コロナ重篤化防止に進展 うつぶせが肺の回復促す 呼吸器離脱早める効果 「医療新世紀」 2020年11月10日 (火)配信共同通信社
世界的流行がとまらない新型コロナウイルス感染症。流行当初は手探りで進められていた集中治療室(ICU)での管理が、専門医の情報共有によって進展してきた。患者をうつぶせにするなどの工夫で人工呼吸器からの離脱を早め、重篤化を防ぐことができつつある。最新の治療戦略について専門家に聞いた。
▽インフルの反省
新型コロナ治療で注目を集めたのが人工心肺装置「ECMO(エクモ)」だ。肺炎が重くなって人工呼吸器を使っても必要な酸素を取り込めなくなった患者に装着し、いったん体外に取り出した血液に酸素を供給して体に戻す。肺の機能を代替して負担を減らす。
この治療に習熟した医師らがつくったのがECMOネットだ。日々の症例数をインターネットにも公開している。関連学会の専門医認定施設、指定施設を中心に全国600以上の医療機関が参加し、人工呼吸器やECMOの装着症例をほとんどカバーできているという。
学会のECMOプロジェクト・リーダーとしてとりまとめに当たった「かわぐち心臓呼吸器病院」の竹田晋浩(たけだ・しんひろ)理事長によると、取り組みの基には、2009年の新型インフルエンザ流行で日本のECMOの治療成績が高まらなかった反省がある。
「新型コロナがインフルエンザと同じく呼吸器を主症状とする疾患なら、重症患者にはECMO治療が有効だと当初から考えられた」と話す。
▽24時間の支援
ただ、全国で等しく適切な治療ができる環境はない。設備があっても経験の浅い医療機関もある。そうした現場から専門医に相談できる支援体制が2月にスタート。現在は50~60人の医師が24時間体制で電話相談に応じ、ECMO患者の搬送や受け入れ、治療への参加、重症症例の経過の追跡など役割は多岐にわたる。
そうした情報共有の中で分かったのが、肺炎が進んで急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至った患者で、肺を早期回復させることの大切さだ。鍵になるのが「腹臥位(ふくがい)」。人工呼吸の際、患者をうつぶせにすることが有効だと分かってきた。
体の左右に枕のような支えを置き、顔は横向きにする。竹田さんは「あおむけでは重力で酸素を取り込む機能が阻害される。それを避け、呼吸の動きと血流をよくする。ARDSでは以前から推奨されていたが、新型コロナ患者でも有効性は明らかだ」と話す。
もう一つは、人工呼吸の際にあまり圧力をかけず、酸素濃度も抑えること。吸う、吐くの際に圧力をかけるほど、また、酸素濃度が高いほど肺が傷み、回復が遅れる。
▽現場負担が課題
ECMOネットのデータによると、こうした工夫により、第1波流行時には人工呼吸とECMOの患者比率は4対1だったのが9月末には7対1になった。陽性者が重症化する割合はさほど変わらないが、重篤になる割合が減ったことを示す。
ただ、こうした治療は現場の負担も大きい。
竹田さんの病院では、肺炎が改善しなければ早期に人工呼吸器を装着する。うつぶせにするのは1日12~16時間だが、人工呼吸器を装着した患者の体位を変える際には、1度に6人が携わる必要がある。
コロナ以後、14床の一般病床を4床のICUに転用したため、一般の患者受け入れが減った。例年インフルエンザがはやる冬場には、患者を断ることにもなりかねない。医療制度上の改善、支援が必要だという。
竹田さんは「集中治療の専門家が不足し、育成も急務だ。患者と主治医という1対1の医療でなく、ICUを含むチーム医療として取り組む必要がある」と指摘している。(共同=由藤庸二郎)