集団多様化、収束見えず 欧米で猛威、募る危機感 「表層深層」国内感染者10万人超
2020年10月30日 (金)配信共同通信社
新型コロナウイルスの国内感染者は10万人を超え、収束への出口は見えない。外国人や歓楽街などクラスター(感染者集団)の多様化で、市中感染が拡大。一方で、治療方法の改善により重症や死亡の割合が減る明るい兆候もある。欧米では再流行が猛威を振るっており、専門家は冬場を前に「日本もクラスターを防がないと同じようになる」と危機感を募らせる。
▽多種多様
「さまざまな場所で感染が起きている」。29日に開かれた政府の新型コロナ感染症対策分科会の終了後、記者会見に臨んだ尾身茂(おみ・しげる)会長はこう切り出し、全国各地で散発するクラスターに懸念を示した。
クラスターの発生は当初は医療機関や高齢者施設が主だったが、接待を伴う飲食店や大学の部活動など多様化してきた。尾身氏は「クラスターを介して感染はどんどん拡大する」とし、特に飲食店がひしめく歓楽街での対策では「気軽にPCR検査を受けられる環境づくり」を求めた。
日本で暮らす外国人の間でもクラスターが広がっている。医療機関の受診方法が分からなかったり、マスクを着ける習慣がなかったりと、複数の要因が挙がる。分科会メンバーの一人は「把握数は氷山の一角で、もっと発生しているのではないか」と指摘する。
▽治療安定
新規感染者の微増傾向と反比例して、重症や死亡に至る割合は右肩下がりだ。厚生労働省に助言する専門家組織の分析によると、1~4月の感染者の死亡割合は約5・6%だったが、6~8月では1%を切っている。
「当初は手探りだったが、治療方法が安定してきた」。重症患者の治療に当たる名古屋大の山本尚範(やまもと・たかのり)医師は振り返る。
8月上旬の「第2波」のピークを迎える前に、日本を含め各国から治療法とその効果に関する論文が多数出た。それらの情報を医療関係者で共有して治療法を改善してきたという。
例えば、新型コロナでは重い呼吸不全の症状が現れ、あおむけのままだと酸素の取り込みが悪い。約12時間ごとのあおむけとうつぶせの繰り返しが、患者の呼吸状態の改善につながった。トランプ米大統領も治療に使ったステロイド系抗炎症薬や、抗凝固薬の投与が標準治療として確立。山本医師は「回復期間が早まり、病床の逼迫(ひっぱく)も抑えられた」と話す。
▽水際対策
感染拡大が深刻化する欧州では外出制限の再実施など、市民生活を強力に規制して封じ込めに躍起だ。空気の乾燥と気温が下がる冬を迎えたのに加え、夏の休暇で人の流れが増えた影響が表面化したとみられている。
日本に目を向けると、9月以降の1日の新規感染者数は400~700人で推移し、微増ながら急拡大の局面ではない。「感染対策と経済活動の両立」を掲げる中で、日本政府は入国制限を緩和する方針を示している。感染者の累計が10万人を超えた29日、西村康稔経済再生担当相は「東京五輪の成功のためにも、水際対策を講じながら海外との往来を広げるのが大事」と語った。
だが空港検疫では連日10人弱の感染者が判明、累計は1100人を超える。感染が収まっているとされる国からの外国人の感染者が見つかるケースも少なくない。
尾身氏は「(4月の)緊急事態宣言の一つの原因は水際対策の遅れだった。各国の情報をうのみにせず、状況把握が重要だ」と課題を挙げた。