すべて公表 2県だけ 2020年11月13日 (金)配信読売新聞
12日に国が指定状況を明らかにした新型コロナウイルスの感染疑い患者らを検査する「診療・検査医療機関」について、31都道府県が個々の医療機関名を非公表としていることが読売新聞の調査でわかった。風評被害などの懸念があるためだ。しかし、患者にとってはどこで検査を受けられるかが分かりづらく、公表に踏み切る自治体もある。
患者殺到や風評 懸念
「公表をすれば、一部の医療機関に患者が殺到したり、風評被害を受けたりする懸念がある」。個々の医療機関の名前を非公表とした東京都の担当者は、こう説明する。
診療・検査医療機関は、新型コロナの検査が受けられる身近な病院や診療所などで、都道府県が指定する。感染の疑いがある人は、かかりつけ医などに電話で相談し、そこが指定機関でない場合は近くの指定機関を紹介してもらう仕組みだ。
都では、医療機関側から非公表を要望する声が寄せられたため、「医療機関の協力を得るには非公表にするしかない」と判断した。この結果、目標としていた3000か所を指定。鼻の粘液などの検体採取の件数は、ピーク時に予想される検査需要を上回る1日当たり6万5000件を確保できる見込みだ。非公表としたため、検査を希望する人からの電話が都の相談センターに集中するとの懸念もあるが、担当者は「対応できるよう十分な体制を整えている」と話す。
指定機関の名前の公表について、厚生労働省は「各自治体に判断をゆだねている」との立場だ。読売新聞の集計では12日時点で、非公表としたのが31都道府県。福島、富山、愛知など10県は、同意を得た医療機関など一部のみ公表とした。全て公表するとしたのは、埼玉と高知の2県にとどまった。
埼玉県の担当者は「公表しなければ、相談センターがパンクする恐れがある。患者がどこも受診できなくなることは避けなければならない」と強調する。ただ、同県では、1200か所の指定を目指しているが、現状では824か所にとどまっている。県では、指定機関に1か所あたり50万円の協力金を支給する県独自の支援を行っており、「より多くの医療機関に協力を求めたい」としている。
検査能力 不安な自治体も
この日示された指定機関の検査能力は、全都道府県で最大需要を満たす数値となっており、厚労省幹部は「最低限の施設数は確保できた」とする。しかし、患者が一部の医療機関に集中するなどして検査が受けられない人が出る恐れもあり、さらに指定機関が必要と判断する自治体もある。
山形県では、257か所を指定し、最大需要を上回る1日当たり4400件の検査能力を確保した。しかし、県の担当者は「ぎりぎり対応できる数字で、十分な対応をするには300か所が必要」と話す。
一方、群馬県の指定機関は329か所にとどまり、目標の400か所に届いていない。県医師会の川島崇副会長は「かかりつけの患者以外に多くの患者を診療することや、院内感染の不安が広がっている」と分析する。
財政的な支援が少ないとの指摘もある。指定機関への補助金は、1日あたりの患者数の想定(最大20人)を下回った場合のみ支給される仕組みだ。前橋市の開業医は「想定を上回る患者を一生懸命診察しても補助金がゼロでは報われない」と話す。
全国知事会は12日、西村経済再生相とオンライン会議を開き、「診療・検査医療機関」への支援の充実などを国に求める緊急提言をした。補助金を算定する際の基礎となる想定患者数の拡大や、受け入れ患者数に応じた支援、協力金の支給などを求めている。
政府の分科会メンバーの岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は「迅速な診察と検査のためには、医療機関名の公表が望ましいが、病院側の懸念も理解できる。まずは患者が検査を受ける際のルートが変わったことを広く知らせることが重要だ」と指摘している。