第60回日本呼吸器会学術講演会(会長・長谷川好規国立病院機構名古屋医療センター院長)が9月20~22日、WEB開催された。20日には緊急企画「新型コロナ感染症について」がライブ配信された。石川県立中央病院呼吸器内科の西耕一科長は「喫煙・COPD とCOVID-19肺炎」をテーマに話し、喫煙とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の重症化リスクであり、自分自身と家族、同僚を守るため、この機会に禁煙をしてほしいと訴えた。(MMJ編集長・吉川学)
西科長は最初に、2014年に確定診断されたMERS(中東呼吸器症候群)535例における症例対照研究で、糖尿病、COPD、心疾患、現喫煙が、MERSの独立した発症リスクだと述べた。今回のCOVID-19についても、WHO(世界保健機関)が喫煙者は非喫煙者と比較して重症化しやすいとした2020年5月の声明を紹介。COVID-19は主に肺を障害する感染症であり、喫煙は肺機能を損なうため、身体が新型コロナウイルスや他の病気と闘うのを困難にするとした。
米CDC(疾病対策センター)も年齢にかかわらず重症化リスクが高くになる基礎疾患として、がん、慢性腎疾患、COPD、臓器移植による免疫不全状態、BMI 30以上の肥満、重篤な心疾患、鎌状赤血球症、2型糖尿病を挙げ、日本でも「COVID-19診療の手引き第3版」で、COPDは重症化リスク因子、喫煙歴は要注意な基礎疾患に挙げられているとした。
ICUに入院した重症患者3988例を対象にした調査では、1926例が死亡。64歳以上で死亡率が有意に高く、多変量解析では独立した死亡のリスク要因は高齢、男性、高FiO2、高PEEP、低P/F比、COPD、高コレステロール血症、2型糖尿病の順だと紹介。さらに、7つの臨床研究から1576例を登録したメタ解析では、呼吸器疾患で有意に重症化率が高く、19の臨床研究から11590例を登録したメタ解析では、現喫煙者で有意に重症化リスクが高いとした。
この機序については、ACE2(アンジオテンシン変換酵素II)はSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の標的受容体で、存在する心臓、動脈、肺、腎臓、消化管で感染しやすく、SARS-CoV-2はSARS-CoV(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)に比べACE2との親和性が10~20倍高いと説明。ACE2の発現は、現喫煙者、既喫煙者、非喫煙者の順に多いと述べた。肺組織を遺伝子レベルで解析すると、既喫煙者は非喫煙者に比べ、ACE2遺伝子発現が25%増加していたという。さらに、ACE2はニコチンにより増加するとした。
一方、重症患者では特殊な免疫応答がみられ、インターフェロンが低下し、サイトカインが上昇する。これらから重症化要因における喫煙の影響として、IFN反応の低下、NK細胞の機能障害と消耗、T細胞の機能障害と消耗を指摘した。
最後に2020年4月の日本呼吸器学会の提言を示し、喫煙はCOVID-19による肺炎重症化の最大のリスク、三密の喫煙室は濃厚接触の場である、家にいても家族・近隣への受動喫煙を増やさない、自分自身と家族、同僚を守るため、この機会に禁煙をしてほしいと訴えた。