失職、逮捕、住む場所もなく 技能実習生、コロナ禍の過酷
2020年11月9日 (月)配信朝日新聞
群馬、埼玉両県警が10月以降、ベトナム人の元技能実習生らを相次いで逮捕し、家畜や果物が大量に盗まれた事件との関連を調べている。事件の解明はこれからだが、大量の家畜などを売りさばく組織的な犯行が疑われる一方で、背景の一つとして実習生らの生活苦を指摘する見方もある。「労働者」として急増したベトナム人の中には、新型コロナウイルス禍で仕事を失ったまま、帰国できない人も少なくない。
日本で暮らすベトナム人は近年、良好な両国関係や日本の労働力不足を背景として、技能実習生や留学生を中心に急増している。2019年末時点で前年末から24・5%も増え、約41万人。09年の約4万人から10倍に増えた。
15年末に約6万人だった技能実習生は16年末に中国を抜いてトップに。今やベトナムは技能実習生の最大の送り出し国で、実習生約41万人のほぼ半数にあたる約22万人を占める。留学生は約8万人で、約14万人の中国人に次いで多い。
一方、法務省によると、失踪した技能実習生は18年までの5年間で計約3万2千人にのぼる。ベトナム人が約1万4千人で全体の45%を占め、最多だ。
行き場を失ったベトナム人の技能実習生や留学生を保護している寺がある。4日、群馬県に近い埼玉県本庄市の山あいにある大恩寺を訪ねると、様々な事情を抱えて助けを求めたベトナム人たちが暮らしていた。
ベトナム人の尼僧で在日ベトナム仏教信者会会長のティック・タム・チーさん(42)がこの春、大恩寺を拠点にするようになり、困り果てたベトナム人の若者たちが頼って来るようになった。技能実習生や留学生、出頭したオーバーステイ(超過滞在)の人など約40人が、帰国できるまで共同生活を送っている。
境内ではベトナム語の経が聞こえ、特有の香辛料の香りが漂う。まるでベトナムにいるようだ。
■方言を聞き返すと「ばかやろう」と怒鳴られ
「あまりにつらく、最初は日本人が嫌いになった」。1週間前にやってきたニャットさん(28)はそう言って、これまでの境遇を語り始めた。2016年に技能実習生として来日。熊本県でビニールハウスを組み立てていた。来日前には月給約17万円と言われていたが、実際は約9万円。1日10時間働いても、日本人に払われていた残業代は払われなかったという。
田んぼに置かれたコンテナに3人で住まわされた。シャワーは野外で、寒風が中に吹き込んだ。それでも家賃として2万円を差し引かれていた。
方言が聞き取れず聞き返すと、「ばかやろう」と怒鳴られたり、蹴られたりした。耐えられなくなり、1年で逃げ出した。失踪者向けの情報サイトで、埼玉での溶接の仕事を見つけた。東京五輪の国立競技場に使う梁(はり)なども作っていた。
そこでは一緒に働いていた日本人にやさしくされ、今は「日本が大好き。本当は残って働き続けたい」と思っていた。
だが、新型コロナの影響で失職。親に仕送りした金の一部を送り返してもらってしのいでいた時、オーバーステイで逮捕された。出入国在留管理局から一時的に釈放される「仮放免」を受けたが、住む場所はなかった。大使館を頼ると、寺を紹介された。
ニャットさんはすでに来日前の借金を返し終わり、ある程度は親に仕送りができていた。「わしはまだ親から少し金を送ってもらえたが、来日したばかりの実習生は借金も抱え困っている」と同胞を思いやった。