるため、医師や看護師は防護服、ゴーグルなどを着用。それでも感染の危険と背中合わせの治療だった。この市民の症状は軽く、すぐに回復したものの、「スタッフは緊張の連続。ただ、その後の治療にこの経験が生きた」と明かす。
2月に入ると、横浜港に停泊したクルーズ船の乗客をはじめ、患者が次々に運び込まれた。市内では別の病院や福祉施設で感染者が見つかり始め、同月中旬からの1カ月間で27人の感染が判明した。
隔離病棟の6床はすぐに埋まったため、隣の病棟を臨時の隔離病棟とし、多い時には同時に12人の治療に当たった。別の病院の医師や研究者と連絡を取り合い、海外の研究成果も参考に治療をしていた。早いペースでの感染拡大に、現場スタッフは疲弊していった。
追い打ちをかけるように、3月6日には20代の研修医の感染が判明。市保健所は病院スタッフや患者計133人のPCR検査を行い、全員が陰性だったことから院内感染はなかったと結論付けた。
病院が感染者の治療に当たっていることが知られるようになると、外来患者が大幅に減った。緊急度が高くない手術が延期されたこともあり、病院収入は前年に比べて4割減少。1945年の開院以来初めてのことだった。
井関院長は「コロナと戦って勝ったとしても、このままでは病院の経営が立ち行かなくなる」と危機感をあらわにする。
それでも、感染者の治療や感染拡大防止に力を入れ続けるという。今月からは感染の不安を感じている市民を対象にした抗体検査をスタートさせる。
「コロナから地域医療を守り、市民のための努力を続けていくのが、私たちの役目」と力を込める。